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日本郵便「デジタル×アナログ」実証実験プロジェクト(AD)

ROI前年比125%を実現 アシックスと富士フイルムビジネスイノベーションが実践したスマートDM施策

 企業のメッセージを手元に残るリアルな印刷物で届けることができ、顧客とのつながりを生む「ハガキ」のDM。アシックスジャパンでは、富士フイルムビジネスイノベーションとともにデジタルと連動するDM施策に取り組んでいる。会員サービスへの登録と新商品購入におけるDM施策で大きな成果を挙げ、全日本DM大賞において銀賞および審査員特別賞データドリブン部門を受賞した。今回は、デジタルとアナログが融合した両社のスマートDM施策の事例から、実施の狙いや戦略設計、クリエイティブの工夫を聞いた。

DMを活用して会員登録・新商品購入を促進

MarkeZine編集部(以下、MZ):皆さんの自己紹介と、現在の業務について教えてください。

髙岡:2008年に転職でアシックスに入社後、販売計画部を経て、2012年からウォーキング開発部の企画チームで商品企画に携わりました。その後、2015年から現在に至るまで、アシックスジャパン(以下、アシックス)の日常履きのシューズをメインで取り扱うウォーキング事業部で、デジタルやSNS・トレードマーケティング関連などの様々な領域のマーケティング業務に携わってきました。現在は、主に直営店のマーケティング担当をしています。また、一般社団法人日本ダイレクトメール協会のDMマーケティングエキスパート資格も取得しております。アシックスジャパン株式会社 ウォーキング事業部 リテールマーケティング部 デジタルマーケティングチーム 高岡 理世氏

アシックスジャパン株式会社 ウォーキング事業部 リテールマーケティング部
デジタルマーケティングチーム 髙岡 理世氏

池田:2006年に富士ゼロックス(現・富士フイルムビジネスイノベーション)に入社以来、営業畑を歩んできました。2009年からはグラフィックコミュニケーション営業統括部で、トランザクション印刷や商業印刷で使われる大型のプロダクションプリンタの営業を行ってきました。その後、2020年頃からマーケティングDXを支援するグループへと異動し、2022年より今回アシックス様にご採用いただいたマーケティングDX「Marketing Cockpit」の販売促進、また営業支援として西日本エリアを担当しています。

森村:2010年に富士ゼロックス(現・富士フイルムビジネスイノベーション)に入社後、当初はシステムエンジニアとして主にバリアブル印刷(可変印刷)の技術支援を行い、DMではよくバリアブル印刷が使用されることから、その後DMのターゲット設定や分析も担当しました。2022年頃に今回の「Marketing Cockpit」サービスを立ち上げ、現在は現場でお客様にサービスを届けるエンジニアとして活動しています。

富士フイルムビジネスイノベーション株式会社 グラフィックコミュニケーション事業本部 DX事業推進部 企画グループ 森村 貴志氏(写真左)、富士フイルムビジネスイノベーションジャパン株式会社 グラフィックコミュニケーション営業統括部 グラフィックコミュニケーション販売推進部 マーケティングDXグループ 池田 歩氏(写真右)
(写真左)富士フイルムビジネスイノベーションジャパン株式会社
グラフィックコミュニケーション営業統括部 グラフィックコミュニケーション販売推進部 池田 歩氏
(写真右)富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
グラフィックコミュニケーション事業本部 DX事業推進部 森村 貴志氏

MZ:今回、アシックスが行ったDM施策について概要をお教えください。

髙岡:2つの施策がございます。1つ目は、アシックスの会員システムである「OneASICS」の登録促進のDMです。OneASICSは2018年から新たにスタートした会員システムですが、旧会員システムから切り替えてくださる方や新規登録者がなかなか増えていかないという課題がありました。そこで、旧会員のOneASICSへの登録を促すために、会員登録キャンペーンとして3,000円オフのクーポンや、OneASICS会員が得られるお得な特典をDMに記載し、1万5,000通を配布しました。

 もう一つは、2022年4月に新発売したスニーカー「PEDALA RIDEWALK(ペダラ ライドウォーク)」の購入促進のDMです。購入促進という特徴から、以前アシックスでスニーカーを購入された方を中心に、親和性の高いセグメントに向けて約7万通を配布しました。

二次元バーコードトラッキングで実店舗とECの顧客は共存可能と判明

MZ:アシックスが新たなDM施策を行った背景を教えてください。

髙岡:従来からハガキによるDM施策は実施していましたが、セグメントが「購入金額上位」といった簡単なものだったため、DM送付後の細かな分析ができず難しく感じていました

