2022年のブランドのトレンドを総括する
MarkeZine編集部(以下、MZ):コロナ禍で社会生活が大きく変わるなか、最初のころは企業も「今後この変化にどう対応するのか」といった事柄に関心が高かったように思います。そして2年近くが経ち、現在はコロナで起きた変化が定着し、生活者側の気持ちや価値観もまた大きく変容しました。この変化を経て、今後ブランドは生活者とどのように向き合っていくべきかという話が今回のテーマになります。
田中:確かに社会生活や価値観はこの2年間で大きく変化しましたね。

中央大学名誉教授。京都大学博士(経済学)。マーケティング論専攻。電通で21年実務を経験したのち、法政大学経営学部教授、コロンビア大学客員研究員、中央大学大学院ビジネススクール教授などを経て現職。日本マーケティング学会会長、日本消費者行動研究学会会長を歴任。『ブランド戦略論』(2017年、有斐閣)など20冊の著書と93本の学術論文がある。日本マーケティング学会マーケティング本大賞、同準大賞、日本広告学会賞、東京広告協会白川忍賞、中央大学学術研究奨励賞などを受賞。企業での講演・研修多数。
MZ:今回は大きなテーマですが、まずは取っ掛かりとして、毎年インターブランドが発表しているブランドランキング「Best Global Brands 2022」を先生と一緒にみていきたいと思います。Appleが10年連続で1位、Microsoftが2位、Amazonが3位ということで、日本企業もトヨタやホンダなど7ブランドがランクインしていますが、妥当という見方もある一方で、変わり映えしないという感触もあります。
MarkeZineでも特集「2022年の急上昇ブランド~本質的なブランディングの核に迫る~」を組み、日本のブランドの取り組みを取材していますが、田中先生としてはどんな点、またはどのブランドに注目していますか?
田中:ブランドは、そもそもあまり変化しないのが企業にとっては大きなメリットなんです。ブランドを築くといいことがあるというのはまさにそこです。だから毎年調査していて変わり映えしないというのは、ある意味当然のことと思います。
ただ、20〜30年の幅を取るとかなり変動があるので、長期間にどういうふうに変化してくるのかという部分には注目すべきだと思います。ランキングを見ると、今のところプラットフォーマーブランドが安定的に推移しているといえます。
しかしそのなかでも微妙な変化があります。たとえばTwitterの場合、イーロン・マスク氏による買収後の変化はどうなるかが注目されますが、Metaもメタバース事業に取り組む一方でFacebookの広告収益が減り全体に業績が下がっています。プラットフォーマー全体がいろんな意味で曲がり角にきているといえるでしょう。
2022年の回顧として総括するならば、近年快進撃を続けてきたデジタル広告がいろんな意味で成長が鈍化して、プラットフォーマーが苦境に直面しつつある状態です。かつてのスマートスピーカーのように「この事業は伸びる」と言われながら、実は赤字幅が大きい事業が注目されるようになったことも2022年の大きな特徴だと思います。
ブランディングの2つの傾向性
MZ:ランキングではあまり変化がないように見えても、内実は様々な変化が生じているんですね。
田中:そうですね。振り返りだけだと議論が発展しないのでブランド全体について話しましょう。私は最近のブランドは2つの傾向性に分かれているように感じられます。なぜかというと、これまでのブランディングや広告の手法が市場にだんだん通用しなくなったからです。
たとえばフィリップ モリスが提供している紙巻きタバコブランドに「マルボロ」があります。これは1960年代に大成功を収めたブランドで、カウボーイのイメージキャラクター「マルボロマン」で一世を風靡しました。いわゆるイメージ広告というもので、商品間であまり差がなかった時代には、イメージの手がかりがとても重要だったんです。ブランドのシンボルとしてカウボーイを据え、そのイメージに惹かれて商品を購入するという具合ですね。
現在だと、たとえば歯磨き粉1つ取っても、口臭ケアや歯周病予防、ホワイトニングなど機能差や技術の差があるので、こうしたイメージ戦略はあまり意味をなさなくなりました。その結果、ブランディングも2つの傾向に分かれているように見えます。その2つの傾向とは「信号化」、そして「理念化」です。