※本記事は、2023年1月25日刊行の『MarkeZine』(雑誌)85号に掲載したものです。
【特集】2023年、マーケターたちの挑戦 ──未来を拓く人・企業・キーワード
─ 2023年、私たちの挑戦(エージェンシー編)
─ 2023年、私たちの挑戦(EC事業者編)
─ 2023年、私たちの挑戦(マーケティングベンダー編)
─ 2023年、私たちの挑戦(SNS/プラットフォーマー編)
─ 2023年、私たちの挑戦(動画/音声メディア編)
─ 経営がパーパスにリードされる状態を目指して。博報堂 藤平氏が目指す、パーパス起点の「整合」
─ メーカーは多様性にどう向き合うか? 次の時代のあるべき姿を探すPanasonic Beautyの挑戦
─ 消費者の選択肢が増えすぎた今こそ、ブランド価値の最大化を。ユニリーバ木村氏が語る、これからの戦い方(本記事)
─ 半径10mのマーケティングへ 「広告だけでは売れない時代」にマーケターに求められる力
─ ブランド戦略論の第一人者 田中洋氏が見据える視点 二極化するブランド、その背景にあるトレンドを探る
─ トレンドに惑わされず本質を見きわめるためにすべきこととは? ブランド戦略論の第一人者 田中洋氏の提言
─ ひとりマーケターになったとき、必要な心得とは?
─ 「にしたん」の4文字の認知度・ブランドをもって次の10年へ。西村社長が仕掛ける2023年の戦略
─ 【注目領域】データの力でOOH市場の拡大へ。LIVE BOARDの牽引で進化するDOOHの現在地
─ 【音部氏取材前編】2023年は自主的な職住一致で消費が変化する
─ 【音部氏取材後編】マーケターに必要なのは洞察力と道具を超えた本質的スキル
大手メーカー同士の「シェアゲーム」時代は終わった
──はじめに、木村さんがラフラ・ジャパンの代表に就任されるまでのことを教えてください。元々新卒でユニリーバ・ジャパンに入社されたそうですね。
はい、2009年4月にユニリーバ・ジャパンに新卒で入社し、2年半ほど営業を経験した後にマーケティングに異動しました。最初は「ラックス」のブランドを担当し、その後「ダヴ」のブランドマネージャーを経て、「ラックス」のブランドマネージャーを担当。2018年から2019年の末まではイギリスの本社で再び「ダヴ」を担当しました。なので私のユニリーバ時代のキャリアは「ラックス」と「ダヴ」とともに歩んできたと言えますね。
日本に帰国後しばらくして、ユニリーバ・グループ傘下に加わったスキンケアメーカーのラフラ・ジャパンの経営をやらないかという話をいただいて。2021年2月からラフラ・ジャパンの代表に就任し、ユニリーバとの統合の調整やターンアラウンドに取り組んでいます。コロナ禍の2020〜2021年は業績が厳しかったのですが、無事にV字回復し、2022年は前年から2桁成長するまでになりました。
──「ラックス」「ダヴ」とユニリーバの代表ブランド2つのブランドマネージャーを歴任されてきたのですね。グローバルブランドを率いていく上で、難しい点などはありましたか?
直面したのは、世界のブランドを日本独自の切り口で売っていく難しさでした。たとえば「ダヴ」は日本だとファミリー層に支持されていますが、グローバルでは若い層が使うモダンなブランドイメージなんです。そのため、たとえば私たちが「お母さんに向けて」といった表現を使うと、グローバルチームから「それって、ダヴなんだっけ?」と厳しく突っ込まれます。ユニリーバはブランディングにすごく力を入れている企業なので、そういった表現一つひとつに注意が必要なのです。ブランドイメージを守りつつ、日本向けにローカライズしていくのは難しく、試行錯誤の日々でしたね。
ただ、日本で刺さった切り口をグローバルに逆輸入して、成功したケースもありました。日本では忙しい中でも自分をケアできる時短商品のニーズが高いので「10秒トリートメント」というコンセプトを打ち出し、グローバルチームと一緒にプロダクトの開発から取り組んだところ、グローバルでも非常に良い成果を得られて。機能性に特化した新しい切り口については、世界共通で必要とされると実感しましたし、日本発のコンセプトをグローバルに展開していけたことは、私自身の自信にもつながりました。
──2021年にラフラ・ジャパンの代表に就任され、2022年にはV字回復に成功されたとのことですが、ここ数年、市場や業界、ブランドが置かれている環境の変化をどのように捉えられていましたか?
「絶対に安定している業界もブランドもない」ことが見えてきたと思います。ここ数年、消費財、特に化粧品などのカテゴリーにおいてブランドが劇的に増えており、消費者にとって選択肢が多すぎる世の中になっています。
従来は、大手メーカー同士がどのブランドからシェアを奪ってくるかというシェアゲームの発想で、典型的なマーケティングを行っていました。しかし、今はどのブランドが勝っているのか、市場全体が見渡しにくい。というのも、大手が常に見ているようなデータ上では見えづらかったり、店頭でも見たことのない小さなブランドが限定されたチャネルで大量に生まれていて、それらのブランドがインフルエンサーやKOL(KeyOpinionLeader:市場における専門性と影響力を兼ね備えた人物のこと)、デジタル広告などをうまく活用して、一時的にユーザーを奪っていくことがあるんです。つまり、スモールプレーヤーからビッグプレーヤーまでが入り混ざって、入れ替わりが激しくマーケットの実態がつかみづらい市場環境になっています。
昨今のビジネス環境が厳しい要因としては、もちろんインフレや市況の影響もあるものの、プレーヤーが増えすぎたことも大きいと思います。そんな中で勝っていくのは、中長期的にブランディングをしていく、消費者に対して真摯なブランドです。一方で、いいものを作って安く売るだけではビジネスが安定しないので、サステナブルなビジネスモデルで企業経営としてのスマートさも持ち合わせている必要があります。