※本記事は、2022年8月25日刊行の定期誌『MarkeZine』80号に掲載したものです。
特集:ターゲティングが嫌われる時代のシン・ターゲティング
─ なぜ「ターゲティング=気持ち悪い」になってしまったのか?進化するアドテクの使い方を考える(本記事)
─ コンテクスチュアル広告にみるターゲティングのこれから
─ 新しい広告の届け方:Voicyで作るパーソナリティ×リスナー×スポンサーの好循環
─ 新しい広告の届け方:「人基点」で1対nに広告を届けるデジタルOOHの現在点
─ 新しい広告の届け方:「コミュニティ」を軸にしたアプローチで生まれる、強力なエンゲージメント
─ 新しい広告の届け方:インフルエンサーマーケティングは「起用するだけ」から次のフェーズへ
─ あえてターゲティングしない。誰をも受け入れる「インクルーシブ・マーケティング」が事業成長を促す
─ 「先の広告」を考えるヒントの宝庫 カンヌ・ライオンズ、リアル開催の現地より
─ OKURA BOOTCAMPの大倉氏に聞く、社会課題を起点に生活者とつながる方法
─ ユナイテッドアローズCDO藤原氏が率いる組織変革 ブランドの資産を活かせる強い組織へ
─ いま世の中に求められているのはどんな広告?TBWA HAKUHODO細田氏が語る、3つの広告の作り方
「ターゲティング」そのものが「悪」なわけではない
——自分のデータが知らないうちにどこかで使われている、デジタル上で追跡(ターゲティング)されていることを生活者の多くが認識するようになりました。ターゲティングは見透かされ、広告が嫌われる要因にもなっています。はじめに、細田さんはこうした状況をどのようにご覧になっていますか?
今号の『MarkeZine』の特集は、「ターゲティングを疑う」ということが1つのテーマになっているかと思いますが、拝見したときにすごく時代性のあるテーマだなと思いました。「ターゲティングの在り方」は、まさに我々も最近よく議論しているテーマです。

一橋大学社会学部卒業後、2005年に博報堂入社。ロサンゼルスの広告会社TBWA CHIAT DAYを経て、2012年からTBWA\HAKUHODOに所属。Chief Creative Officerとして、クリエイティブの全体統括を務めながら、広告にとどまらず企業のビジョン開発、事業・商品・サービスのコンセプト開発も担っている。これまでにカンヌ・ライオンズ金賞、スパイクス アジアグランプリ、ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS、クリエイター・オブ・ザ・イヤー メダリストなど国内外で受賞多数。
ご質問に対して、まず前提のところからお話しすると、基本的にターゲティングは今もこれからも必要なものである、というのが私の考えです。誰のためにこのメッセージを届けるか? を考えるのは、コミュニケーションの基本的なお作法ですよね。広告はよくラブレターに例えられますが、メッセージを送る相手が定まっていないと、いい文章は書けないし、想いも伝わらない。つまり、ターゲティングそのものが悪いわけではないと考えています。
では、なぜこうした状況になってしまったのか? 私は大きく2つの理由があると思っています。
1つ目は、「企業の態度」です。アドテクが進化し続け、細かく色々な人にターゲティングできるようになりすぎた結果、「顧客をコントロールできる、一方的に操作できる」という一種の万能感がマーケターに生まれてしまっているような気がします。マーケティングは便利になりすぎたのかもしれません。よく、顧客を「囲い込む」とか「刈り取る」とか、情報を「吸い上げる」とか言いますよね。デジタルでは、わかりやすく数字の変化が目に見えるので、だんだんマーケティングがゲーム感覚になっていったのではないでしょうか。当然ですが、ゲームの標的にされて気持ちいい人はいません。これは、決して他人事ではなく私自身にも思い当たる節はあります。
もう1つの理由は、「デジタルメディアの特性」です。よくテレビCMは“隙間産業”だという言い方をするのですが、もともとテレビCMは、番組と番組の間などの隙間時間に視聴者を楽しませるものでした。その隙間は基本的にみんなが合意しているものなので、視聴者はある程度受動的に広告を受けていたわけです。
一方、デジタルは能動的なメディアです。スマホで好きなものを探したり、深めたりしているときに、横から邪魔が入ってくる。しかも、それがストーキングされているような内容やメッセージとなると、ますますイラッときてしまいますよね。受動的なテレビと比べて、能動的に使うスマホでは同じ広告であったとしても、より面倒な存在に感じられてしまうのです。