※本記事は、2022年8月25日刊行の定期誌『MarkeZine』80号に掲載したものです。
特集:ターゲティングが嫌われる時代のシン・ターゲティング
─ なぜ「ターゲティング=気持ち悪い」になってしまったのか?進化するアドテクの使い方を考える
─ コンテクスチュアル広告にみるターゲティングのこれから
─ 新しい広告の届け方:Voicyで作るパーソナリティ×リスナー×スポンサーの好循環
─ 新しい広告の届け方:「人基点」で1対nに広告を届けるデジタルOOHの現在点
─ 新しい広告の届け方:「コミュニティ」を軸にしたアプローチで生まれる、強力なエンゲージメント
─ 新しい広告の届け方:インフルエンサーマーケティングは「起用するだけ」から次のフェーズへ(本記事)
─ あえてターゲティングしない。誰をも受け入れる「インクルーシブ・マーケティング」が事業成長を促す
─ 「先の広告」を考えるヒントの宝庫 カンヌ・ライオンズ、リアル開催の現地より
─ OKURA BOOTCAMPの大倉氏に聞く、社会課題を起点に生活者とつながる方法
─ ユナイテッドアローズCDO藤原氏が率いる組織変革 ブランドの資産を活かせる強い組織へ
─ いま世の中に求められているのはどんな広告?TBWA HAKUHODO細田氏が語る、3つの広告の作り方
インフルエンサーマーケティングがより上位概念へ
推しインフルエンサーを広告やマーケティングに起用する方法は、再生数至上主義(フォロワー数や再生回数等の目に見えるKPIを重要視する)が考え方のベースにありましたが、いまインフルエンサーマーケティングは次のフェーズへ進もうとしています。
日本型MCN(マルチチャネルネットワーク)のビジネスモデルは、Google AdSenseのレベニューシェアとタイアップ広告によって一気に市場を拡大しました。しかし、総再生回数が伸び止まりを迎え、トップクリエイターとの経済条件や大手広告代理店からの下請け条件が論点になり始めている。こうした状況を進展させるひとつのトレンドが、プロダクション的なビジネスモデルからさらに一歩踏み込んだ、バリューチェーンへの関与度の強化、具体的には本稿のテーマであるIP(知的財産)ビジネスやD2Cブランドのインフルエンサーとの共創です。
私がUUUMの役員時代に立ち上げた「MUUU(ムー)」は、独自のオンデマンドECプラットフォームによって、ファン向けのグッズを簡単に制作・販売することを支援しています。また、「Creators Brand」は、国内の名だたるアパレルブランドと人気クリエイターがD2Cブランドを創出するためのプラットフォームです。トップクリエイターは、ビジネスのためのD2Cではなく、自分が消費者として大好きな憧れのブランドと、今だからこそコラボできることを心から楽しんでいます。そんな感情が伝わるからこそ、ファンはその商品が欲しくなり、推しインフルエンサーと共有したいと思うのです。
2022年5月に、ポケモンカードゲーム×はじめしゃちょー×グラニフ!スペシャルコラボレーション「P-Lab.」がリリースされました。はじめしゃちょーは、自他ともに認めるポケモンカードゲームのファンで、ポケモンに纏わる動画配信や企画に関しても積極的。そんなはじめしゃちょーの夢が、グラニフさんの協力のもと、コラボ企画で実現したわけです。これをファンが応援しないわけがない。はじめしゃちょーが心から嬉しそうに手にしている商品を、みんな手に入れたいと思うのです。
はじめしゃちょーをきっかけにポケモンカードゲームを始めたユーザーもいれば、ポケモンカードゲームからはじめしゃちょーのファンになったユーザーもいると思います。そして、今回、両者をきっかけにグラニフの商品を手にするユーザーが出てきた。言葉にすると当たり前のことのように聞こえますが、これはYouTubeというプラットフォームの関連動画レコメンドによって拡大しているつながりの産物と言えます。
前提として理解が必要な背景
今、動画配信プラットフォームの中で「好みの動画を検索する」というユーザー行動が減少しています。アプリを開くと次々に動画がレコメンドされ、それがユーザーの好みにフィットしているかどうかが、アプリそのものの価値に直結しているからです。このことは、TikTokやYouTubeショート、Instagramリールがユーザーに支持されていることからもわかるでしょう。
そして、このアルゴリズムの理解と対応の流れを受けて、切り抜き動画が広まっています。要約され、字幕や翻訳の入った動画が多くのユーザーに受け入れられ、さらに嗜好にフィットしたアルゴリズムに乗ることで、より深く広く拡散されていく――テクノロジーの変遷にともない、検索結果の信頼性や広告識別子によるターゲティングが論点を抱えていますが、動画配信プラットフォームのレコメンドアルゴリズムが注目を集めている背景には、こうした新しい流れがあります。インフルエンサーとの共創においては、プラットフォーム上のこれらの流れを捉えた上で、インフルエンサーの価値観とシンクロする形でD2Cプランニングを行っていくことが重要です。