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翔泳社の本

CDPプロジェクトはなぜうまくいかないのか? 成功させるための前提と必要な人材とは

 顧客のデータを全社的に活用し、ビジネスに貢献するためのツールであるカスタマーデータプラットフォーム(CDP)が徐々に普及しつつあります。活用プロジェクトが立ち上がり、推進チームが発足している企業も少なくありません。しかし、成果を出すのは簡単ではなく、頓挫したり試行錯誤が続いていたりするケースも。では、プロジェクトを成功させるにはどんな前提に立ち、どのような人材が必要なのでしょうか。トレジャーデータのプロフェッショナルサービスチームをはじめとした執筆陣による書籍『CDP活用の最適解を導く』から、「第1章 CDP活用のための人と組織」を抜粋して紹介します。

 本記事は『CDP活用の最適解を導く 事例から見えてくる、人材、プロジェクト、組織の在り方』の「第1章 CDP活用のための人と組織」から「1.1 CDP活用における「前提」を正しく理解する」と「1.2 CDPプロジェクトに必要な人材」を抜粋したものです。掲載にあたって編集しています。

CDPはホワイトボードのようなものである

 これまで、お客様を含め、幾度となくマーケティングツールを検討し導入する企業を見てきました。しかしCDPに限らず、様々なマーケティングツールを導入・活用する場面では、未だに導入すること自体が目的となってしまっていることが多いと感じています。

 もちろん、マーケティングオートメーション(MA)に代表されるマーケティングツールでは、そのシステムの役割が明確に定義されている場合もあり、導入が目的となることは少ないと言えるかもしれません。

 例えば、MAは、既存のWebやメール配信システムの仕組みでは実現が難しい、ユーザーのオンライン上の行動に応じたコミュニケーションのシナリオ作成や最適化などを可能とするシステムです。企業はその機能を目的としてMAを導入することが一般的です。

 MAは、エンジニアリングのスキルを持たないマーケティング担当者が操作することを想定したツールです。導入する際の技術的なハードルは比較的低いと考えられています。導入さえしてしまえば、運用も比較的容易に行うことができるでしょう。そのため、導入前と導入直後を比較するために、定量的な指標を用いて導入効果を評価することが可能です。これはMAに限ったことではありません。多くのマーケティングツールにおいても同様のことが言えるでしょう。

 しかし、CDPの導入においてはその点、様々な検討・調整が必要です。例えば、運用するための組織設計や自社内のデータ管理者との調整など、一般的なマーケティングツールと比べて確認や検討、決定すべき項目が多岐にわたります。CDP導入時に思い描いたゴールを実現するためにも、導入担当者はこの事実をあらかじめ認識しておくことが必要だと我々は考えています。それを踏まえて、本節ではCDP活用における「前提」を説明していきます。

CDPが扱うデータに型はない

 まず、前提を設けるにあたって、「CDPが活用される場面で主となるのは、『機能』ではなく『データ』である」という認識が重要です。

 私はよく「CDPは『ホワイトボード』のようなもの」と表現することがあります。つまり、CDPを活用してどのようなビジネスゴールを達成するのか、言い換えると、ホワイトボードにどのような「絵」を描くかは、利用する企業によって異なるということです

 CDPに投入できるデータに決まった型はなく、またアウトプットにも決まった型はありません。利用する企業によって活用方法は似ていたとしても、その細部は全て異なっている、と言うこともできるでしょう。

 まず「機能」ですが、CDPベンダーごとに様々な点で機能的な差があるとはいえ、企業が持つ顧客データを統合し、データ活用を行うためのプラットフォームがCDPであるというコンセプトに大きな差はないと考えています。ベンダーの役割は、データを扱うためのプラットフォームを安定的に提供することです。そのために、我々CDPベンダーは、ユーザー企業が求めるデータ活用のあるべき姿に有効だと考えられる機能を開発したり、外部ツールと連携したりと、積極的な開発を行っています。

 では、データについて視点を移してみます。一般的に活用されているWebサイトやメールマーケティングなどで生まれるデータには、一定の「型」が存在します。これらはWebサイト解析ツールや前述のMAなどのツールからデータを取得することによって、容易にデータを活用することが可能です。CDPはさらにこれらのツールから生まれるデータや、企業が持つあらゆる顧客データを集約し統合します。すなわち、「機能」的な差以上に企業によって保有するデータとその「型」は様々であると言えます。

