デジタルの経験ゼロから社内起業制度を活用して立ち上げ
山田:「REV WORLDS」は2021年3月にスマートフォンアプリがローンチされています。百貨店である三越伊勢丹さんがメタバースを提供するに至った理由を伺えますか?
池田:私自身は2007年に入社以来12年間、店頭の担当をしてきました。13年目の2019年、「デジタルとリアルをコラボレーションして顧客体験を高めていく」ために新設されたシームレス推進部へ異動した折に、本事業の発起人である仲田朝彦と出会い、構想を聞き参画を決めました。
当初は仕事の合間を縫って勉強を始めて、2020年4月に自分たちで作ったCGをベースに、バーチャルマーケットに出店しました。その後、社内起業制度を使って、当時はまだ命名すらされていなかったREV WORLDSの事業化を申請しました。この際は、経営層に時期尚早と判断されてしまい、事業化が叶いませんでしたが、あきらめずに再び社内起業制度にトライし、事業化が認められた経緯があります。
山田:事業化にあたっては収支計画も厳しく見られるかと思います。その辺はいかがでしたか。
池田:社内でもまったく新しい取り組みだったので、初年度は収益になり得ることを証明していく年として利益追求というより、地固めをじっくりしました。今年は黒字化を目指して本格的に動き出す年です。計画としては10年20年先を見据えて、フェーズに分けてビジョンを立てています。
山田:ECを活性化する、Webサイトをさらに活用するなど、百貨店のビジネスを拡大するには様々な可能性がある中、なぜメタバースを選ばれたのでしょう?
池田:思い出に残るオンライン体験を作りたいことが大きな理由の1つです。ECサイトでのお買い物は1人で、ある意味では孤独ですよね。メタバースの世界では、Web上で誰かと一緒にお買い物したり、会話をしながら商品を確認できたりします。ECにはない新しい購買体験ができると考えています。
メタバースに関わるメンバー全員が店頭接客経験者
山田:様々なメタバースが存在しますが、REV WORLDSの特徴はなんだとお考えですか?
池田:REV WORLDSでは、誰かと一緒にお買い物したり、展示・プロモーションスペースを楽しんだり、バーチャルイベントに参加したりと、アバターを用いたコミュニケーションができます。ビジネスの方向性としては、BtoBとBtoCとの両面があり、現状はBtoBとしてCG制作費関連や広告費で収益を得ています。今後はBtoCとして、アバター用のデジタルアイテムへの課金やバーチャルイベントを有料にすることなどを考えています。
また、現在は12名体制にて運用しており、全員が店頭での接客業務の経験者である点も特徴かと思います。元々バーチャルを知らず、スキルもない状態からスタートしています。一方で、リアルでの店頭接客経験から、商品の展開法、什器の配置、商品が綺麗に見えるディスプレイなどは熟知しています。この知見をバーチャル空間に反映することが我々の独自性につながっています。
河田:仮想の伊勢丹や新宿の街をベースにしつつも、リアルアセットを持っていることは我々の強みですね。「メタバース内で何ができるか」は重要な要素だと思います。三越伊勢丹が運営するからこそ、皆さんにファッションやショッピングの空間だと連想していただきやすい点もアドバンテージです。
REV WORLDSのユーザー層
山田:現在のユーザー属性はどうなっていますか?
池田:REV WORLDSのユーザーは約4割が女性です。コンテンツの内容やアプリ自体の見え方、トンマナ、操作感が関係していると考えています。年齢に関しては、30代のお客様がメイン層です。リアル店舗の伊勢丹新宿店は50~60代のお客様がメインの購買顧客層ですので、リアルに比べると20歳ほど若返っています。
山田:現時点でリアルとバーチャルのシナジー効果は感じられていますか。
池田:たとえば、バーチャルファッションショー企画では、上手にリアルとバーチャルの融合ができました。東京都三鷹市立第三小学校の5年生と協業し、「こんなファッションを表現してみたい」という趣旨でテーマを考え、絵にしてもらいました。集まった作品でコンテストを開いて、上位のファッションデザインを3D化し、アバターに着せてREV WORLDSの中でファッションショーをするという催しです。
企画と同じタイミングで、リアルの伊勢丹新宿店本館6階にもブースを構えて紹介しました。参加されたお子さんが親御さんと一緒にいらして、「自分たちの考えたデザインがバーチャルに反映されるのはおもしろい経験でした」と感想をいただきました。