短期的な経済合理性よりも大事なこと
高橋:経済合理性を基本とするのが投資家ですもんね。そこに対して、大石社長はミッションドリブンなことをやっているので、相容れないのでしょう。
ただ、そういった投資スタイルによって安売りをする事業者は雨後のタケノコのごとくたくさん出てくるけれど、それってつまりはユニークさがなくなっていくということなんですよね。その点、UPDATERさんは、他社がやらないことをやることで圧倒的なポジションを取れました。その後、世の中の流れが脱炭素の方向に一気に振れたので、オンリーワンで勝つ存在になれたというのは、マーケティングにおいて様々なヒントを含んでいるなと感じましたね。
短期的に「合理」に振るより、実は大石社長のやり方のほうが、合理性が高かったということが、マーケティング的に見てもすごくおもしろいなと。

大石:まだ勝ってませんけどね(笑)。
高橋:いやいや(笑)。独自性を守るとか、世の中の今後の流れにフィットするといった中長期的な目線でプロダクトを作ったほうが確実にいいと私は思っています。そういった意味でも、自分が信じたものをやり続けたり、いずれ流れが変わると信じたりするのは、すごく大切なことなんだと改めて思いました。私だったら電気を安売りしちゃうなって思って(笑)。
マーケあり!ポイント
・大石さんは、「おもしろくてもうかることをする」「富を多くの人に分散させる」といったテーマを譲ることなく事業を継続してきました。短期的に売上が立つことを信念なく実行するのではなく、市場の声を聞きつつも信念・こだわりを譲らなかったことで、結果として独自のポジションをマーケットの中で獲得し、事業成長に成功しています。
生産者の顔が見える事業は、社会課題を解決する可能性を秘めている
高橋:安売りが常態化する中で勝ち抜く秘策になったとも思うのですが、ブロックチェーンで電気がどこから来たかわかるようにしたのは、価格ではなく価値で物を買ってもらうためのポイントとしてもすごいアイデアだなと思いました。
大石:ストーリーはいくらでも嘘をつけるからこそ、証明手段が大切だと思ったんです。顔の見える電力は、生産者の顔が見え、ブロックチェーンでそれを証明しています。これがストーリーに共感してもらう上で重要だなと。
顔が見える電力の仕組み自体はすでにあったのですが、「顔が見えても、自分の家にその電気がどれだけ来ているのかわからない」といった声があって証明する手段を検討していました。その中で耳にしたのが、ブロックチェーンで電力の実証実験をやるというニュースでした。ブロックチェーンが証明手段に使えるらしいということを知り、研究し始めたのがきっかけです。
高橋:マーケティングの世界には「Reason To Believe」という概念があって、要するに「商品のベネフィット(価値・便益)を顧客が信じられる理由」を示すことが大事という考え方なんですね。「98%の人が満足しています」みたいな魅力的な文言も、エビデンスがないと説得力を持たないということなのですが、それと同じだなと思いました。
その点において、ブロックチェーンは最強のエビデンスですよね。しかもブロックチェーンが全然話題になっていないときに作り始めているというのが、さらにすごいなと。
大石:2018年に作ったので、ブロックチェーンが話題になるより随分前でしたね。なので当時は、電力でこんなことをやりたいとか、お姉さんから買った電気を証明したいみたいなことを言っていたら、よくわからないことを言っている人がいて、みんな首をかしげていました(笑)。