視覚情報中心から感覚重視の時代へ
今回紹介する書籍は『SENSE インターネットの世界は「感覚」に働きかける』(日経BP)。同書は、音声を活用した広設計やコンテンツ制作、メソッド開発のコンサルティングを行う「Screenless Media Lab.(スクリーンレス・メディア・ラボ)」の堀内進之介氏と吉岡直樹氏による共著となっています。
インターネットの世界は、今までテキストから画像、そして動画と表現の幅を広げてきました。これらの表現は、視覚情報が中心であることからもわかるように、インターネットのコンテンツとの関わり方においては「見る」行為が中心に置かれていました。しかし本書によると、近年では海外のデジタルマーケティング領域において「感覚(sensory/センサリー)マーケティング」が注目を集めていると記されています。
感覚マーケティングとは、人間の五感を刺激することで知覚や行動に影響を与えるマーケティング手法です。この感覚マーケティングにおいて現在最も重要な感覚は、「聞く」にあたる「音声」だと、本書で示されています。
では、音を活用することでもたらされる効果とは一体何なのでしょうか?
音が消費行動に与える4つの効果とは?
本書ではマーケティングにおける音の役割について、体系的に解説されています。中でも音楽は「特定のブランドイメージを呼び起こしたり、あるいは好ましい印象を与えたりする道具として、ブランドマーケティングで重要な役割」を果たすと指摘。
マーケティングと消費に対して音楽が果たす役割について、これまでの音楽と消費者の気分の関連性に関する研究から、以下の4つの効果が挙げられました。
1.メッセージの理解:音楽が消費者のブランド理解を後押しする
2.感情への作用:特定のテンポやリズムが、感情を自動的に引き起こす
3.ブランドを思い起こさせる力:過去に聞いた音楽が何かしらの経験や文脈を引き出す
4.行動への影響:意識させずに行動を変える
1つ目「メッセージの理解」については、メッセージの内容と音楽がマッチする場合か、音楽が消費者にとって好ましい場合に起きる影響であると解説。たとえばブランドが若々しいイメージの広告を出す際、そのイメージに沿った音楽を付けることでより効果的にメッセージを消費者に届けることができます。
感覚を拡張し、ネット上でできない体験を補う
また4つ目の「行動への影響」については、「店内のBGMのテンポによって買い物のペースと総売り上げが変わる」という研究がわかりやすい例です。スローテンポの音楽を流すと、消費者が店内に滞在する時間が長くなり、売り上げ増加の効果が見込めます。
インターネットでは、消費者が直接体験できない部分を感覚的な情報で補うことができるとし、その可能性についても本書は触れています。たとえば、ポテトチップスを食べた「サクサク」という音や炭酸飲料の「シュワシュワ」という音を流すことで、味覚と聴覚の相互作用から食品の新鮮さや味などを感じることができるのです。
このように、音は消費者に対し様々な影響を与えています。一方で、情報過多と人間の処理能力の限界から、音の情報量をただ増やすだけでは効果がかえって落ちる可能性も指摘。こうした対策には、広告メッセージの伝え方やBGMなどを変えることで認知の負荷を切り下げ、消費者の理解を促すことも重要です。
本記事では、同書に書かれた音によってもたらされる4つの効果の中から、理解・行動に関することに焦点を当てて紹介してきました。同書にはその他の効果の解説に加え、実際にデジタルコンテンツに音を効果的に用いる方法などを解説した一冊となっています。自社で感覚マーケティングを実践し、差が付くデジタルコンテンツを発信したいとお考えの方は、ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。