 富士フイルムビジネスイノベーション(以下、富士フイルムBI)様の「Marketing Cockpit」は、DMを送付する際のセグメント抽出や、購入者の可視化や効果測定・行動分析ができる点が魅力です。当社のニーズとも合致しており、採用に至りました。

 実際に「スニーカー購入層」といった商品に合わせたセグメントや、非会員の中からさらに細かなセグメントなど、施策に合わせたセグメント分けができて効率的になったのは非常に良かったです。

 DMは元々直営店舗への来店施策である一方で、二次元バーコードをつけてECサイトへの誘導も行っていました。店舗スタッフからは「ECサイト用の施策じゃないか」という反発もありました。

 しかし、DMを受け取った既存のお客様の多くは、Web上でコンテンツを確認しつつも実際は店舗で購入されていることが、二次元バーコードによるトラッキングにより明らかになりました。DMで購入までの行動が可視化できたことで、「お客様は店頭のサービスにご満足いただけているからこそ来店してくださっている」ことがわかり、今では自信を持って施策を行うことができています。

パーソナル二次元バーコードを付与して遷移率を10%改善

MZ:アシックスの課題解決に向けて、富士フイルムBIではどのような設計を行いましたか。

池田:「Marketing Cockpit」を用いてデータ統合・分析・可視化、セグメント抽出、パーソナライズ化のサイクルをご提供しました。まずは、DMが届いてからの顧客行動の計測ができるように、パーソナライズ二次元バーコードを付与しました。施策前は、DMが届いた後のお客様の行動がわからず、店舗で購入していただいて初めてその行動がログとして残る状況でした。

 パーソナライズ二次元バーコードにより、その顧客がWebサイトを訪れているのか、ECで購入しているのか、店舗で購入しているのかといった行動を計測し、顧客行動を明らかにしました。その行動結果をもとに施策の目的に応じたセグメント設計をしました。そしてその結果を分析するサイクルを回すことで、顧客行動データを蓄積し顧客理解を深めています。

パーソナル二次元バーコードを付与したハガキ
パーソナル二次元バーコードを付与したハガキ

森村:さらに弊社では、アシックス様から取得させていただいたPOSデータやWebサイトのアクセスデータを組み合わせ、データベース化することでセグメントの切り出しを容易にしました。また、店舗で購入されたログとDMを送付した方のデータを突き合わせることで、「DMを受け取ったどのくらいの方が購入したのか」を可視化するダッシュボードも構築しました。

MZ:Webサイトにアクセス後の設計についてはいかがですか。

池田:二次元バーコードから会員登録サイトに飛んで実際に会員登録するまでの割合を計測したところ、DMからアクセスしても3割もの方が離脱していることが判明しました。要因は、会員登録サイトの画面上に既に会員であることが前提のログイン画面が表示されることで「自分向けのページではない」と感じて離脱してしまうからという仮説を立てました。

 そこで、DMの二次元バーコードからアクセスした人のみに会員登録サイト上でポップアップを出し、クーポン利用導線を構築したところ、ポップアップありの方がなしに比べ遷移率は10%向上、会員登録率も3.3%アップしました。

開いてもらうことを重視 あえてZ型にしたクリエイティブ

MZ:クリエイティブについてはどのような工夫を行いましたか。

池田:過去の施策では、定型サイズのペラやV字圧着ハガキに文字と画像のみのシンプルなDMが多かったとのことでした。そこで、フュージョン社と協業して非定形型の大判に近いサイズのV型・Z型で圧着する形状に変更し、まず手に取って開いてみたくなるようにしました。また、顧客名を印字し呼びかけることで、特別感ある導入で開封の誘導も狙いました

 会員サービス登録促進DMでは、会員システムを切り替えいただいた方に向けた3,000円オフクーポンを「特別なご案内」として強調。また、ポイント還元率が以前の会員システム(0.5%)から10倍の5%にアップした点など、OneASICS会員の特典を大きく表示しました。

 新商品の購入促進を目的としたDMには、開発者の方が新たなスニーカー「ペダラライドウォーク」に込めた想いやその機能性をお顔写真とともに記載し、ものづくりに対する情熱が伝わるようなクリエイティブにしました。また、今回の新商品は、アシックス様にとって久々の新機能を搭載したスニーカーということで、商品の大きな写真や洗練されたスタイリング写真を意識的に配置しました。