保有するデータは企業によって異なる

 自動車メーカーを例に考えてみましょう。最近の自動車メーカーでは、コネクテッドカーといわれるような、ICT(Information and Communication Technology)端末としての機能を有する自動車の発売が増えています。ICT端末が自動車やスマートフォンなどのアプリケーションと連動することで、走行情報の記録やメンテナンス情報の記録を行うことができます。これによって取得できるデータから「このユーザーは普段こういうルートを主に利用しており、このガソリンスタンドをよく使っている」といったことをユーザーの許諾を得た上で分析、把握することが可能です。

 さらに、データ元であるユーザーの許諾を得た上で、自動車会社の持つユーザーデータとコンビニエンスストアなどで利用されている共通ポイントカードのデータを企業が取得することができれば、普段、そのユーザーがどのお店でどのような商品を購入しているのかといったことまで把握できるようになります。

 このようなデータ連携を可能としているのが、「一意のID」(識別子・連携キー)です。「一意のID」は、ユーザー自らが企業の提供するオンラインサービスへ「利用登録」を行うことで発行されます。Webサイトの情報やMAなどのメールマーケティングツールなどで取得される様々なデータなども、この「一意のID」に紐付けることによって統合されます。

 先に述べた通り、企業が持つデータは千差万別です。業界が異なれば、全く異なるデータが存在します。データ活用における「型」というのは存在しないと言っても過言ではありません。そのため、企業が自社のビジネスでデータ活用を行うためには、必ず企業固有の「設計図」が必要となるのです(図1.1.1)。

図1.1.1 導入前に「設計図」が必要
図1.1.1 導入前に「設計図」が必要

CDPの導入・構築はスタートラインではない

 「CDPは『ホワイトボード』のようなもの」と表現しましたが、この「ホワイトボード」にどのような絵を描くかは、企業によって大きく異なります。企業内に存在する様々なチャネルからどのようなデータが既に取得できているのか、そしてそれらのデータをどのように活用をしたいのか。ツールの契約を行う前に状況を把握し、きちんと計画を立て設計した上で、データを活用するためのプロジェクトを組成しないことには、どんなに高級なホワイトボードもただの白い板になってしまいます。CDPはあくまでも「手段」でしかないのです。

目的と手段を取り違えない

 Treasure Data CDPの導入を検討される企業に対し、我々は様々な計画を立案して提出します。導入の「目的」を達成するために多くの稟議を経て、トレジャーデータと契約を結んでいただいています。

 しかしながら、CDPを活用するには、稟議で求められる以上の活用設計をしっかり行う必要があります。稟議で求められる以上の活用設計とは、例えば次のようなことです。

  • プロジェクトに必要な人材の確保や、プロジェクト内の役割設計をする
  • 目的に辿り着くためのいくつもの小さなゴール設計をする
  • 実際にCDP活用で利用するデータを、保存元のシステムレベルで把握し、そのデータを管理する利害関係者と会話をし、大まかな連携方式やスケジュール感を把握しておく

 加えて、活用の前段階で作成した設計図は、活用を進めていくにつれて変化していくものです。CDP活用のプロジェクトは、設計図通りに進めることが目的ではありません

 ただ、ここで注意しなくてはならないことがあります。それは、設計図ではなく目的が変化してしまうことです

 CDPを活用する初期段階では、設計図を基にどのようにデータをCDPへ投入するか、投入したデータをどのように集計処理を行い、加工するかという技術的な工程が必要となります。これらの工程を「インプリメント」や「実装」ということがあります。CDPを導入後、プロジェクトが進むにつれ、期日までにシステムの実装を完了することが「目的」となってしまうことは少なくありません。CDPの導入にあたり事前の稟議で「目的」を明確にしたにも拘わらず、本来の「目的」が薄れていってしまうのです。これでは本末転倒です。

