業務とミッションをいかにコネクトさせるか
富永:マーケティング施策を開発する時に、ブランドの機能的/情緒的便益やパーソナリティを訴求することはマーケターに共通の作法だと思います。一方「マーケティング施策はミッションやビジョンとコネクトしているのか」と問われると、多くの企業においてはそうなっていないケースがあると感じていて。マーケティングのご経験もお持ちの永島さんはどうお考えですか。

永島:つくった広告を話題化させることが目的になってしまうと、ミッションとは当然距離が生まれますよね。私は過去に「海外で仕事をしたい」と思ってソニーへ入ったのですが、海外勤務が目的化していたために、ある時「ここで何がしたかったんだっけ」と立ち止まってしまったんです。目の前の業務とミッション・ビジョンがつながっていないと、手段の目的化は避けられません。
徳重:私自身は事業長として、ミッションに合わせたメッセージを全メンバーに毎週発信し続けています。社としてもミッションを体現したことに対する表彰や称賛は積極的に行っていますね。
営業担当者が顧客と対峙する際に、ミッションと合致した振る舞いや提案を徹底できていなければ、クライアントからの信頼や商材の価値が低下してしまいます。たとえば「ホットペッパーグルメを使って100名のユーザーを送客する」とクライアントに提案したとしましょう。来店し得る100名のユーザーをホットペッパーグルメに集めたとしても、掲載する店舗原稿や広告などの打ち手がメディアの強みを活かせる内容と乖離している場合、アンマッチが生じます。すると送客ユーザーは減少し、提案時にクライアントが感じた価値を毀損しかねません。企業のミッションは商品思想や顧客接点に色濃く反映されるものなのです。
社内に対してマーケティングができること
富永:コトラーが以前「CMOは仕事の半分以上を顧客に向けてはならぬ」と言っていました。つまり「社内向けの啓蒙やコンセンサスの形成に時間を使わなければ、良い施策は打てない」という戒めの言葉と捉えられます。今日議論してきた課題を踏まえ、マーケティングは社内に対してどんなことができると思いますか?
徳重:私はクライアントと対峙する際、常に相手の「性格」と「インセンティブ」を考えるようにしているんです。インセンティブは、エンジニアなら「新しいものをつくりたい」マーケターなら「新しい施策を仕掛けたい」人事なら「制度を良くしたい」という具合で、立場によって異なります。社内でも同じ視点でメンバーを観察し、ある時は各人の性格とインセンティブを紙に書き出して把握していました。
永島:素晴らしいリーダーですね。個々人のインセンティブを把握するのは大変なので、書き出せるくらい言語化できているのは相当すごいです。
徳重:性格やインセンティブがわかると、相手をこちらの思惑に沿って動かせるようになります。そうするとコミュニケーションコストが減って各自が自身の仕事に集中でき、リソースをクライアントに向けられる。社内をマーケティングすることは、あらゆる仕事を進める出発点になると思います。
永島:企業にパーパスがあるように、働く従業員もそれぞれのパーパスを持っています。両者の接続は人事の使命ですが、その前に企業のパーパスを従業員に認知・理解してもらわなければ事は始まりません。知ってもらうための働きかけにおいては、マーケティングの視点が必要だと感じました。
富永:人のモチベーションや好奇心を、いかに企業のミッション・ビジョン・バリューとコネクトしていくか。また組織内の枠組みを取っ払って、人をいかに“帯”にしていくか。組織にとってはいずれも重要なテーマです。実現のためにマーケティングという職能が果たせる役目は数多くあると思いますし「ゆくゆくはマーケと営業と人事がマージされていくのかもしれない」とも感じています。
