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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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MarkeZine Day 2025 Retail

MarkeZine Day 2022 Autumn

顧客とのつながりを強め、ビジネスにインパクトをもたらす「真実の瞬間」を生み出すには

「熱いカスタマーケア」から見る、つながり続ける極意

 まず1つ目の論点について。Chewyの「つながり続ける」仕組みとして特徴的な点は、24時間365日対応する、とても熱くて丁寧なカスタマーケアにある。それが伝わる例として伊藤氏は、あるエピソードを紹介した。

「ペットは命あるものなので、いつかは亡くなってしまいます。ペットが亡くなったあとに定期購入のペットフードが届いてしまったとき、お客様がキャンセルの連絡をするとスムーズにキャンセル・返金を受け付けてもらえるだけでなく、続いてこのように案内がされます。『お手元にある商品は返品いただかなくて結構です。よろしければお近くの慈善団体に寄付してください』さらにキャンセル処理が完了した後、カスタマーケアの方からお花が届くことがあります。最初は1人の従業員が行っていた取り組みでしたが、今ではChewyのサービスとして定着しているようです」(伊藤氏)

 この対応について、Chewyのカスタマーケアサービスは、次のように話した。

私達はお客様を「顧客」としてではなく、ペットの「親」として接し、コミュニケーションしています。そして、私達の商品でペットをサポートしているので、ペットの親御さんは家族だと思っているのです。

 この一連の行動に触れたユーザーは、このカスタマージャーニーに触れていないユーザーよりも結果的にLTVが高く、契約期間も長くなるという。

 こうしたカスタマーケアを行える要因はどこにあるのか。1つは、24時間365日つながるアクセスの良さだ。加えて伊藤氏は「そういった機能的便益に加え、お客様の想像を超える情緒的便益が必要になってくるのではないかと思います。これこそが『真実の瞬間作り』なのです」と語った。

株式会社ベストインクラスプロデューサーズ マネージャー 住田オフィス責任者 伊藤美希子氏
株式会社ベストインクラスプロデューサーズ マネージャー 住田オフィス責任者 伊藤美希子氏

 真実の瞬間とは、スカンジナビア航空のヤン・カールソン氏が提唱した概念で“顧客が従業員に接触する、たった15秒間の体験”を指す。この瞬間を実現させるために同氏は従業員へクレドを配布し、理念を浸透させた。加えて最前線の従業員が自らの判断で動けるよう権限を委譲した。結果、スカンジナビア航空は赤字から脱却し、V字回復を果たしたという。

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「真実の瞬間」の構造(クリック/タップで拡大)

 この真実の瞬間は、どのような構造になっているのかを整理してみよう。顧客にはモーメントがあり、それに基づきニーズや行動が発生する。一方、ブランド側は通底する理念ビジョンやミッションを前提としつつ、従業員の価値観によって顧客の行動の真相(行動の裏側にある隠れた心理)を想像していく。

 この時、従業員の価値観によって「こういうことにお客様が不満を感じているのかもしれない、こうしたらお客様が喜んでくれるかもしれない」といった仮説が生まれ、顧客の言語化されていない隠れたインサイトを探索する。そして、ブランドの理念と従業員自身の価値観により行動を起こすことで、顧客の不満や未充足を満たし、「真実の瞬間」となるのだ。

多様性を尊重する仕組みを構築し、真実の瞬間を創出

 これを、どう意図的に設計していくのか。まず必要なことは、顧客のカスタマージャーニーを洗い出し、表層的なニーズや行動を捉えることだ。次に、その奥にある顧客さえも言葉にできないモーメントインサイトを探索していく必要がある。

 対してブランド側には、通底する理念があり、それを先ほど自由度を与えられた従業員の価値観で解釈。そして委譲された権限でアクションをする。この一連を設計することで、真実の瞬間を意図的に創り出せる。

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 「これは一対一の中に1回だけではなく、何回も起こります。シナリオ設計をするには、顧客体験プロセスを整理する必要があります。横へと続く横断的なシナリオ設計だけではなく、モーメントを捉えた、深くつながる縦のシナリオ設計が重要です。これによりブランドとお客様が太く深くつながれるのです」(伊藤氏)

 これらは、かなりエネルギーのかかるプロセスだが「ブランドを管理しているチーム全体で作るべきだと思っています」と伊藤氏。特に顧客の行動を洞察し、インサイトを探索する際は、多様な価値観を持って顧客のインサイトを洞察する方が、真実の瞬間を生み出しやすいと考えられる。多様性が担保されたチームこそ、共通認識を持ちながらも、様々な洞察により深くつながる縦のシナリオを作り出すことができるのだ。

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「重いデータ」と「軽いデータ」は混ぜられない

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この記事の著者

水落 絵理香(ミズオチ エリカ)

フリーライター。CMSの新規営業、マーケティング系メディアのライター・編集を経て独立。関心領域はWebマーケティング、サイバーセキュリティ、AI・VR・ARなどの最新テクノロジー。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2023/03/24 09:00 https://markezine.jp/article/detail/40369

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