マーケターの強みは、経営より顧客に近いこと
安成:新著には複数のフレームワークが掲載されています。特に、最初に紹介されている「顧客起点の経営構造」と、さらにその中に「顧客戦略(WHO&WHAT)」が組み込まれている図は、マーケターにとっても大事だと感じました。これらについて少し解説していただけますか?
西口:マーケターの方は、たとえば“経営対象”といった言葉は聞きなれないかもしれません。ただ、売上や利益という財務結果は、すべて「一人の顧客の心理変化」からもたらされていることは直感的に理解いただけるのではないかと思います。図の上から2つ目の枠「顧客心理」の部分に、具体的には複数の「顧客戦略(WHO&WHAT)」があてはまり、それぞれの顧客にとっての価値が成立すると、購買行動に結び付きます。
たとえばファミレスなら、仕事の合間に一人で利用するビジネスパーソンと、小さいお子さんを含むファミリー層とでは、価値を見いだす便益と独自性が異なります。利用を促す提案や訴求も違うので、これらの異なる顧客層の“合算”だけを見て、全体売上を高めようとしても難しいのです。


安成:社内でフレームワークを完成させるには、経営層だけでなく、マーケティングに関わるメンバーも手を動かすことが必要だと思いました。同時に、自分たちの知見を活かすチャンスにもなると思いましたが、どうすればプレゼンスを示せるでしょうか?
西口:マーケターの方の強みは、経営よりも近い立ち位置で顧客に向き合っていることだと思います。経営層との距離感は会社によって様々だと思いますが、もし会議の機会があるなら、経営構造のフレームワークに自社の具体的なWHO&WHATを書き込んだパターンを用意し、手元に置いて「今どの顧客の話をしているのか」を確認しながら議論することをお勧めします。
これは前著で紹介しましたが、どのような事業も少なくとも顧客をロイヤル~未認知の5層には分けられます。BtoBだと、認知未購買顧客を「商談前・商談中・商談済み」など、より細かな分類になりますが、いずれにしても顧客の人数または社数の概算まで可能です。
マーケティング部門は経営層の意思決定を手助けできる
安成:具体的にどの顧客の話をしているのか、確かめながら議論すべきだと。
西口:そうですね。「うちのお客さんは~」といった形で、顧客についての話は当然ながら頻繁に出てきますが、それが毎週買ってくれているロイヤル顧客の話なのか、顧客になったばかりの人なのか、もしくは認知未購買で現在は競合商品を使っている人なのか、明確につかめていないことが多いです。どのお客さんの話をしているのかを確認しながら議論することで、マーケティングは経営層の意思決定を手助けすることができます。
安成:新著にもありましたが、フレームワークを社内共通の地図にするのですね。
西口:はい。経営レベルの会議では、大体財務諸表が手元に置かれていますが、この数字にはお客さんがどこにもいません。収益性が下がった原因としては、収益性の高い顧客が減っているか、安価でしか買ってくれなくなっているか、もしくは過剰投資しているか、などが考えられます。
利益をもたらしている顧客とそうでない顧客の差を見極め、後者にもまだ投資すべきなのか、過剰に投資しなくても利益を得られる価格で買ってもらえないだろうか、といったふうに具体的な顧客と提案内容を考えていかないと、収益性の改善は難しいですよね。収益結果は、顧客の認知と評価によって支払われたお金と、そこに投資したお金の引き算でしかないですから。