 CDPを導入し、システムの実装を完了しただけでは、スタート地点に立ってすらいません。CDPを「使いこなしていくこと」を目指して、スタートラインを切りましょう。

 トレジャーデータではあらゆるビジネスの中心に一貫性のある顧客体験がある状態を目指し、「Connected Customer Experiences」という言葉をビジョンとして掲げています。最終的には企業のビジネスを拡大させるために、取得、統合されたデータをあらゆるチャネルに接続し、活用の幅を広げ、顧客体験の向上へと昇華させることが目的です。目的と手段を取り違えないようにしたいものです(図1.1.2)。

図1.1.2 基盤整備・データ統合はスタートラインの手前
図1.1.2 基盤整備・データ統合はスタートラインの手前

CDPの活用先はあらゆるビジネスポイントにある

 その「目的」に対して実際にCDPをどう使っていくかを考えると、一気に世界が広がっていきます。

 例えば、マーケティング視点では新規顧客の獲得をどう行うか、既存顧客とのコミュニケーション視点では、一顧客あたりの単価をどう上昇させていくかがCDP活用プロジェクトのファーストステップになるでしょう。その先のステップでは、カスタマーサポート領域や、B2Bにおける営業高度化での利用、商品開発や新規ビジネス創造なども、将来のCDP活用の範囲として考えられます。サプライチェーン・マネジメントの観点にも使うことができるでしょう。業務視点で考えると、人為的なレポーティング業務などの効率化や自動化なども考えられるかもしれません。

 全体の目的に対してCDPをどう使っていくか、明確に定義し実践することで、様々な側面でビジネスを成長させることができるでしょう。

高度化と同様に、効率化も意識する

 CDPの導入・システム構築後のファーストステップでは、「データを使って、今まで知ることが困難であった顧客インサイトを発掘してアプローチする」といった施策の「高度化」にフォーカスが当たりがちです。CDPの活用により、未開拓だった領域にいる、顧客となり得るユーザーへのアプローチが可能になるという部分が注目されるといった側面はもちろんあるでしょう。

 導入担当の立場からすると、未開拓の領域というのは過去アプローチのチャレンジをしたことがない「未知の領域」であることが多いため、CDPの効果をどれくらい見込めるか、事前に見積もるのは容易ではありません。そのため施策の高度化が目に見える効果として表れるまでには、多少時間が必要になります

 一方で、CDP活用には「効率化」という側面も存在します。例えばレポートを作成する作業を自動化することで、「レポート作成にかかっていた時間」≒「コスト」の削減が実現できると考えられます。こうした施策の「効率化」がもたらす一定のコスト効果の算出、可視化は、比較的容易です。

 作業の効率化によって削減された工数は、「高度化のためのデータ活用施策検討」にあてる時間を生み出します。それにより施策のさらなる「高度化」が期待できるようになり、好循環が生まれるでしょう。先に「効率化」にフォーカスを当てることで、結果としてより効果的に「高度化」を実行できるようになるのです。

 筆者の同僚がよく話す余話を紹介します。

 「今では、日々あたり前のように使うパソコンに費用対効果を求めることはないが、数十年前は当然のように費用対効果を求められていたのではないか。」  CDPを利用することで一定の業務効率化が図れることを考慮しておくことは、CDP活用を進める上で非常に重要です(図1.1.3)。

図1.1.3 高度化と効率化では難易度は異なる
図1.1.3 高度化と効率化では難易度は異なる

Quick winを必ず意識する

 Treasure Data CDPの導入をサポートする過程で、企業から「Quick winはどのようにしたら実現できるか」といったご質問を何度か頂戴したことがあります。スモール・ウィン、アーリー・ウィンなど同義の言葉もありますが、いずれも「小さくとも初期段階で成功の実績を作る」という意味合いで利用されます。最近ではいろんな方が口にするようになったと感じます。

 「Quick win」は、何か全く新しいことを始めるときや既存のやり方を変えようと画策する際において有効な手立てであるとされています。その点でCDPの導入やデータ活用のプロジェクトにおいて、Quick winは重要なテーマであると言えるでしょう

失敗と周囲を巻き込むことを恐れないことが重要

 Treasure Data CDPの導入をサポートする際にはQuick winを強く意識します。一方で、企業のコンディションやプロジェクトによってはQuick winが思ったように作用せず、期待した効果を発揮しなかった(=Quick win創出のために割いたリソースが無駄になってしまった)経験もあります。

