マーケター=事業成長のために何でもやる存在
田部:この連載は、事業成長に真に貢献するマーケティングのあり方や、それを展開していくためにはどうすれば良いのかを考えていくものです。第5回のゲストには、ベースフードのCMO・齋藤竜太さんをお招きしました。齋藤さんはユニリーバ・ジャパンで、マーケティングだけでなく事業開発にも携わられていたそうですね。ご自身の経験を踏まえて、マーケティングをどのように捉えていらっしゃいますか。
齋藤:マーケティングは事業成長にかなり近しい役割だと捉えています。「事業成長のためにできることは何でもやる存在」という位置づけですね。ベースフードの場合、創業時からずっとマーケティングチームの中に営業や広告、PRが含まれており、全員が事業成長のために同じ目標を持っています。
田部:既に自社が認知されている市場とされていない市場では、マーケティングアプローチも大きく異なりますよね。齋藤さんはユニリーバやウォルマートで前者を経験され、ベースフードは後者からスタートしたと思います。両者の違いやそれぞれの難しさを教えてください。
齋藤:既に市場があって自社が認知されている場合、「競合とどう差別化するか」からマーケティングは始まります。一方ベースフードは、代表である橋本のやりたいことやミッションから逆算して生まれたブランドです。そのため、創業時は顧客にとっての独自性と便益がまだ確定していませんでした。
そこで、当時はN1を橋本として商品を開発しました。販売開始後はお客様の反応を見つつ「ここに価値を感じてくれるのか」「こんな利用シーンもあるんだ」といったことを1つひとつ発見しながら市場をつくり、広げていきました。
顧客の声に耳を傾け過ぎないことも大切
田部:市場をつくっていく際、一番の難しさはどこにありましたか。
齋藤:ミッションを信じ続けながら“プロダクトのあるべき姿”に早くたどり着くことです。ベースフードのコンセプトは、当初あまり賛同を得られませんでした。「かなりニッチだから限られた人しか食べないよ」「パスタとプロテインだけで良いのでは?」という声が多かったのです。そのような外部の声に惑わされず、自分たちが信じている「主食が美味しくて、栄養バランスも良くなれば、絶対みんなに選ばれる。そして健康が当たり前になる」という思いを守り続ける点に、難しさがあったと思います。
田部:いわゆる教科書的なマーケティングとは違って、顧客の声を良い意味で聞かなかったんですね。特に新しいものをつくろうとする時は、顧客の声を聞けば聞くほど方向性がぶれたり、表層的な理解しかできなかったりすることもあると思います。顧客理解が重要であることは大前提ですが、どこまで耳を傾けるか考えることも大切ですね。商品をまだ買ったことのない、潜在ユーザーしかいない創業当時、どのようにして顧客ニーズを理解していったのですか。
齋藤:基本的には自分基準です。自分が食べたいものや、家族に食べさせたいと思える商品の開発を心掛けていました。創業当時の僕たちは、IT企業に勤務する一人暮らしの20代後半男性です。そういう人が「こういうものがあったら便利だな」「こんな言い方をされるとぐっとくる」と感じられるものをつくろうと考えていました。