ニュースやSNSの影響でブランドへの態度を変える消費者たち
MZ:ブランドのイメージということであれば、今は経営者や社員のSNS投稿でイメージが左右される時代です。そうしたことも理念化に影響があるのでしょうか。
田中:企業のトップや創業者に影響されてブランドを評価することは昔からありました。たとえばホンダだと本田宗一郎氏のものづくり精神とか、京セラの稲盛和夫氏もそのようなタイプの経営者です。
今は消費者も様々なニュースに触れるので、そのたびに評価をコロコロ変えがちですが、これも一種の理念的なブランドの現れだと思います。トップが何か不祥事を起こすと、途端にそのブランドが嫌いになる。そういうことも起こりますよね。
イーロン・マスク氏を例に挙げると、最近こそ評判はあまり良くないのですが少し前までは多くのファンがいました。Twitterのフォロワーも1億人超えで、非常に影響力があるんですよね。グローバルでフォローされているので、ちょっとしたつぶやきをするとそれが1億人以上に影響を与えてしまう。それで彼の関わる企業ブランドが右往左往しているのですが(笑)。
以上のように、理念化と信号化、この2つの方向性でブランドが動いているのが近年のトレンドではないかというのが私の考えです。
信号化・理念化の背景にあるトレンドとは
MZ:先ほどの信号化についてですが、ヤクルト1000のようにベネフィットはたくさんある商品でも、コミュニケーションメッセージは1つに絞ったほうが良いということでしょうか。
田中:1つに絞ったほうがいいと思います。ベネフィットが単純明快であること、これが大切です。ただ単純明快さよりも肝心なことは、当然のことながらベネフィット自体が今のユーザーニーズに基づいているかどうかです。それが最も大切なことだと考えています。
MZ:また先生がおっしゃる理念化というのは、昨今ブランドのパーパスの重要性が高まっていることと関係あるのでしょうか。
田中:そうですね、パーパスへの注目も背景にあると思います。ブランドというのは消費者に対してだけでなく、地球や社会、公共に対してもいいことをしているかということが問われますし、特に若い世代ではそれがものを買うときの評価基準になっていますから。パーパスの重要性が叫ばれているのは、そんな背景があると思います。
パーパスとは何かと問われたとき、正解はないと思うのですが、私の解釈では「(ビジネスを超えて)超越的な目標を持つ」ということだと考えています。パーパスという言葉が広まったのは、オバマ元大統領が影響を受けたといわれるリック・ウォレン牧師の著書『The Purpose Driven Life』(日本語版タイトル『人生を導く5つの目的―自分らしく生きるための40章』)がきっかけといわれていて、現世超越的な観点が含まれているんですよね。未来のために何かできることをしたほうがいいとは私も思いますし、一過性のものだけではなく、それがしっかり根付くようにすることが大事だと思います。
後編の記事「トレンドに惑わされず本質を見きわめるためにすべきこととは?ブランド戦略論の第一人者 田中洋氏の提言」は明日2月8日(水)9時半に公開予定です。