 企業が新しいことに取り組む際は、それが本当に成功するか否か、既存の業務の成果よりも厳しい視線に晒されます。もちろん取り組みを開始する前にじっくりと様々なことを検証・考察するでしょうし、他社のケーススタディなどから推進イメージも描くはずです。それでも「新しい取り組み」である以上は不確定因子が潜んでいるもので、どうなるかは蓋を開けてみるまでわからないものです。

 ここで問題になるのは、成功するかわからない、失敗リスクがある取り組みに対し、人は積極的に関与することを嫌う、ということです。加えて基本的に人は変化を嫌う生き物なので、このような変化をもたらすための取り組み自体にも、大した理由もなく懐疑的な態度を取る人が少なくありません。

 CDPの導入やデータ活用は、まさに新しい変化への取り組みです。しかしこれらの取り組みは、他部署に協力を求めるべき瞬間が往々にしてあります。その協力要請に対して当事者が否定的だったり、協力するにせよ腰が引けていたりしては、プロジェクトがうまく進むことはないでしょう

短期的な成功をアピールすることで周囲との関係を改善する

 新しい取り組みの初期段階では、Quick winを意識するというようなマインドセットの部分から整え、取り組みの推進力を高めるべきケースもあるのです。この段階では、取り組みの成功を周囲に匂わせ、「この感じなら案外いけそうだ」と認識してもらうことが重要なポイントとなります(図1.1.4)。

図1.1.4 Quick winの連続性で周囲を巻き込んでいく
図1.1.4 Quick winの連続性で周囲を巻き込んでいく

 取り組みの成功を周囲に匂わせることこそ、Quick winです。先に述べたように、Quick winは「小さくとも、初期段階における成功の実績を作る」という意味合いです。その期待効果は、「比較的初期段階で成功実績を作ることで、プロジェクトそのものや旗振り役に対する評価や信頼感を高め、引いてはチーム外の人々に受け入れられる土壌を作り、その後のプロジェクトマネジメントを行いやすくする」と言うことができるでしょう。

Quick winがもたらす三つのポイント

  1. プロジェクトそのものや旗振り役に対する評価や信頼感を高め
  2. 人々に受け入れられる土壌を作り
  3. その後のプロジェクトマネジメントを行いやすくする

 この三つのポイントは連鎖的に引き起こされますが、中でも、連鎖反応の帰結部分である「3.その後のプロジェクトマネジメントを行いやすくする」がQuick winが求めるべき最大の効果であると言えます。

 ただしマネジメントのしやすさといってもその方向は広範で、「上司からの信頼や納得感を獲得し次のステップへの話を通しやすくする」といった定性的な仕事のやりやすさを意味するものであったり、「他部署を巻き込みリソースを確保する」といった具体的な内容を示す場合もあるでしょう。

 なお、Quick winの目的として「プロジェクトリーダーの精神的安定」を挙げる方もいます。筆者も個人的には強く同意しますが、プロジェクトリーダーの責を負う立場の方から「私の心の安寧のためにQuick winに取り組もう!」といった発言は憚られますし、「プロジェクトリーダーの精神状況が取り組みにおける肝なので、Quick winに取り組みましょう!」と訴えてくれる心優しい部下の存在も稀有でしょう。そのため、残念ながら「プロジェクトリーダーの精神的安定」が「Quick win」の目的として認定される日は遠そうです。

CDP導入におけるQuick winに必要なこと

 トレジャーデータを活用いただく企業では、CDPの導入とデータ活用を推進するにあたり、大なり小なりプロジェクトチームを発足させている企業が多数を占めます。企業の全社員が関わることは少なくとも導入期にはありません。厳選されたプロジェクトメンバーの方々がプロジェクトを推進していくことになります。

 その背景として次の2点が挙げられます。

  • CDP導入のために必要な個別の役割やスキルセットが存在する
  • 意思決定のスピード感を担保するために、既存業務を回すためのリソースは最低限維持しておく必要がある

