※本記事は、2023年1月25日刊行の『MarkeZine』(雑誌)85号に掲載したものです。
【特集】2023年、マーケターたちの挑戦 ──未来を拓く人・企業・キーワード
─ 2023年、私たちの挑戦(エージェンシー編)
─ 2023年、私たちの挑戦(EC事業者編)
─ 2023年、私たちの挑戦(マーケティングベンダー編)
─ 2023年、私たちの挑戦(SNS/プラットフォーマー編)
─ 2023年、私たちの挑戦(動画/音声メディア編)
─ 経営がパーパスにリードされる状態を目指して。博報堂 藤平氏が目指す、パーパス起点の「整合」(本記事)
─ メーカーは多様性にどう向き合うか? 次の時代のあるべき姿を探すPanasonic Beautyの挑戦
─ 消費者の選択肢が増えすぎた今こそ、ブランド価値の最大化を。ユニリーバ木村氏が語る、これからの戦い方
─ 半径10mのマーケティングへ 「広告だけでは売れない時代」にマーケターに求められる力
─ ブランド戦略論の第一人者 田中洋氏が見据える視点 二極化するブランド、その背景にあるトレンドを探る
─ トレンドに惑わされず本質を見きわめるためにすべきこととは? ブランド戦略論の第一人者 田中洋氏の提言
─ ひとりマーケターになったとき、必要な心得とは?
─ 「にしたん」の4文字の認知度・ブランドをもって次の10年へ。西村社長が仕掛ける2023年の戦略
─ 【注目領域】データの力でOOH市場の拡大へ。LIVE BOARDの牽引で進化するDOOHの現在地
─ 【音部氏取材前編】2023年は自主的な職住一致で消費が変化する
─ 【音部氏取材後編】マーケターに必要なのは洞察力と道具を超えた本質的スキル
価値観や行動が揺れ動いた2022年を振り返って
――藤平さんには、2021年11月号のパーパス特集でも本誌にご協力いただきました(参考記事:パーパス大流行の背景 過渡期を迎えた今、企業に求められる条件)。当時はパーパスの大流行を受け「パーパスが日本に定着するか否か、今が過渡期にある」とお話しされていましたが、あれから約1年、2022年を振り返るとどんな変化があったでしょうか?
まずパーパスに限らず2022年を振り返ると、2022年は“戻り始め”の年だったと思っています。コロナ禍になり生活が激変する中で、2020年と2021年、我々はコロナ禍を“大転換”として捉えました。新しい生活様式と銘打って、生活者の行動や価値観に非常に大きな変化が起こったわけです。しかし、今、オフィスへの出社も増え、国内/海外旅行も増え、飲食店も以前より活気が出てきているように思います。色々な行動や価値観がビフォーコロナとウィズ/アフターコロナの間で揺れるようになり、そんな中で「何がベストなのか?」「何がノーマルなのか?」を、それぞれが探り続けていたのが2022年でした。ゆえにブランドという視点においては、態度表明の仕方やコミュニケーションの在り方を決めるのが非常に難しい年だったなと思います。
だから、パーパスに関しては、どこか停滞を感じた年でした。日本はコロナ禍を契機にパーパスブランディングが加速したので、多くの企業の場合、パーパスを決める/見つめ直すとき、そこには大きな前提として「コロナ禍以後の社会にどう貢献するか?」ということがありました。過去2年はその問いがお題のように存在していたので、それを“解く”こととパーパスブランディングがほぼイコールの関係にありました。パーパス起点のアクションも、コロナ禍に一石を投じるような、Braveなもの(勇敢で大胆なもの)が多かった印象です。ですが、先述の通り、戻り始めの1年においてはコロナ禍に勇敢に向き合う/立ち向かうことだけが正解ではなくなった。むしろ、現状をどう捉えるのか、それ以外の課題や兆しとどう向き合うかというスタンスの探索と明示のほうが重要になりました。ですので、2022年のパーパスブランディングを一言でまとめると、“戻り始めの中での探索期”みたいな感じです。
僕もその中で解を探しているのですが、現時点では「“勇敢さ”に加えて、“バランス感覚のよさ”がすごく重要なのかもしれない」という仮説を立てています。多くのテーマにおいて、100 vs 0 で善悪が分かれることはそうありません。そんな中で、ブランドは態度表明をし、行動を起こしていく必要がある。このとき、エッジーで勇敢なアプローチもあれば、清濁併せ吞みながら、そのブランドらしいジンテーゼ(高次の概念で矛盾を解決すること)を提示して社会をよくしていくようなアプローチもあるでしょう。つまり、そうなると、バランス感覚が肝なわけです。この先は、バランスよく社会と向き合えるブランドが生き残っていくのかなと思います。