手触り感? 温かみ? 「感じの良いオンライン」とは
MZ:「感じの良いオンライン」というのは、人によって解釈に違いが出てきそうです。社内でイメージを共有し、同じ方向に向かうために、どのようなことをされていますか?
山内:そうですね。「感じの良いオンラインとは何か?」に対する思いや考えは、一人ひとりの社員それぞれにあると思っています。だからこそ、「どこまでが無印良品としてやるべきラインか?」「これは本当にお客さまのためになるのだろうか?」などと、みんなで話し合うことを大切にしていますね。機能を1つ考えるにしても、何かを発信するにしても、細かなところまで一つひとつ確認しながら進めています。
MZ:では、OMO領域に注力している篠原さんにとって「感じの良いオンライン」とは、どのようなものでしょう?
篠原:ひとことで言うと、「手触り感のあるサービス」ですね。入社時に社長の堂前が「お客さまが自ら考え、選ぶ余白は大事だ」と話していたのがすごく印象的で。「手触り感」と「余白のある状態」の2つは常に意識しています。

テクノロジーがどんどん進化し、我々の生活もますます便利になっていく中で、「操られているのでは?」とお客さまが感じてしまうことは、ともすれば起こり得る話です。レコメンドに関しても、無印良品のECではデータを活用した高度なパーソナライズはあえて行っていません。お客さまがしっかり自分の生活を思い浮かべて、「この商品が最適だ」と腹落ち感をもって購入していただけるようなECにしていきたいですね。
山内:パーソナライズに関しては、やり過ぎると店舗での接客と乖離が出てきてしまい、お客さまに違和感を抱かせてしまう可能性もあります。カートに入れた商品に合わせて一緒によく購入されている商品を表示する、くらいのレコメンドはしていますが、お客さまの行動を先読みして……というような高度なパーソナライズは行っていません。あくまで、店舗での気を利かせた接客のレベルですね。
MZ:SNSプラットフォーマーでのキャリアがある篠原さんにとっては、デジタルやテクノロジーの捉え方自体が変わった部分もあるのではないですか?
篠原:そうですね。効率化や自動化を追い求める側にいた人間として、無印良品の考え方はとてもセンセーショナルです。そもそも無印良品は、資本主義社会においての競争に1人で勝ちたいのではなく、みんなで手を取り合って共に大きくなっていきたいと考えているんですね。元プラットフォーマーとしての経験もあるので、自分の中でズレを感じる瞬間も時々あります。だからこそ、先ほど山内が話したように「感じの良いオンラインとは何か」をみんなで会話しながら、一つひとつ進めることを大事にしています。正直面食らっているところもありますが、総じてとてもおもしろいです。
5,900万DLを超える「MUJI passport」が作る「お客さまと店舗のつながり」
MZ:無印良品のデジタルサービスのベースにあるのが、「MUJI passport」のアプリであると思います。「感じの良いオンライン」の実現に、どう寄与しているでしょうか?

山内:MUJI passportは、開始当初から「お客さまとの関係づくり」を最重要事項としています。当然、商品やサービスのご紹介もしていますが、「おたより」と呼んでいる各店舗からの情報発信に力を入れてきました。このおたよりでは、その店舗のある地域の情報や店舗スタッフのおすすめの商品の使い方、季節に合わせた商品紹介などを、各店舗のスタッフが自分たちで考えて、日々発信しています。今まででおおよそ4万通のおたよりが店舗から発信されており、これを楽しみにしてくださっているお客さまもいらっしゃいます。「お客さまと店舗がつながる」ことを考える上で、MUJI passportは非常に重要なものです。