 もちろん企業のそれぞれの状況によって別の理由が付帯されることもありますが、CDP導入やデータ活用はその性質上、プロジェクトという体系を取ることが通例です。

 先ほど、Quick winで求めるべき最大の効果は「3.その後のプロジェクトマネジメントを行いやすくする」ことにあると触れましたが、プロジェクト体制の違いによってQuick winを通じて目指すべき「マネジメントしやすい状態」の在り方は異なります。

 そのため、どのような人材がプロジェクトメンバーに関わるか、それらの人材がどのような体制でプロジェクトを推進するのか、という2点は、この先を読み進めていただくにあたり、重要な前提として押さえていただきたいポイントとなります

データを扱うためには多種多様な職種の人材が必要

 実際にCDP活用プロジェクトを推進する際に、どのような人材が必要となるのでしょうか。データ活用を行うには「データベースエンジニア」や「データサイエンティスト」のような職種の人材が必要だとイメージされる方が多いかもしれません。

 CDPの活用は、企業が持つサイロ化されたデータを統合するところからスタートします。データ統合を行う以前である、CDPを導入する初期の段階では、大量のデータ群だけが企業内に散在・分断されている状態です。例えばこの段階で、散在・分断された(サイロ化)データが全て統合されていて、目的に応じて即座にデータが利用できている状態であれば、データサイエンティストといわれる職種の人材だけで、データ活用が進むケースもあるでしょう。しかし実際に、完璧なデータ群が整っている状態というのは、ほぼ全ての企業においてあり得る状況ではないというのが実情です

 トレジャーデータのカスタマーサクセスチーム/プロフェッショナルサービスチームがCDP活用プロジェクトをサポートする上で、事前に契約企業にご説明するプロジェクト推進のための五つのプロセスがあります。データを利用する目的によっては、このプロセスの内容や順番が変わることがありますが、下記にご紹介します。

プロジェクト推進のための五つのプロセス

  1. ビジネス/マーケティング戦略の設計
  2. データ収集
  3. データ統合
  4. データ分析
  5. 施策への連携

 この五つのプロセスを遂行していくことだけを考えるならば、先に述べたデータベースエンジニアやデータサイエンティストといった職種の人材で十分と感じるかもしれません。確かに、技術に精通した人材や、データに関するスペシャリストは必要不可欠です。ただ、こうした人材だけではCDP活用は実現できません。なぜでしょうか?  CDP活用プロジェクトを推進するには、データだけを扱えばよいわけではないのです。実際には、プロジェクトに関連した様々な社内改革が求められます。そのための人材が確実に必要です。経験的に、そこに着目する企業は決して多くありませんが、CDP活用の分水嶺はまさに人材です。本節では、プロジェクトを力強く推進していくための人材についてご説明します。

CDP活用プロジェクトにおけるリーダーの重要性

 では、どのような人材がCDP活用プロジェクトには求められるのでしょうか? 今一度、プロジェクトの目的に立ち返ってみましょう。データを使うためのシステム構築やデータ分析はあくまでも手段です。本来、データを使って成し遂げたいビジネス上の「目的」があるはずです。

 その目的に向かっていくためには、企業にある既存の枠組みを破壊したり状況に合わせて変化させたりしながら、プロジェクトを取りまとめるプロジェクトリーダーが必要です。プロジェクトリーダーはプロジェクトの目的の擦り合わせや、ロードマップの策定、プロジェクト外の社内調整など、様々なポイントで重要な役割を担います。

プロジェクトリーダーの役割の例

  1. ミッション・ビジョンの擦り合わせ
  2. プロジェクトスコープの明確化
  3. 目標達成基準の定義
  4. 状況変化による柔軟なプロジェクトの軌道修正
  5. 人材・費用などのリソース調整
  6. プロジェクト利害関係者に対する参画意識の醸成

他社事例は参考にはできるが真似はできない

 データを活用するには、「仮説ベース」でプロジェクトを推進していくか、もしくは実際のデータ分析などを基にした「ファクトベース」でプロジェクトを推進していくか、という論点があります。前者は企業のトップやデータ活用に強い意志を持ったリーダーが推進するパターンです。後者は文字通り、データ統合後に見えてくる実際のデータからどのようなプロジェクトを走らせていくかを検討し、周囲を説得し、巻き込んでいくパターンです。どちらも間違いではありません。

