サステナビリティは経営課題へ
前回は「テクノロジーと人間的要素」を軸に紹介したが、「サステナビリティ」もNRF 2023において多く触れられ、今年一層の注目キーワードとなりそうだ。その意味は気候変動のリスクを背景にした「環境保全」の意味にとどまらない、様々な意味での「持続可能性」を意味すると改めて感じさせられた。
サプライチェーンの混乱やエネルギー価格の高騰によって、企業が生産活動をする上での持続可能な供給元や調達プロセスの見直し、労働者の保護による人件費の増加など課題は複雑化している。さらに、今後も欧米を始めとする政府のサステナビリティ情報の透明性の基準強化への対応などが、重要な経営課題になっていくことが予想される。今回のNRF 2023年テーマは”Breakthrough”(突破)。そのような複雑化するサステナビリティに対して、どのように突破口を見出すのか。
1社だけではサステナビリティは達成できない
ロレアルCSO マリッサ・パグナーニ・マクゴーワン氏とリーバイ・ストラウスCSO ジェフリー・ホーグ氏の対談ではサステナビリティへの課題に向け、今後の重要なポイントとして次の2つを挙げた。
1つ目は長期的なパートナーシップだ。マクゴーワン氏はファッション業界の課題を紹介した。ファッション業界は自社生産ではなく、サプライヤー企業によって生産されることが多い。つまり、1つの工場で複数社・複数ブランドの商品を生産している場合も多い。そのため、労働条件や生産プロセスで使われる原材料など、サプライヤーに求められるサステナビリティに関する重要な要素もブランドごとに条件が異なり、混乱が生じることも珍しくない。サステナビリティは長期的な目標のため、業界の中で足並みを揃え、さらには「政府、市民社会、政府間組織など、他の組織と協力する」ことの重要性を強調した。
2つ目は生活者が共感できる文脈を伝え体験を作ることだ。31カ国約3万人に実施した「サステナブルな生活に関する生活者調査(Globescan社)」によれば、生活者が消費習慣や行動に疑問を感じ始めており、10人中8人の消費者が、購入時にサステナビリティを考慮しているという。ただし、ホーグ氏は実際にサステナブルな文脈の製品は必ずしも購入に結びつくわけではないと指摘する。
その理由として、近年のグリーンウォッシュ(見せかけだけで環境配慮をアピールすること)を例に、企業の都合でサステナビリティを行っていることや、生活者が企業のサステナビリティに賛同する意味を見出していないこと、また生活者不在のサステナビリティが行われている点を指摘する。その上で、生活者がメリットを感じる体験をジャーニー全体で作ることの重要性を強調した。
4,500社以上が参画する、ウォルマート「プロジェクト・ギガトン」
「サステナビリティと大企業について考えたとき、ウォルマート以外の小売業は思い浮かびません。」
『コラボレイティブ・サステナビリティ』のセッションで司会者 コーリー・ターロウ氏の紹介で登場したのは、ウォルマート サステナビリティディレクターのクリス・ブルックス氏だ。
先ほど触れたように、サステナビリティにおけるパートナーシップを求められているが、具体的にサプライヤー企業との協力をどのように行うべきか。その事例の1つが米国小売最大手ウォルマートの「プロジェクト・ギガトン」だ。
このプロジェクトでウォルマートは、プロダクトの生産、包装、輸送の際に排出されるCO2削減を目指す。プロジェクト名のとおり、2030年までにギガトン(=10億トン!)を削減目標としている。ウォルマート1社だけで達成を目指すものではなく、取引のあるサプライヤー企業との協力によって達成を目指すもので、今やプロジェクトへの参画は4,500社を超える。このプロジェクトにこれだけのサプライヤーが参加するのはなぜか。
「プロジェクト・ギガトン」にサプライヤー企業が参画する最大のメリットは、取り組みに必要な支援を受けられたり、ネットワークを活用できることであるとブルックス氏は話す。たとえば、小規模なサプライヤーが、再生可能エネルギーにアクセスするためにそれまで取引のなかった自動車業界の企業と連携するなど、通常1社だけでは難しい取り組みが実現できたという。
プロジェクト参画にあたって、参画企業はサステナビリティへの取り組みに関するレポートを提出し、ウォルマート側は蓄積された膨大なデータを基に必要な支援を行っている。サステナビリティの目標は大きく長期的であるが、参画することでの実質的なメリットを享受できるWin-Winの関係構築が重要であると考えられる。