N1は1人に絞らずセグメントごとに設定
田部:「自分がほしいものをつくって売る」という姿勢は、私もノバセルで経験しているのでわかります。ただ、N1に該当するようなメンバーだけでチームを構成できればベストですが、なかなかそうもいきませんよね。齋藤さんはN1の意識をどうやって社内に浸透させているのでしょうか。

齋藤:自分がN1ではない場合、ユーザーの声にたくさん触れることが重要だと思います。触れているうちに、ユーザーの頭の中と自分の脳内が徐々にシンクロしてくるからです。ここで大事なのは、既存ユーザーの声に触れることです。潜在ユーザーに「こういう商品があったら買いますか」と聞いても、正解にたどり着くことは難しい気がします。だからこそ向き合うべきは、既に15万人近くいる定期購入者なのです。
ベースフードでは約3万人が参加するオンラインコミュニティを運営しているのですが、僕はそこを毎日チェックしています。僕たちが想定していない食べ方を知ったり、競合の情報を把握できたりと、様々な発見を得ることができるからです。
田部:今いるお客様の中から答えを見つけにいくということですね。ベースフードさんといえば、一時期Webマーケティングにかなり注力されていた印象があります。Webマーケティングを推進する際に意識していることはありますか。
齋藤:デジタルはある程度ターゲティングができるため、積極的に取り組んでいます。セグメントは利用シーンに応じて明確に分けています。オンラインコミュニティや顧客アンケートから各利用シーンにあてはまる人を見出して、その人をN1として深掘りしていく流れです。ベースフードに対して感じる価値は人によって異なるため、N1は1人に絞らずセグメントごとに設定しています。今は5~8種の訴求メッセージを同時に回しながら市場を広げているところです。
田部:ユースケースで顧客を定義するアプローチは面白いですね。
獲得効率と認知の拡大をどうバランスさせるか
田部:Webマーケティングを通じて得た知見がほかの業務に好影響をもたらすこともありますか。
齋藤:Webマーケティング以外でも施策を外しにくくなると思います。商品開発やサプライチェーン、システム開発など、ほかの部門に対するインプットの精度が上がるなと。「お客様がこういう言葉に反応したということは、この価値は外してはいけない。だからこのシステム改修は絶対にやめたほうが良い」といった感じです。

齋藤:Webマーケティングを通じて、日々のA/Bテストなどの積み重ねを知っているかどうかも重要だと思います。何が数値に影響するのか、2年くらいやっていると肌感覚でわかってくるからです。当社では、Webマーケティングの担当ではないメンバーにも施策の結果を見てもらうようにしています。
田部:ここからは、どのマーケターも必ず向き合わなければならない費用対効果についてうかがいます。ベースフードさんが上場後に開示された数字を拝見したのですが、CPAなどをかなりコントロールしながらビジネスを大きくしている印象を受けました。効率を重視しながらも、ある時期では効率をあえて無視して一定の認知を取る必要がありますよね。そのあたりのコントロールにはやはり苦労がありましたか。
齋藤:難しかったですね。会社が置かれている状況や資金調達の環境などを踏まえて「今資金を投下して赤を出してもグロースするべきなのか」と考えていました。当社の場合は定期購入がメインなので、LTVとCPAのレバレッジ割合を決めています。短期的な施策はCPAとLTVでも測れるので、決めた上限内できちんとやるようにしています。
一方で、キャンペーンなどフロー系の施策を実施しすぎると、サブスクビジネスの場合は大変なことになります。そのため、認知獲得やオンラインコミュニティの運営、コンビニの什器製造、営業人員の補充といった「今すぐ売上にはつながらないが、中長期的に利益を生み出してくれるもの」になるべく投資し、余った資産をキャンペーンに充てる考え方で運用しています。