1割まで落ち込んだ売上も7~8割まで回復
幾度も発令と解除を繰り返した緊急事態宣言は、感染者数の減少により2021年9月末をもって解除され、一度は飲食業界も回復基調へと転じた。その一方で2022年3月現在ではオミクロン株の流行により国内の累計感染者数は400万人を超えるなど引き続き猛威を振るっている。
大きな変化を余儀なくされているであろう飲食業界における変化を捉えるべく、今回の調査では「uniiリサーチ」を活用したオンラインインタビューを飲食業界関係者に実施した。飲食業の店舗経営者およびマネジメント層3名を対象にインタビューを行った(※取材は2021年12月に実施)。
今回の調査では、表1の通り様々な業態へのインタビューを行ったが、いずれの業者についてもコロナ禍に突入した初期の売上は平常時の10%まで落ち込んでいた。
その中でも事業を閉じる判断を行った事業者はおらず、「お客様の日常の楽しみを守るため」「従業員の雇用を守るため」など理由は様々であったが、いずれの店舗もコロナ禍を耐え忍んだ。
2021年12月時点では、9月末の緊急事態宣言解除後どの事業者においても客足が回復したことで、売上は7~8割まで回復していた。
そんなコロナ禍を乗り越えるにあたり、大きく3つの変化を見出すことができたため、事例を交えて紹介をしていく。
変化(1)IT技術の導入と感染対策
前回の消費者向け調査でも、感染対策意識の高まりから消費者の購買行動に変化があったことを述べたが、飲食店側でも消費者に合わせた対応を行っていた。
特に象徴的だったのが、都内で全15店舗を運営するA社の事例だ。今回インタビューを行ったA社のカフェ店舗では「完全キャッシュレス化」を行っていた。完全キャッシュレス化とはつまり、現金の扱いを停止し、クレジットカードと各種電子決済サービスのみに対応したということだ。
コロナ禍前は現金とクレジットカードでの決済方法を用意していたが、コロナ禍を契機に現金での支払いを取りやめ、完全非接触に踏み切った。顧客からは現金で支払いたいという声は多くいただくとのことだが、単なる感染対策を上回るメリットを感じているとのことだ。
第一のメリットは、「株主へのアピール」である。株主としても店舗が感染源になりクラスターが発生するリスク懸念が大きく、非接触決済への移行は感染対策の徹底を強くアピールする材料になるとのことである。
第二に「防犯対策」が挙げられる。現金を扱うことがなくなり、夜間の少人数スタッフでの店舗運営における心配が軽減された。
第三に「人件費削減」である。会計の締め作業で小銭が合わないということが生じなくなった。実際に会計の締め作業にかかっていた時間も約50%に削減されたという。現金支払いを廃止する完全キャッシュレス化は、かなり時代を先取りした先進的な取り組みだが、追随する店舗が増えてくる可能性がある。
また決済だけではなく、接客のこだわりで固くオーダーエントリーシステム(手書き伝票による注文などをデジタルに置き換えるシステム)を採用してこなかった事業者が感染対策のために採用するケースが増えてきているという話は複数の事業者から聞かれた。巨大な市場である飲食店のDX化はこれからさらに進んでいくはずで、ビジネスチャンスが多く生まれそうだ。