マウスウォッシュの必要性を伝え、カテゴリーを成長させる
――自己紹介をお願いします。
吉田:ジョンソン・エンド・ジョンソン コンシューマーへルスのマーケティング本部でメディア担当をしている吉田です。オフラインからオンラインまで包括的にメディアを活用し、プランニングやマーケティングの実行をしています。今回お話しするリステリンの他にも、6つのコンシューマーブランドを担当しています。
為谷:メディアブランズジャパンでコミュニケーションプランニング、マーケティングの部署に所属している為谷です。2020年にジョンソン・エンド・ジョンソン様とのチームにジョインしました。メディアプランニング、統合マーケティングコミュニケーションを担当しています。
佐藤:The Trade Deskの佐藤と申します。弊社はメディアを横断した買い付けと、統合した管理・運用を実現するプラットフォームを提供しています。ディスプレイやCTV・OTTを含む動画配信から、オーディオ、DOOH(Digital Out of Home)など、メディアチャネルとデバイスを横断した幅広い広告配信に対応しています。
――リステリンのマーケティング戦略や課題についてお聞かせください。
吉田:リステリンは弊社の中でも売上の多くを支えており、成長し続ける主要ブランドです。ただ、欧米と比べて日本ではまだ「歯磨き粉だけで十分」という認識が強く、マウスウォッシュの普及率は低い状況です。
吉田:また、マウスウォッシュは爽快感や口臭予防のためだけのものと思われている方も少なくありません。歯周病の原因にもなるバイオフィルムという細菌の集合体は歯磨きだけでは除去しづらいのですが、それを殺菌することができるのがリステリンの強みです。実際に、リステリンを使い始めた方には「毎日の生活になくてはならないものになった!」という実感の声を多くいただいています。
一方で、使ったことのない方になぜマウスウォッシュを使うべきなのか理解していただくことが難しく、トライアルを促進することが課題でした。マウスウォッシュの必要性を伝え、日頃から「歯磨き+α」で使ってもらえるよう、カテゴリー自体を成長させることを戦略としています。
テレビCMとデジタル広告を包括的に活用
――リステリンのターゲットや今回活用したメディアについて教えてください。
吉田:リステリンのターゲットは30歳から59歳の男女と他のマウスウォッシュブランドと比べて幅が広いのが特徴です。今回は、マウスウォッシュのカテゴリー特性を考慮して、まずはマウスウォッシュの存在と重要性を認知してもらうべく、リーチを稼げるテレビを軸にメディアプランを組みました。
しかし、若年層などではまったくテレビを見ない、テレビ自体を持ってない人も少なくありません。そうした人たちにもリステリンの魅力を訴求するため、デジタルもあわせて活用しました。そこで、動画広告を最後まで見てもらえたかをKPIと定め、消費者にテレビと同等のインパクトを与え、視聴の質の高い配信面を選びました。
またリステリンはEコマースでも売れていて、定期購入率も高いブランドです。そのため、一度購入した方がリピート購入しやすくなるよう、デジタルではECへの導線となる施策も行いました。
質の高いリーチを実現する、新たな接点
――コンテクスチュアルターゲティングに取り組まれた理由を教えてください。
吉田:今まではYouTubeで幅広い層に向けて広告配信をしていました。しかし、歯磨きで十分だと感じているユーザーにただCMを配信したとしても簡単に態度変容につながるわけではないため、ターゲティングや配信面で新たなやり方がないか模索していました。親和性の高い配信面で出した方がポテンシャル層に効率的にメッセージを届けられるのではないかということで、コロナの影響で殺菌意識を強く感じている層に向けたコンテクスチュアルターゲティングに挑戦しました。
期待したのは、質の高いリーチです。またクッキーレス化への対策として、トライアルしてみたいというのもありました。
為谷:コンテクスチュアルターゲティングをプランニングした背景としては、「国民皆歯科健診」が骨太方針に入ったことやコロナウイルスの広まりがあります。こうしたことを受け、殺菌に対する消費者の意識が高まることを見据えた際、そういったコンテキストの記事が増えると考えたからです。
――CTV・OTTについてはいかがですか。
吉田:目的としていたのは、テレビを見ない人も含めた、質の高いターゲティングです。YouTubeなどのデジタル動画をテレビ画面につなげて見る人が増えているので、テレビCMの素材で、テレビと近いインパクトが出せるのではないかと予想しました。
また他の広告メニューと異なり、途中でスキップできないので完全視聴率が高くなることと、フリークエンシーが設定できるので同じ人に何度も当てすぎないよう調整できる点もメリットだと感じました。
為谷:CTV・OTTでは、画面の大きさの違いからか、スマートフォンやPCで見るよりも広告のインパクトが強くなり、購買や認知につながりやすいと他の案件でもデータが出ています。テレビを追随するプラットフォームとして、今後セールスやリーチのドライバーとなることを想定しています。
クッキーレス化に対応する独自技術
――今回The Trade Desk様をパートナーとした背景や期待した点を教えてください。
為谷:ジョンソン・エンド・ジョンソン様と3社でグローバル契約を締結しているため、一緒に取り組みやすいというのがありました。また、他のDSPよりもターゲティング粒度や、セグメントのバリエーションのレベルが高いのも理由です。
――The Trade Desk様は、どのような提案を行いましたか。