 CDP活用にもフレームワークと言えるようなものがあります。しかし、他社が既に公開している取り組みなど参考になるものがあったとしても、自社に当てはめた場合のCDP活用に「これが正解」というものはありません。ビジネスモデル、市場環境、ユーザーとのコミュニケーションチャネルなどは企業ごとに異なり、その違いにより企業が取得できるデータは異なるからです。CDPによってデータ統合がなされたその後に見えてくるアウトプットも、企業ごとに自ずと変わってくることが想定されます(図1.2.1)。

図1.2.1 データが異なると検証結果は全て異なる
図1.2.1 データが異なると検証結果は全て異なる

プロジェクトの停滞を乗り越えるために

 CDP活用プロジェクトでは、必ず「停滞期」が発生します。

 「仮説ベース」と「ファクトベース」どちらのケースでも、「データ活用」と「検証」のタイミングが発生します。これを繰り返すループの中で、想定外の事象や議論が起こります。

 特定の仮説を持った上でデータの検証をした際に、思い通りの結果が得られないことでプロジェクトが停滞してしまうことや、時に真逆の結果が出てしまい混乱することが往々にしてあります。例えば、特定の商品購買者のペルソナを用いて様々なデータを分析した結果、従来思い描いていたペルソナと全く異なるユーザー像が見えてきた、というような場合です。

 CDP活用プロジェクトを進める過程で必ずぶつかる混乱や停滞を乗り越えるために、プロジェクトリーダーは次のような行動を取ることが重要です

  • 状況変化による柔軟な対応(不確実な事象の出現に対する対処)
  • 社内外のコミュニケーションによる相互理解(人材・費用などのリソース調整やプロジェクト利害関係者に対する参画意識の醸成等)

 プロジェクトの鍵を握るこうした行動を取れる人材こそが、CDP活用の鍵も握っています。順風満帆なプロジェクトはありません。荒波を乗り越え、ひとつひとつのQuick winを積み重ねていくことが肝要です。

CDP 活用プロジェクトにおけるジェネラリストの役割

 CDP活用を推進していくためには多種多様な経験を持つ人材がプロジェクトに必要ですが、注意すべきは、それぞれの役割におけるミッションや職務内容の違いによって、目的に対する視点がバラバラになることも起こり得る、という点です。例えば具体的なプロジェクトの目標設計や、ビジネスKPIをチェックするビジネスサイドに立脚する人材と、実際にその目的に対してデータを整理、整形する「データベースエンジニア」や「データサイエンティスト」のような技術サイドの人材との意思疎通が難しい、という場合が考えられます。

 プロジェクトにおいて視線を揃えるためには、データという共通言語を用いることが重要です。しかし、残念ながら、ビジネスサイドと技術サイドの業務内容は、従来近い距離にあるとは言えませんでした。むしろ、これまでデータ活用を行ったことがない企業では、交わり得ない職種であったのではないでしょうか。慣れない共通言語には戸惑いもあるでしょう。しかし、筆者の経験上、プロジェクト参加メンバーの方向性が揃わない限り、必ずと言っていいほどプロジェクトは空中分解します。

 ここで求められるのがジェネラリストの存在です。ビジネスサイドとデータを扱う技術サイドを理解し、両者の橋渡しとなるようなジェネラリストが、プロジェクトの空中分解という最悪の事態を防ぎます(図1.2.2)。

図1.2.2 データによる共通言語化とジェネラリストによる橋渡し
図1.2.2 データによる共通言語化とジェネラリストによる橋渡し

縦割り思考からの脱却

 仮にマーケター、データサイエンティストやデータアナリスト、エンジニアといった様々な専門職を揃えたとしても、それぞれの異なる領域の橋渡しとなるようなジェネラリスト人材がいない限り、CDP活用プロジェクトは進みません。

 従来型の日本企業の特徴として、業務範囲ごとに組織を作る傾向がある、いわゆる縦割り思考が挙げられます。業務範囲をまたぐ場合は他部門への依頼の形を取るわけですが、問題となるのは、組織が別であるという形式的なことではありません。組織が分かれることで自身の業務範囲には精通するのですが、他の組織の業務範囲の理解力が低くなる点と、同じスキルを持つ人材が組織内を占める可能性が高いという点が問題になります

