日本企業のマーケティング偏差値向上を阻む、2つの障壁
——日本のマーケティングはグローバルに比べて弱いともされていますが、その理由はどこにあるのでしょうか。
庭山:日本企業の特徴なのですが、社内で体系的にマーケティングを学んだ人はほぼいないのです。それはMBAホルダーがほとんどいないことと関係しています。
1980年代から90年代にかけて、会社が費用を払って優秀な社員を米国にMBA留学させました。海外のMBAは非常にきついので、必死に努力をして2年間で学位を取って帰国して、学んだことを活かそうとすると、「会社のお金で2年間も海外で遊んできたのだから、まずは雑用から始めなさい」と言われるんですよ。海外で活躍している同級生と比べると、失望しちゃいますよね。それで多くの人は退社してコンサルティングファームに転職してしまいました。今企業にいる50代、60代はそんな感じで、体系的に経営やマーケティングを学んでいないのです。その年代だと多くは経営層なので、経営層が「マーケティングを強化しよう」と言っても、結局何をやりたいのか誰もわからないのです。
日本企業の特徴は他にもあります。それは営業の力が非常に強いこと。社内政治力でこんなに営業の力が強い国は他にありません。だから「俺の客に勝手にメールを出すな」という“俺の客”問題が起こってしまう。本来なら組織ガバナンスで営業の勝手を許してはいけないのですが、経営層自体がマーケティングを知らないものだから、営業がマーケティング部門に文句を言っても許してしまうのですよね。
日本はリサーチとブランディングに関してはそこそこ努力しています。しかしマーケティングは諸外国に比べると10年、15年の差は開いていますし、現在もどんどんその差は広がっています。
会社全体で「マーケティングの共通言語」を持つことが第一歩
——その差を埋めてマーケティング偏差値を上げるために、何が必要なのでしょうか。
庭山:先ほどMBAの話をしましたが、MBAを持つということは「経営に関する共通言語を持つ」ということなんです。MBAはマーケティングを専門に教えているわけではなく、人事も法務も営業も戦略も学びます。これによって共通言語が生まれるのです。MBAは絶対ではないですし、不要論もあるのは承知していますが、それでも「会社の幹部に経営の共通言語がない」という状態が、日本企業がここまで落ち込んだ原因だと思っています。
ただ、先ほど話した私たちのアセスメントサービスや研修プログラムを通じて、変わりつつある企業もあります。元々は日本企業のマーケティング部門の底上げを目指して始めたアセスメントサービスですが、これを受けたある企業のマーケティング部門の方々が「うちの営業にも受けさせたい」「広報や法務にも」と言って、予算を取って他部門も研修を受けてもらうようにしたのです。会社全体でマーケティングの共通言語を持つという取り組みですね。やはり一度自分たちのことを知るために、アセスメントサービスを受けると進化するんですよ。
研修はワークショップを取り入れ、売上の方程式やマーケティングファネルの設計についての実践を行います。たとえば「来期に10億円の売上を作るためにファネルをどう設計するか」というテーマを与えると、「リスクを分散するために5,000万円購入するお客様を20社作ろう」「そのためにはどういうファネルを作るのがいいか」など議論しながら、みなさんおもしろそうに受講しています。
——その研修には今のBtoBマーケティングに必要な事柄が体型的に入っているからこそ、進化が起こるのでしょうね。そのプログラムを組むに当たっては、何を重視して組んでいったのでしょうか。
庭山:基本的に私たちが最も大切にしているのはアライメント、つまり「連携」なんです。部分最適ではなく、全体を見て設計することですね。なぜかというと日本のマーケティングは部分最適、サイロ化しているからです。展示会の担当は展示会、セミナーはセミナーで細分化して、そこだけ見れば成功かもしれないけれど、実際にそこからどれだけに売上につながったのか見ないのです。みなさん口をそろえて「それは自分の仕事ではないから」と言うんですよ。そうではなく、全体を見ながら設計し、各担当が連携しないとマーケティングは回りません。
——最後に、ファーストステップとして何をやればいいのかアドバイスをお願いします。
庭山:会社全体でマーケティング偏差値を上げて共通言語を持つことが、連携の実現には欠かせないと思います。それには経営層が音頭を取る必要があります。高い投資をしてMAを導入して「マーケティング力が向上しない」と嘆く経営者がいますが、そもそもツールを操作することとマーケティングの力を上げることは関係ありません。Wordソフトを使っている人は大勢いますが、全員が人の心を打つ文章を書けるわけではないことと同じです。
経営者の方には、マーケティングが会社のコアにあって、きちんと売上に貢献させるというイメージを持っていただきたいですね。イメージできないことを実現するのは難しいので、まずはそのイメージを持ってもらうことを期待しています。
