ベテランマーケターの強みを見つめ直す
ビジネスも社会も大きく転換する中で、ベテランマーケターはどのようにキャリアを描けば良いのでしょうか。まずは、ベテランマーケターの持つコンピタンスに目を向けてみます。すると「今のマーケターとは大きく異なる経験を積んできた」という価値が浮かび上がります。私が経験したようなマーケティングキャリアは、決して例外的なものではありません。同時代を働いたベテランマーケターは、多様な課題への対処や暗中模索のプロジェクト進行を経験してきたはずです。

時は変わって現在のマーケティングの現場では、以前のように多様かつ大型のプロジェクトを若手マーケターが任される機会は少なくなりました。どの企業でも生産性向上とリスク回避のプレッシャーが大きいため、若手はメソッドの確立された仕事を担当するケースが増えているようです。さらに、デジタル化にともなうマーケティング手法の細分化や専門性の高まりを背景に、マーケターのキャリアが特定のニッチな専門領域に閉じてしまう傾向も見られます。
変化のスピードが加速し続け、不確実性が増す今の時代において、既定のメソッドは通用しません。マーケターには、自ら新しいアプローチを作ってゆく志向と能力が求められます。ベテランマーケターが積んできた多様な体験と不確実な道を歩む力は、役に立つと言えるのではないでしょうか。
多様化するセカンドキャリアの選択肢
昨今、ベテランマーケターの力を活かせる場は大きく拡大しています。私は34年間勤めた電通を退社した現在、200人を超えるメンバーとともに「ニューホライズンコレクティブ」という新しい仕組みに個人事業主として参加しています。我々メンバーは電通でのマーケティング経験を活かし、海外を含む様々な場所で各ステークホルダーに向けたビジネスに取り組んでいます。私も大好きなニセコに拠点を設け、趣味のスノーボードを満喫しながらマーケティングコンサルティングを今まで以上に行っています。
マーケターのセカンドキャリアはこれまで2択でした。コーポレートラダーを上って管理職になるか、専門職として再雇用・再就職を検討するか。このふたつは、マーケティングに生きがいを感じる身からすると、あまり積極的に惹かれる選択肢ではありませんでした。
画一化したビジネスプロセスとエコシステムが大きく変化する今、マーケターのセカンドキャリアに新しい選択肢が生まれつつあります。マーケティングはビジネスだけでなく、社会のあらゆる側面に活きる考え方です。これまで高度なマーケティングは一部の大企業でのみ展開されていましたが、本来は社会全体にマーケティングの浸透するニーズがあります。平均所得の停滞がしばしば指摘される日本ですが、最善の解決策は社会全体での価値創造、つまりマーケティングです。推進の鍵を握るのは、ベテランマーケターのセカンドキャリアにおける活躍ではないでしょうか。