企業がパーパスに従うのか、パーパスが企業に従うのか?
――マーケティング領域でのパーパスの実践から、より広義で包括的なパーパスの実践へと、藤平さんの手掛ける案件も変わってきたじでしょうか?
そうですね。以前は「パーパス起点のマーケティングコミュニケーション」という仕事が多かったのですが、直近ではそうした仕事だけではなくなってきました。最近は、社員数万人のグローバル企業のパーパス&バリューを策定し、非財務価値を起点にM&A戦略も含めて事業のあり方を考えたり、新事業や新サービスを設計したりといった仕事が多いです。ご相談をいただくのが、マーケティング部門ではなく、経営企画部や新規事業部などに変わってきた、というのはわかりやすい変化と言えるかもしれません。あとは、経営層が悩んでいて、直接ご相談いただくケースも増えた気がします。

――そうした中で得られた新しい視点などはありますか?
経営アジェンダとしてパーパスを扱うとき、「企業がパーパスに従うのか、パーパスが企業に従うのか」という話が度々出てきます。先に結論を言うと、理想は「企業がパーパスに従う」ことです。後者(パーパスが企業に従う)は、パーパスが現状の企業のあり方に従うということ。つまり、パーパスと言いつつ、Be driven(=今の自分たちを言い当てたもの)になってしまうのです。よくある「レンガ積み」の話で考えると、パーパスが企業に従ってしまうと、自分たちの存在意義は「レンガを積むこと」から始まるので、恐らくこの先もレンガが中心になっていきそうです。ただ自分たちの存在意義を、「堅牢」みたいなキーワードで上位概念にシフトすれば、この先新しい素材も扱うでしょうし、セキュリティビジネスに着手するかもしれない。パーパスは本来、こうした飛躍と拡張のために決めるものだと思っています。
マーケティング視点で考えると、パーパスが企業に従う形が多くなってしまいますが、経営/事業をスコープにすると、企業のほうが新しく決めるパーパスに従う形を目指す必要があります。策定したパーパスを起点に、新規事業を作り、新しいものを生み出せる組織を作っていく――これに耐えうるパーパスなのかということと、しっかり向き合う必要があると思います。
Strategic Creative Directorとしての2030年までの中長期的な目標
――ここまで伺ってきたお話を踏まえ、2023年以降の目標や取り組みにキーワードをつけるとすると、何になるでしょうか?
2023年以降の僕のキーワードは、「アラインメント(整合)」です。パーパス&バリューの話も、企業がパーパスに従うべきという話も、このキーワードに包含されます。パーパスを策定しても、事業や組織など、バリューチェーンにしっかりとデリバリーされなければ、ほぼなんの意味もありません。ですが、残念ながら、今はそうした問題が多くの企業で起こっているように思います。そこには多くの“分断”があるのが現実なのです。パーパスを起点に事業や組織などすべてを整合していければ、パーパスで掲げる世界にたどり着けると思いますし、企業価値の向上にもつながってくると思います。パーパスを決めるでも、浸透させるでもなく、「すべてを整合させる」ということが私の中長期的な興味領域です。
ただ、このとき、真面目に整合していてもつまらないですよね。なので、より正確に言うと、「面白く整合する」ことを目指したいと思っています。パーパスは、ともすれば、圧倒的に正しく、真面目で、つまらないものになりがちです。だからこそ、「面白くする力」が重要になります。これまでも、生活者の身体と精神に向き合いながら、様々な手段で“面白い何か”を作る挑戦を続けてきた。その経験値や培った非言語的な感覚は、この領域においても、大きな力を発揮するのではないでしょうか。パーパスを起点にすべてを面白く整合するということは、戦略とクリエイティブを行き来して、泥臭くアウトプットし続けなければ達成できないでしょう。そういうことが、きっとStrategic Creative Director の役割なのではないかと思います。