佐藤:お声がけいただいた時点でコンテクスチュアルターゲティングをやることは既に決まっていました。CTV・OTTは検討されているところだったので、合わせておすすめしました。
佐藤:理由は2つありまして、1つは他のクライアントで活用した際にどれもレスポンスが良かったからです。認知や興味関心はもちろん、比較検討や購買意向などリフトアップが高く出ることが特徴です。
TVerをスマートフォンで見た場合にもリフトアップが大きくなります。そのため画面サイズだけではなく、配信されるコンテンツもテレビクオリティのコンテンツなので、視聴の質が良くなるからではないかと我々は考えています。
もう1つが弊社独自の技術によって、CTV・OTTにも拡張してターゲティングできる点です。これによりクッキーレス化によるターゲティング手段の減少をカバーできるからです。
――どういった技術なのでしょうか。
佐藤:我々は、「ハウスホールド(世帯)グラフ」という、各世帯にどういうデバイスがあるかというグラフを持っています。これにより、CTV・OTTでもオーディエンス配信を実現しています。この技術のおかげで精緻なターゲティングが実現できているのです。
100%に近い確率で視聴率と様々なリフトアップを実現
――具体的にどのようなコミュニケーションを行いましたか。
為谷:オーラルケア関連の記事などに配信したコンテクスチュアルターゲティングは、よりリーチの質を担保するために、プレミアムな媒体に届けられるPMP(Private Market Place)とオープンの両方で出稿しました。
TVerへの出稿は、マウスウォッシュの主な購入者となる主婦層とオーラルケア関心層をターゲットに実施しました。前者では、女優の西田尚美さんを起用し家庭でのマウスウォッシュを使うイメージを伝えるという、主婦の方に向けたコミュニケーションを行いました。
吉田:オーラルケア関心層に向けては、通常の歯磨きで磨く歯の表面積は口内の25%であることをコミュニケーションしました。
佐藤:TVerに関しても、PMPでの配信を行っています。DSPを介した運用型の配信では、ターゲティング、フリクエンシーのコントロールに加えて、リーチした消費者がどうなったのかをBLS(ブランドリフト調査)で計測することができます。これらを複合的に活用し、インサイト分析、次のアクションまでつなげられることが従来のCTV活用とは違う点です。
――今回の取り組みで、どのような結果が得られましたか。
為谷:コンテクスチュアル配信ではコンテンツ文脈からターゲットを的確に捉え、KPIとした「完全視聴」と「リーチ」の目標を達成できました。TVerでは、約97%と高い完全視聴率でターゲットに対して確実に視聴をさせることに成功。また、BLSの結果より「商品の比較・検討・購入」項目で高いリフトアップが見られました。
吉田:最終的なゴールは売上ですが、テレビCMとCTV・OTTを包括的に展開したことで、シェアと売上の上昇があり、効果を感じられました。
――どのような学びが得られましたか。
佐藤:オーラルケア関心層は顕在層、主婦層は潜在層と位置付け、分析していきました。
オーラルケア関心層は、BLSの結果として、商品認知や購買、比較検討のリフトアップがとても高く出ました。顕在層に比較検討や購入の後押しとしての効果が出たと考えています。
一方で潜在層と位置付けてCTV・OTTで配信した主婦層は、広告認知と広告好意度がWeb広告など他のどの配信よりも高く出ました。CTV・OTTは潜在層における認知、顕在層への購買寄与それぞれに効果が出ることが見えたと捉えています。
為谷:TVerの主婦層ターゲティングに関しては、クリエイティブも主婦向けのものだったので、それがシナジーを生み、広告認知や内容理解、比較検討でのリフトがありました。クリエイティブの内容とターゲットが合致していることが大事になることを学びました。
成果を次に活かし勝ちパターンを探っていく
――今後の展望をお聞かせください。
吉田:今回のCTV・OTTの実施は社内でも評判が良かったので、引き続きテレビCMなどと並行して活用していきたいです。そのためにも、ベストなクリエイティブやターゲティング、配信タイミング、配信量などの勝ちパターンを見つけていきたいです。そうしたらリステリンだけではなく、社内の他のブランドのマーケティングにも適用できるのではないかと考えています。
為谷:弊社としては、クッキーレス化が本格化した際の準備としてデータを蓄積し、ラーニングを深めておきたいと考えています。また、テレビ視聴環境の変化に対応すべくCTV・OTTに関するプランニングの準備も進めていきたいです。今回の案件ではターゲットとマッチしたクリエイティブのリフトが高くなったので、ターゲティングに応じた広告素材の出し分けもしていけたらと考えています。
佐藤:マウスウォッシュのカテゴリー成長とリステリンの購入率アップをサポートしていくために、3つのことを考えています。1つは、オーディエンス発掘。弊社のAI技術を活用し、主婦層以外にも、ライフステージが変わるタイミングなどでマウスウォッシュに興味関心を持つユーザー層を見つけられたらと思っています。
2つ目に、主婦層の中でもさらに当てるべきユーザー、タイミング、クリエイティブなど改善施策につながるインサイトを見つけていけると良いと思っています。運用型広告から得られる効果を見ていくことで、そうした最適化をしていけたらと。
そして3つ目に、テレビとデジタルの相互補完をやっていきたいです。その中で、テレビの最適比率も見つけられたらと思います。また、CTV・OTTで得られたインサイトを基に、テレビCMのクリエイティブのヒントにしていくことで、テレビとデジタルの良いシナジーが生まれるのではと考えています。