 具体例で考えてみましょう。マーケティングの施策チームが広告施策の成果分析をCDPで実施したい、という要件を考えてみます。このケースでは、次に挙げる組織のチームメンバーが関わるとします。

  • 成果レポートを作る分析チーム
  • レポートを作成するためのデータ集計チーム
  • 各ツール・システムに散在するデータを集めるシステムチーム

 企業によっては各担当者の業務範囲が広く、プロジェクトに参加するメンバーの数が結果的に少ないケースもあるかもしれません。しかし、各メンバーの業務範囲が細分化され過ぎてしまうと、問題が発生します。目的がうまく伝わらなかったり、要件の抜け漏れが発生してしまったりといった問題です。また、レポートを作るために必要なデータを管理するチームに的確に情報を伝えられないといった、根本的な問題に発展することもあるかもしれません。

 分析チーム、データ集計チーム、システムチームなど業務範囲に応じた組織編成はその領域のスペシャリストを集めやすく、育成しやすく、マネジメントしやすいといった様々なメリットがあります。しかしCDPの利活用においては、ケイパビリティを担保できない編成となってしまう恐れがあります。

 組織そのものを変えることはハードルが高いですが、少なくとも個人単位で組織の壁をまたいで動く意識を持つことは可能です。また、組織編成を縦割りから脱却させる場合も、壁をまたいで動く意識を持つメンバーが求められます。自分の領域、他人の領域と壁を作らず、相手の領域に踏み込んだ上で協力を仰ぐといった考え方を持つ人材がプロジェクトに増えれば、自然と縦割り組織から脱却していくでしょう

キーマンは意思決定ができるジェネラリストであるべき

 ビジネスサイドと技術サイドを理解し、両者の橋渡しとなるようなジェネラリストがプロジェクトにいたとしても、特定領域のスペシャリストの話を理解できるというだけでは物事は進みません。プロジェクトを円滑に進めるために、ジェネラリストは多様なスペシャリストと議論し、全体最適を考えた上で様々な意思決定をする必要があります

 繰り返しになりますが、CDPを活用することの目的は、データを正しく管理することやデータの集計・可視化をすることではありません。ビジネス全体やマーケティング施策において高度化・効率化を図ることや、新たなビジネスチャンスを生み出すことが目的です。

 つまり、「スペシャリストにとっての最適解」が「CDP活用プロジェクトにとっての最適解」となるとは限らず、スペシャリストに任せきりにしているとプロジェクトは成功しません。ジェネラリストとスペシャリストの両方の視点からプロジェクトとしてどうあるべきかを議論し、目的達成のために何をすべきか、どう進めることが最適なのかを見つけていくことが求められます。ジェネラリストが全体を俯瞰しながらビジネス側とデータ側の意見を吸い上げ、スペシャリストの知見の深さをプロジェクトの中で活かし切る方法を見出していく、そのようなプロジェクト体制が最適です

 スペシャリストであってもジェネラリストのような思考が可能な人材は、稀に存在します。しかし、キャリアによって作られた基本的な思考プロセスを鑑みると、組織の中からふと飛び出してくることはあまり多くないと言えるでしょう。

ジェネラリストになるために

 CDP活用プロジェクトにおいてジェネラリストが最優先で身につけるべきは「論理的思考力」です。ここでいう論理的思考力には課題解決能力やプレゼン・提案力、コミュニケーション能力などが含まれます。

 別の言い方をすると、物事を抽象化・具体化する、本質を見極める、論点を整理するといった能力のことです。この力はプロジェクト形式で仕事を進める上では、非常に重要な要素です。かつ、業務範囲が異なる相手と仕事を行う以上、相手が理解できるようにコミュニケーションを取るために、論理的思考力は常に磨き続ける必要があります。

 論理的思考力を身につけるには時間がかかります。確実に身につけるためには、プロジェクトに関わる全ての業務を経験することをお勧めします。例えばマーケティングのプランニングを行ってみる、ダッシュボードを作ってみる、SQLを書いてみる、データ基盤の設計をしてみるなど、周りのメンバーが行っている業務を短い期間でもいいので実践するのです。

