カスタマーエクスペリエンスとブランドとの関係
MarkeZine編集部(以下、MZ):前回のお話「ブランド戦略論の第一人者 田中洋氏が見据える視点 二極化するブランド、その背景にあるトレンドを探る」で、ブランドの価値において顧客体験(Customer Experience:CX)の重要性をお話しされていました。CXと一口にいっても、同じ社内で定義がバラバラであったり、事業者側とコンサルティング側で定義が揺れていますが、田中先生はCXをどう定義しますか?
田中:おそらくサービス業やアパレル業のように、お客様が直接プロダクトを通して体験するという業種では以前からCXを重視してきました。なかにはCX担当マネージャーのような担当者を据えている企業もあります。
ただ、新しい言葉を使うと何か最新のことをやっていると勘違いする人がいますが、口でいうだけではなく、CXという用語を使って、何か新しい知見を得ることができるかどうかがポイントだと考えています。

中央大学名誉教授。京都大学博士(経済学)。マーケティング論専攻。電通で21年実務を経験したのち、法政大学経営学部教授、コロンビア大学客員研究員、中央大学大学院ビジネススクール教授などを経て現職。日本マーケティング学会会長、日本消費者行動研究学会会長を歴任。『ブランド戦略論』(2017年、有斐閣)など20冊の著書と93本の学術論文がある。日本マーケティング学会マーケティング本大賞、同準大賞、日本広告学会賞、東京広告協会白川忍賞、中央大学学術研究奨励賞などを受賞。企業での講演・研修多数。
田中:先ほどお話しましたように、オンラインのエクスペリエンスにおいてはテクノロジーが重要になってきます。たとえば、Eコマースでは、Webサイトがスムーズに動くか、反応速度はどうか、ユーザーが間違いなく記入できるか、わかりやすいか、といったことがCXの問題として長年研究されてきました。
こうしたWeb上のエクスペリエンス、サービス業のエクスペリエンス、モノ商品を使用するときの顧客エクスペリエンスなど、エクスペリエンスという用語によって新しい課題の発見や解決が見いだされることがポイントだと考えます。
MZ:ちなみにインターブランドジャパングループのC Space Tokyoが発表した「顧客体験価値が高い企業ランキング」では、丸亀製麺が1位、星野リゾートが2位、ANAが3位だったそうです。このようにCXランキングに出てくるブランドについてどのような印象をお持ちでしょうか。
田中:CXを考えるうえでは「仕事をしている現場の担当者とお客様の関係性」も大きなポイントになると思います。「餃子の王将」の先代社長である故大東隆行氏に生前お会いしたことがあるのですが、餃子の王将の店舗では、「キッチンと座席の距離が近くなるように設計してあるので、キッチンの感覚が座席に伝わってくるんです」とおっしゃっていました。中華鍋で炒め物をする、火の手が上がる、餃子を焼いている厨房が利用者に見えるといったように、作っている現場の感覚がお客様に直に伝わってくるんですね。
今回入っているブランドでいえば、丸亀製麺がそうだと思いますが、お店で実際にうどんを作っているところがお客様から見えたりします。最近ではセブンイレブンが店内でカレーパンを揚げていて、まさに「揚げたて」を訴求して販売していますね。こうしたライブ感がある種の飲食業では強力なCXになりうるわけですが、CXランキングに出てくる企業はいずれもこうしたサービス提供者と顧客との関係性でCXのポイントを把握している企業だと思います。