年間約22億個の荷物を届けるヤマト
1919年創業のヤマトホールディングスは、日本を代表する老舗企業の一つ。今や人々の日常に欠かせない宅急便を1976年に開始し「スキー宅急便」や「ゴルフ宅急便」のほか、冷蔵・冷凍荷物の保冷輸送を行う「クール宅急便」など、取り扱う荷物の種類を増やしながら事業を拡大してきた。
2000年は10億個ほどであった取り扱い個数が、2021年度には22億7,562万個を達成。コロナ禍を契機にEC利用が急拡大したことや、フリマなどCtoCの需要が高まっている点に個数増の要因はあるという。
また、個人向け会員サービス「クロネコメンバーズ」の会員数は5,000万人を突破。企業向け会員サービスの「ヤマトビジネスメンバーズ」も登録数が150万社を超えるなど、個人・法人を問わず多くの人々がヤマト運輸のサービスを利用している。中林氏いわく「日本の世帯を約5,000万と考えると、5軒に1軒はヤマト運輸の荷物が届いている計算になる」とのことだ。
荷物を運ぶためのリソースに目を向けると、グループ全体の社員は21万6,000人、車両は5万4,000台。営業所は全国各地に3,400拠点あるほか、75拠点ものトラックターミナルを持つ。加えて、取扱店は16万5,000店にも及ぶ。多くの物理的な接点とリソースを駆使しながら、22億個もの荷物を顧客から預かり、目的地に届けているのだ。
「物理的な接点とリソースを多く持っていることから、DXとは遠いビジネスのように感じるかもしれません。しかし、近年の荷物の急増に比べて運ぶリソースが限られていることなどから、デジタルの仕組みを取り入れることが経営課題として存在していました」(中林氏)
経営構造改革プランの基本戦略に「CX」を組み込む
100年以上続くヤマトグループでは、次の100年を生き残るための経営構造改革プラン「YAMATO NEXT 100」を2020年1月に策定。2021年度からは「Oneヤマト2023」という中期経営計画も推進している。ヤマトグループが社会インフラの一員としてこれからも社会課題に正面から向き合い、顧客や社会のニーズに応える「新たな物流エコシステム」を創出するべく、ミッションを策定したのだ。
YAMATO NEXT 100の基本戦略に掲げられているのは「CX」「DX」「Innovation」の三つ。一つ目のCX(コーポレートトランスフォーメーション)では、顧客や社会のニーズに正面から向き合う組織へと再編を進めていく。二つ目のDXは、中林氏が主に担当している領域だ。これまで経験と勘で行ってきた経営や現場のオペレーションを、データに基づいたデジタル起点のものに転換することを意味する。
三つ目のInnovationについて、中林氏は「ヤマトグループはこれまで自前主義の部分が多かったが、そのままでは時代のスピードについていけなくなる」と背景を説明。様々なベンチャーやスタートアップ企業と協業することで、新たな物流のエコシステムをつくる会社への進化を目指すという。これら三つのテーマを掲げて、ヤマトグループはYAMATO NEXT 100を実践しているのだ。
YAMATO NEXT 100は、三つの事業構造改革と三つの基盤構造改革から成る。中林氏はまず、事業構造改革のうち「宅急便のDX」について、次のように説明する。
「セールスドライバーがお客様に荷物をお届けしている裏で、ソーティング・システム(※)やロボティクスなどの導入により、ネットワーク全体の生産性を4割以上向上させています。さらにAIを使って業務量を予測。徹底的なデータ分析により、ネットワークとオペレーション全体を最適化・標準化・低コスト化しています」(中林氏)
※物品を品種別・送り先方面別・顧客別などに仕分けるシステムのこと