開発者のメッセージが見えるクリエイティブ画像
開発者のメッセージが見えるクリエイティブ画像

森村:また、パーソナライズされたDMという特徴を活かして、検証として離反期間ごとにクーポン金額を「1,000円」と「2,000円」とで可変にして配信しました。すると反応率は大きく違い、「1,000円」が4.7%、「2,000円」が10%で、「2,000円」の方が購入単価も高くなっており、「2,000円」の方が売上としては伸びたことがわかりました。

会員サービス登録促進でROI前年比125%を達成

MZ:今回のDM施策によって得られた成果・効果をお聞かせください。

髙岡:1つ目の会員サービス登録促進では、売上計画比152%という結果になりました。

 2つ目の新商品購入促進では、高単価なスニーカーながら、多数の店舗からサイズ欠品(売り切れ)が発生するほどでROI前年比125%、売上計画比142%を達成しました。

 定性的な成果としては、DMを店舗に持参される方が増えたことです。お客様が「これ届いたのよ」とそのまま持って来て、店舗スタッフと一緒にハガキの圧着を開き、新商品が発売したことを知ると「じゃあ私に合うのはどれかしら?」と購入されるパターンもありました。このように店舗に対する絶対的な信頼を寄せてくださっているお客様もいるということがわかりました。DMを使ってお客様との関係構築の一つの手段にできたことは大きく、今後も続けていきたいと思っています。

 さらに、DMは店舗スタッフのモチベーションをあげることにも作用しました。ペダラ ライドウォークの商品力がもちろん高いのもありますが、これだけしっかり力をかけたDMだからこそ、マーケティングに力を入れていることが店舗スタッフ含め全体に伝わり、一体感を持ってお客様にお届けすることができたと感じています。

企業視点ではなく、お客様視点のDM施策を目指す

MZ:今回の施策を通して気づいた、DM施策ならではの良さや強みはありますか。

髙岡:お客様が手に取るものであることだと考えています。デジタル化が進むにつれて、ポストに届く請求書や案内の量自体が少し減っていますよね。そんな中、ハガキが届くと、逆に「なんだろう」と開いてみたくなって、新商品の発見につながる。デジタルが進んでいる世の中だからこそ、リアルなハガキから伝わる温かみや視覚的に与える印象は、DMの良さだと実感しています。

池田:アシックス様からいただいた気付きとして、新規のデジタル広告よりもDMの費用対効果が高い場合がある、という良さがあります。さらにデジタルであれば、メールをオプトアウトされてしまうと会員母体に対して届けることができる母数が少なくなってしまいます。

 ですが、アシックス様は住所をきちんと開示頂いている会員様が多いので、そういった方にはきちんと情報を届けることができます。デジタルとDMを組み合わせていかにコミュニケーションを設計していくかが重要になってくるかと思います。

MZ:アシックスでは、今後DM施策をどのように活用したいとお考えでしょうか。

髙岡:新商品リリースなど会社側のタイミングだけでなく、お客様それぞれの買い替えのタイミングで手元に届けられるようにできればいいなと思っています。DMが届いたことをきっかけに、新しいものが欲しいと思ってもらったりすることで、関係性が構築できるような新たな仕組みを実現していきたいです。また、店舗ごとのセグメントの特徴を見ながら効果的なDMをお送りするなど、より深い顧客分析をDM施策につなげていきたいと考えています。

MZ:富士フイルムBIでは、今回のDM施策を踏まえて、今後はどのような活用を考えていますか。

森村:お客様の購買タイミングに合わせてお送りしたり、その人ごとにおすすめする商品を変えたりするなど、「その人のためのDM」に近づけていきたいと考えています。それにより、長期的に安定した会員の基盤を築いて売上が伸び続けていくような支援ができればと思っています。

スマートDM始めませんか?

 スマートDMは、デジタルと紙のDM(ダイレクトメール)を掛け合わせた手法のこと。デジタルとリアルのいいとこどりができるから、五感を揺さぶる1枚が、届けたい人のみにムダなく届く。これからの時代を想う、サステナブルを目指す新手法です。

画像:スマートDMはじめませんか?

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この記事の著者

堤 美佳子(ツツミ ミカコ)

ライター・編集者・記者。1993年愛媛県生まれ。横浜国立大学卒業後、新聞社、出版社を経てフリーランスとして独立。現在はビジネス誌を中心にインタビュー記事などを担当。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2023/03/28 12:37 https://markezine.jp/article/detail/41535