Instagramは思い出置き場&ビジュアル名刺
「Z世代はSNSを日常的に活用している」と聞くと、つい期待したくなるのが彼らの『投稿』を通じて自社商品やサービスが広く共有されることではないだろうか。結論から言うと、Z世代にモノやサービスを共有してもらうことは難しそうだ。その理由をZ世代の多くがメイン利用SNSとして挙げるInstagramでの『投稿』を例に詳説する。
Z世代がInstagramに投稿しているのは、旅行・ライブや学校行事などのイベント・きれいな景色・素敵なおでかけ場所などのちょっとした特別な日のワンシーンと、遊んだ・食べた・友達と会った・学校でこんなことしてふざけた、といった日常のワンシーンであった。つまり、ハレとケの違いはあるものの、出来事を中心とした「思い出置き場」となっている。
では、スマホのアルバムではダメなのか? ダメなようだ。SNSの『投稿』は身近な相手とのコミュニケーションのタネにもなっているからである。
たとえば、まだ友人とまでは言えない関係の同級生や友達の友達が、自分のInstagramの投稿を見て「おしゃれな人だな。このバンド好きなんだ。話してみたいな」と思ってくれるなど、友達の輪を広げるための仕込みとして利用している。言い換えれば、複数の写真を使って作る、会話のきっかけと自分が人に与えたい印象を醸し出す「ビジュアル名刺」とも言える。
また、友人の投稿に対してダイレクトメッセージを送り、そのままInstagram内で1対1のメッセージのやり取りに発展するなど、コミュニケーションの起点としても活用されていた(「〇〇と行ったここのカレー美味すぎ」という投稿に対して「俺も食べたい。今度一緒に行こうよ」とメッセージを送り会話が続く)。
そんな、思い出置き場であり、ビジュアル名刺でもある所に、「こんなのが良かったよ! みんなも使ってみて」という話題がぽつんとあっても違和感しかないだろう。実際、彼らの言葉では異口同音に「場違い」と表現されていた。もちろん、素敵なモノを手に入れたときに見てほしい気持ちがないわけではない。ただしそのときは「遊んだ」「食べに行った」などの思い出にさりげなくモノを写り込ませて投稿し、「目に留めてもらえたらいいな」と思いながら、投稿した写真を見て「やっぱりいいもの買ったな」と自分一人で噛みしめる程度であった。
マーケティングのヒントは「共に」
しかしながら、悲観的になるのはまだ早い。彼らの目線で「共有」を捉えることで、SNSの活用にも希望が見えてきた。
彼らにも「ねえねえ、これいいよ」というシーンはあった。それは、共有することを相手も求めていそう、もしくは、驚きや楽しさを一緒に分かち合いたいときであった。自分が話したくても、受け手と温度差が生まれるような会話は避けるが、その情報を求める相手の役に立ちそう、一緒に楽しむための材料になりそうであれば喜んで共有するようだ。
つまり、モノ・サービスの紹介としてではなく、「役に立つ」「楽しむ」といった文脈に乗せて話題作りに貢献することで、身近な相手への「共有」を引き起こせそうである。
Z世代をよりよく理解をするために、インタビューやその後の読み解きの時間を共有しながら、彼らとの「言葉合わせ」を試みた。SNSの活用が有効であると言われるが、「インフルエンサーからの波及やZ世代の自発的な投稿を期待したものの今一つ盛り上がらなかった」、そんな声も至るところで耳にする。『投稿』を生み出すには「共有」したくなるマインドやシーンにはまる必要があるのだ。
そして、もう一つ『投稿』や「共有」につながる言葉を彼らの発言から添えるなら、「共感」という言葉になるであろう。ここでも言葉合わせを行うとすれば、共感の「感」に「感動」や「感謝」がある、ということだ。「共に感じる」からもう一歩踏み込むことで、より彼らとの共鳴を生み出せる、と考える。
我々の試みや探求が皆様の「Z世代理解」へのヒントとなれば幸いである。