 全てを同時に経験することはできませんが、他の業務範囲を経験することで各領域での悩みや苦しみ、また他領域の影響で迷惑を被ることを実体験として理解することができるでしょう。実際には全ての業務を完璧にこなすことは時間的に難しく、業務の本質や他人の考え方を理解することに集中することで精一杯となることが多いものです。しかし本質の理解や考え方の理解はジェネラリストが最優先すべきことであり、ただ他人の業務をこなすだけでなく思考し続ける習慣を身につけることができれば、論理的思考力を伸ばすことができることでしょう

プロジェクトメンバーの構成

 ジェネラリストはCDP活用プロジェクトを成功させるためのキーマンですが、ではその周囲を固めるメンバーはどういう構成にすべきでしょうか。一つ言えることは、中核はスペシャリストとしての「領域」や「幅」を広げたいという考えを持つメンバーで構成すべきである、ということです。その理由はとてもシンプルなものです。たとえどれだけ優秀なジェネラリストがいたとしても、プロジェクトメンバーの中に他領域の仕事に興味や関心がないメンバーが多くいた場合、それらのメンバーから協力を得ることは非常に困難だからです。

 スペシャリストは往々にして自身の領域を深掘りしたいという傾向があります。専門領域をさらに磨くことで自身の価値を高めていきたいというモチベーションは強いのですが、自分の領域外への関心は薄いことが多いようです。こうした傾向の強いメンバーばかりのプロジェクトでは、その間を取り持つプロジェクトリーダーに過剰な負荷がかかります。ジェネラリストがいたとしても、メンバー間の調整で忙殺されてしまうことになるでしょう。

 また、プロジェクトメンバー同士が「依頼者と受託者」という関係で行う仕事に慣れてしまっていることがあります。この関係に慣れてしまうと、言われた通りのことしかやらなくなってしまったり、依頼内容が不十分という理由でプロジェクトがストップしてしまったり、といったリスクにつながってしまうことが往々にあります。

 依頼者と受託者の関係をベースに仕事を行うのではなく、主体的に考え、提案・相談ベースで仕事を進められるメンバーがジェネラリストを囲むことで、ジェネラリストの本領は発揮されると考えられます(図1.2.3)。

図1.2.3 プロジェクトリーダーとメンバーの関係性
図1.2.3 プロジェクトリーダーとメンバーの関係性

スキルの軸足とピボット先を明確にする

 本節では、プロジェクトリーダー、ジェネラリスト、スペシャリストといったメンバー構成について説明しました。

 プロジェクトを推進するには、どういったスキルとマインドを持った人材を集めるのかという点を考える必要があります。また、メンバーの主体性を高めるために、常にプロジェクトのメンバーに「自分の軸足はどこにあるのか」と問うといいかもしれません。さらに、「その軸足からどうキャリアを広げたいのか」と問いを重ねるのもいいでしょう。

 これはマーケター、アナリスト、データサイエンティストといった肩書に囚われず、メンバー自身が今後何を強みとするのか、またその強みを活かすためにどういうポジションを担っていきたいのかといったことを意識してもらうためです。プロジェクトメンバーが、常に自身の先を見据えプロジェクトに関与することで、そのプロジェクトはさらに遠くに進むことができるでしょう

CDP活用の最適解を導く 事例から見えてくる、人材、プロジェクト、組織の在り方

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CDP活用の最適解を導く
事例から見えてくる、人材、プロジェクト、組織の在り方

著者:トレジャーデータ、重原洋祐、冨田恭平、阪口暁、小暮和基、矢戸政法
発売日:2023年1月30日(月)
定価:2,420円(本体2,200円+税10%)

本書について

本書はカスタマーデータプラットフォーム=CDPをすでに利用している方や導入を検討されている方を対象に、CDPプロジェクトの成功ノウハウについて述べるものです。技術的な話ではなく、必要な人材やケイパビリティ、組織やプロジェクトの体制について、CDPの専門家が豊富な知識と事例をもとに紹介します。

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2023/02/06 07:00 https://markezine.jp/article/detail/41063

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