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【特集】2023年、マーケターたちの挑戦 ──未来を拓く人・企業・キーワード

消費者の選択肢が増えすぎた今こそ、ブランド価値の最大化を。ユニリーバ木村氏が語る、これからの戦い方

選択肢が多い時代だからこそ、ブランドの評価は一度も落とさない

──そうした中で、ラフラ・ジャパンではどういった戦略をとられてきたのでしょうか?

 元々ユニリーバ・グループがラフラ・ジャパンを買収した背景には、巨大な中国市場を日本発のブランドで攻略していくという狙いがありました。なので、私の最初のミッションも「日本でいいブランドおよび製品を作って中国で売上を最大化する」ことでした。

 しかし、それだけでは立ち行かないことに気づいたのです。というのも、ラフラ・ジャパンはモノ作りに極めてこだわる会社であり、その文化が全社員に根付いています。ユーザーの声を聞いて丁寧にいい商品を作りたいという思いで働いていたところに、突然新社長が送られてきて「我々はユニリーバグループだから、中国のために頑張ろう」と表明し続けることは、組織のモチベーションに水をさすことになりかねません。

 そこで原点回帰をして、2022年は、ラフラ・ジャパン本来の良さを活かし、グローバルで勝っていくためにも、まずは大きく日本でも成長していこうと方向転換をしました。日本の小売店と消費者のためにいいブランドにしていこうと意識して取り組んでいった結果、明確に日本市場でも伸びてきて、いい新製品もたくさん出せてきている状況です。

──具体的にどんなブランディング・マーケティングの取り組みをされてきたのか、うかがえますか。

 ラフラ・ジャパンの商品開発の大きな特徴は、「100%納得いくものにならない限り商品を出さない」というポリシーです。売上の目標や発売のタイミングありきでモノ作りをしないんですね。それゆえに製品の発売が事業計画時の予定より遅れるケースもあります。

 現在もモノ作りのプロセスはこのポリシーに従っています。まずユーザーへのインタビューや定量調査を経て、「今本当に消費者が欲しいもの」を考え、インサイト解析からコンセプトワークまで愚直にやっていきます。その後、OEMの会社や自社の開発担当と一緒に試供品を作っては修正する、の繰り返しです。本当にそのコンセプトにミートするかを検討し、またロイヤルカスタマーの方に商品を使ってもらって「本当にいい」と言われるまでは出さない。コンセプトにはまった“それっぽい商品”でリリースはしません。

 たとえば、先日発売した美容液オイルクレンジング「オイルセラムクレンジング」も、このモノ作りを貫き通して完成した商品です。コンセプトは「クレンジングオイルとクレンジングバームの“いいとこどり”」。クレンジングバームを使っているユーザーにインタビューすると、手間や高価であることを理由に2日に1回しか使っておらず、他の日はオイルで済ませている方が多いことがわかりました。そこで、バームとオイルの間になる商品を提供したいと思い、開発を始めました。使いやすさを意識して、形としてはオイルクレンジング。ただし中身はバームと同じぐらい濃く、肌に使っていく感覚自体はバームとほぼ一緒というプロダクトを目指しました。

ラフラ「オイルセラムクレンジング」
ラフラ「オイルセラムクレンジング」

 コンセプトが強いので、おそらく大手企業であればほぼ納得する製品ができた時点でリリースに至ると思うのですが、ラフラ・ジャパンではブランドマネージャーも製品開発の責任者もなかなかOKを出しませんでしたし、私自身もなかなか発売のゴーを出せませんでした。

 というのも、「オイルとバームの“いいとこどり”」のバランスが難しくて。オイルのようなクレンジング力はあるけれど、バームほどの潤いはない。逆にバームっぽさを出すとオイルほどのクレンジング力が出ない。試行錯誤を10回ほど繰り返して、ようやく納得のいくプロダクトにたどり着けました。

 発売までに時間はかかったのですが、結果的によかったと思っています。なぜなら、商品自体のクオリティがいいので、小売店のバイヤーさんに認めてもらえたり、PRの案件ではなく、コスメに厳しいインフルエンサーの皆様やコスメのメディアが製品の品質自体を認めてくれるのです。そうすると、コスメのフェスティバルで大賞に選んでいただいたり、ロフトの入口付近で大きく展開していただいたり。小売店さんもインフルエンサーも胸を張って消費者の方に伝えたくなるモノ作りができているので、最後の売上にもきちんと伝播したわけです。

──100%納得するまでやり切るモノ作りはなかなか真似できないですね。リリースして走りながら調整していくというやり方もあると思いますが、やはり初めからいいものを提供することが大切なのでしょうか?

 私も、真摯なモノ作りがきちんとビジネスに紐づいていく感覚を、実際にやってみて実感しました。発売を1、2ヵ月待ってでも品質を高めることで、発売後の売上の山が大きくなったり伸び続けたりする。モノがいいゆえにリピーターやファンが増えるわけですね。

 走りながらPDCAを回していくのもビジネスとしてはスマートだと思いますが、日本の消費者はすごく目が厳しい。たとえば食品でも、一度美味しくない季節品などが出たらそのブランドに対してがっかりします。そこで一度離れてしまったユーザーを再度取り戻すことのほうがコストがかかるので、ブランドへの評価を「たった一度も」「ほんの少しも」落とさない姿勢は重要です。お金を出して製品を購入してくださる消費者を絶対にがっかりさせてはいけないのです。今は消費者にとって無数の選択肢があるので、一度やめたブランドに戻る理由がないのです。

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企業の成長には「誠実性」と「強い組織」が求められる

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この記事の著者

岡田 果子(オカダ カコ)

IT系編集者、ライター。趣味・実用書の編集を経てWebメディアへ。その後キャリアインタビューなどのライティング業務を開始。執筆可能ジャンルは、開発手法・組織、プロダクト作り、教育ICT、その他ビジネス。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

MarkeZine編集部(マーケジンヘンシュウブ)

デジタルを中心とした広告/マーケティングの最新動向を発信する専門メディアの編集部です。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2023/01/27 09:30 https://markezine.jp/article/detail/41064

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