多くの社員が既存クライアントに集中
ここまで述べてきたようなマネジメント方針により、当社のチャーンレートは極めて低い水準となっています。特にここ数年では、いわゆる品質不満による解約はほとんど発生していません。このような既存顧客とのお取り引きの強固な基盤をベースに、私を中心とした、事業部の幹部が新規営業の責を負うことで、成長を加速させています。このフォーメーション・役割分担により、自社としての利益創出・成長も、クライアントへの提供品質も、どちらも犠牲にすることなく、ベストバランスを実現できています。
具体的には、お任せいただいたアカウントやプロジェクトにおいて成功状態を作れることが当社の提供する「商品」であると考えているため、ほとんどの社員に関しては、まずこれをしっかりと提供できるよう既存クライアントに集中してもらっています。その「商品」を、新たなクライアント獲得に向けてセールスしていくことは、また別のケイパビリティの発揮が必要となるため、合理的に考えて役割を分けている側面もあります。
担当者がセールス活動に忙しい場合、自社の広告効果向上や、品質改善活動に割かれる時間がより短くなってしまうことは自明のため、クライアントにとっても喜ばしくない状況を生みます。解約がほとんど発生しないことで、それを消し込むような無理な営業活動のスパイラルも発生せず、また、品質への信頼によって、当社とお取り引きいただいた企業様から別のお取り引きが発生・発展していくことも非常に多く、これらは当社の明確な成長源泉となっています。
低品質なサービスが提供されてしまった結果としてのトラブル対応や、それをリカバリ、挽回する仕事の負荷というものは、クライアントに対峙するメンバー一人ひとりの神経を大きくすり減らします。品質に対し自信を持ってクライアントワークが行えることは、社員の精神性を健全なものとすることにもつながるのです。
クライアントを幸せにすることと同じように、その活動を通して、働く者が本質的に幸せであることが、我々のビジネスを真にサステナブルに展開する上で重要であると私は考えます。やはり、本質的なマーケティング活動・支援によってクライアントのビジネスグロースを具体的に実現し、その成果や、クライアントからの評価、リアルな感謝のお声などをいただくことでもっと成長しよう、もっと貢献しようと思える。このサイクルが、最も基本であり強い、モチベーションの源泉なのだと思います。
浪漫も算盤も妥協しない
自分たちが提供するサービスが何であると定義するのか。一人ひとりの社員がサービスの品質に集中できる状態をどう作るのか。品質と、自社の財務成長との両立をどう実現させるのか。そのための組織マネジメントは何をドライバーとするのか。それを成立させる人事考課含めた制度や、組織の構図はどうデザインするか。これらのことは部分的に変えるということが実に難しく、ひとつなぎの設計・構造が必要なものです。故に、今回ご紹介した当社における実践が、どこまで他の企業様にとって具体的に・短期的に取り入れられるものかはわかりません。
また、これからさらに拡大していく事業規模や組織規模を考えたとき、引き続き当社の現在のやり方・あり方がベストであり続けるとも考えていませんし、すべてのエージェンシーが当社と同じスタンスをとることが有効であるとももちろん考えていません。ただ、浪漫にも算盤にも妥協せず、クライアントにも社員にも本質的に幸せになってもらい続ける中で、どこまで成長を創れるか。これは我々のビジネスモデルへの挑戦であると捉えています。業界の“負”と対峙し、そして変革するチャレンジを、これからも続けていきます。