電力の小売り事業がうまくいった理由とは?
高橋:それにしても、まったくの異業種から始めて、よくここまで軌道に乗せられましたね。かなりなことだと思います。
大石:異業種だったからじゃないですかね。電力のことに詳しい方だったら、お姉さんやアイドルの電気を買うなんて、何バカげたことを言っているんだと一蹴されると思うので。
高橋:2021年に読んだ本にあったのですが、ある時期を境に、エキスパートがイノベーションを起こす数よりも、ゼネラリストがイノベーションを生む数のほうが上回ったそうです。なぜかというと、人類の英知が巨大化しすぎて、先人たちが究めてきた学問を究め続けるだけの専門家は、他の領域を知らないから新しい何かを発見できなくなっていく。一方で、ゼネラリストは幅広い業界で経験をしているから、他の業界でうまくいったことをこっちに当てはめればイノベーションが起こるということがわかるのだと。
大石社長の話はまさにそれだなと思って、凸版印刷時代に作ったサービスがヒットした後に電気に移ったこととか、やはりいろいろな経験をして、様々なトライアルがあった中で出てきた感覚や知見を電力に当てはめたからこそ見つけられたものがあったのだと、お話を聞いていて思いました。

高橋 飛翔(たかはし・ひしょう)
1985年生まれ。東京大学法学部卒。大学在学中にナイル株式会社を創業。
ナイルにて、累計1,500以上の法人支援実績を持つデジタルマーケティング支援事業や自社メディア事業を発足。2018年より新規事業として月1万円台でマイカーが持てる「おトクにマイカー 定額カルモくん」をローンチ。自動車産業における新たな事業モデルの構築に取り組んでいる。
あらゆるものの「顔」を見える化して、価値で選ぶ時代に
高橋:今後についてはどのように考えていらっしゃるのでしょうか?
大石:顔が見える事業を電力以外にも広めていきたいと思っています。たとえばファストファッションによるウイグル自治区のアパレル問題とか、顔が見えない安さ重視の世界には、大量生産、大量消費といったことから労働力搾取や環境破壊まで、ものすごく社会課題が潜んでいるんですよね。
我々が1日を過ごす中で必要とする服や食べ物で、生産者を知っているものは何%ありますか?多分、何も知らないということがほとんどだと思うんです。
だから安さに惹かれるけれど、安い洋服がウイグル地区で作られていて、二酸化炭素がこれだけ排出されていてってタグに書かれていたら、買うのを躊躇しますよね。バレンタインのチョコレートだって、ガーナの子供たちが、味も知らず、安い賃金で働かされていると思えば、アイラブユーなんて言って渡せないでしょう。
だからこそ、電気に限らずあらゆるもので顔の見える化をしていければ、透明性が増して、結果的に社会課題の解決が進んでいくだろうと思うんです。「顔が見える」というのが付加価値になって、価格ではなく価値で選ぶという判断が当たり前になったらいいなって。
高橋:商品を選ぶファクターは、価格や綿100%といった製品情報だけですもんね。作り手の顔が見える比較ファクターがあれば、選択肢になりうると思います。
大石:安さだけで選ばなくなることで+αの経済もできて、インフレ化を進めることにもなると思うんですよね。経済の再構築と併せて、人と人とのつながりを再構築するといったことを、これからやっていきたいと思っているところです。
マーケあり!ポイント
・どんなに美しいストーリーも、高い評判もそれを裏付けるものがなければお客様は説得力を感じません。電力業界にあった「誰が作った電気かわかっても、自分の家にその電気がどれだけ来ているのかわからない」「本当はまったく、その人が作った電気が届いていなかったかもしれない」というブラックボックスになっていたストーリーを、大石さんはブロックチェーンで強力に裏付けし、価格ではなく価値で選ばれる電力会社への道を切り開いていきました。
・大石さんがイノベーションを起こすことができたのは、異業種に飛び込んだからこそ。今いる場所での当たり前や、手応えは他の業界でも活かすことができる可能性があり、それがその業界にいる人たちにとっては大きなイノベーションになりえます。1つのテーマを極めることも重要ですが、大石さんのようにまったく違う世界に挑戦することのすばらしさ、可能性は計り知れないものがあります。