インサイドセールスを戦略的に行うには?
昨今は、デジタルツールの発展や感染症対策などの背景から非対面での営業手法が注目を集めています。架電による営業などの「インサイドセールス」もそのひとつです。一方で、戦略的な運用に苦心している企業も少なくないのではないでしょうか。
そこで今回は、インサイドセールスとは何か、成功させるために知っておくべき基礎知識、自社に導入するまでの必要ステップなどを紹介します。
インサイドセールスとは?
インサイドセールスとは、自社の見込み顧客(リード)に対して電話やメールなどを活用して、非対面かつ遠方にいながら行う営業活動、あるいはその活動を行うチームそのもののことです。
インサイドセールスの役割は顧客の興味・関心や悩みをヒアリングしながら、顧客自身でさえ自覚していなかったニーズを気づかせるといった「リードナーチャリング(顧客育成)」にあります。
インサイドセールスは、自社からのアプローチだけでなく、問い合わせのあった顧客に対してスピード感を持って折り返しの連絡を行う活動も含まれます。さらには、顧客情報の管理や記録などを担うことも珍しくありません。
従来インサイドセールスは、営業が行う商談の設定までを担うものとされていましたが、オンラインによるコミュニケーションが当たり前になった昨今では、商談を担当するケースもあります。とはいえ「インサイドセールスがどこまで担当するか」は、各社のビジネスモデルや規模感によって異なるでしょう。
訪問営業(フィールドセールス)との違い
日本の伝統的な営業スタイルでは、一人の営業担当者が顧客のリストアップから接点構築、その後の商談やクロージングまで一気通貫で担っていました。
しかし、昨今では顧客が購買に至るまでのプロセスをフェーズごとに分け、それぞれ異なる部門が対応する「分業制」も広まりを見せています。
セールスフォース・ドットコム社によって唱えられた営業の分業体制「THE MODEL」では、「1. マーケティング→2. インサイドセールス→3. 営業→4. カスタマーサクセス」で営業体系が構成されています。この分業型においては、旧来型の訪問営業(フィールドセールス)は「3. 営業」が担います。
たとえば、インサイドセールスのひとつであるテレアポは、テレ(遠隔)にいながら、顧客とコミュニケーションを図る手法です。しばしば「内勤営業」ともいれ、訪問営業とは明確に実施方法が異なるものの、マーケティングや営業と同等に重要な役割を果たします。
テレアポとの違い
インサイドセールスは、しばしばテレアポと混同されがちです。確かに、インサイドセールスの業務において架電営業は重要な役割を果たしますが、前述のとおりテレアポはインサイドセールスのひとつでしかありません。
テレアポはその名のとおり「アポ取り」のために行っている営業活動であるのに対し、インサイドセールスは架電やメール、コミュニケーションツールも含めたさまざまな手段で、顧客とコミュニケーションを図ります。
インサイドセールスを通じて行われるのはアポ取りだけでなく「顧客ニーズのヒアリング」「案件化見込みがあるかどうかの判断」など、営業へのリードのパスも想定したアプローチです。
インサイドセールスの種類
インサイドセールスの手法は「SDR:PULL型営業(反響型)」「BDR:PUSH型(新規開拓型)」の2種類に分けられます。ここからは、それぞれの概要を解説します。
SDR:PULL型営業(反響型営業)
「SDR」とは、PULL型営業(反響型営業)ともいわれ、既存顧客との関係性や新規顧客との接点の構築を担当します。
たとえば、オウンドメディアでの資料請求や問い合わせフォームから接触があった企業内担当者へのアプローチは、SDRの担当範囲です。
SDRからの架電やメールが新規顧客との最初のやり取りとなるケースも多々あるため、SDRには顧客との関係値を適切に構築できるヒアリング力やトークスキルが求められます。
さらに、クロージングにつなげるためには、営業活動では顧客の購買意欲が高まった状態でのアプローチが重要です。そのため、顧客からのサインを見逃さず、スピード感を持った判断を行う必要があります。
なお、新規リードの獲得方法については、自社に合った新規リード獲得施策の見つけ方の記事で詳しく解説しています。
BDR:PUSH型営業(新規開拓型営業)
PUSH型営業(新規開拓型営業)と呼ばれる「BDR」のインサイドセールスは、顧客がとったアクションに呼応して動くSDRとは異なり、自社起点で営業活動を行う手法です。
ただし、あらゆる見込み顧客にアプローチしていてはリソースも足りないため、以下のようにある程度ターゲットを絞る必要があります。
- 自社を認知してもらいづらいと判断される企業
- なかなかつながりを形成できない企業
- 大手などの積極的に売り込んでいきたい企業
上記のようなBDRを行うターゲット企業の選定では、事前に企業情報を取得したうえで、策を練る必要があります。ただし、BDRはニーズが顕在化していない企業へのアプローチは、労力を割いてでも繋がりを形成する意義がある企業でなければなりません。
自社商材や事業規模により、アプローチするべき企業の条件は異なるでしょうが、エンタープライズ企業やレガシー企業など、攻略難易度は高いものの、接点構築によるリターンが大きい企業を選定する傾向にあります。
BDRのアプローチ方法は「代表者への架電」「IR情報などで公開されているキーパーソンへの手紙」といった、地道な作業が求められます。
インサイドセールスが求められている背景
インサイドセールスが普及した背景として、ネット環境の整備に加え、メールやSNS、チャットツールといった非対面でやり取りを行う土壌が整ったことが挙げられます。加えて、少子高齢化に伴う労働人口の減少や働き方改革により、営業担当者が各社を訪ねるスタイルでは十分な成果を上げづらくなったことも実情としてあります。
以上のような理由により、多くの企業でDXによる営業活動の効率化の流れができているのです。なかでもインサイドセールスが注目を集める要因として、MA(マーケティング・オートメーション)の存在が挙げられます。
インサイドセールスについて詳しく解説されている『THE MODEL』(福田康隆氏、翔泳社)では、以下のように述べられています。
ここ数年、インサイドセールスへの注目がさらに高まっているが、そのことはマーケティング・オートメーション(MA)の普及と密接な関連がある。MAの登場により、インサイドセールスの仕事は飛躍的に高度なものに進化しているからだ
MAを使えば、資料請求やボタンクリックといった顧客の「行動スコア」ではなく、所属している企業や部署、役職などの「属性スコア」によるアプローチができます。そのため、顧客情報に基づいた適切な対話を可能にするインサイドセールスを採用する意義が高まっているのです。
企業がインサイドセールスを導入するメリット
インサイドセールスに企業が取り組むメリットとしては、「受注確度のアップにつながる」「少人数でも成果を上げられる」などが挙げられます。ただし、いずれも自社のビジネスモデルとインサイドセールスの相性次第という点に留意が必要です。
受注確度のアップにつながる
従来の訪問型営業の場合は、アポイント順に営業活動を行うため、受注の可能性に関わらず、各顧客に同等の時間やエネルギーを割くことになります。
しかし「注力すべきターゲット企業の選定」「新規顧客へのアプローチ」「ニーズの掘り起こし」などをインサイドセールスに分業すれば、営業担当者はインサイドセールスからパスされた顧客にのみ集中できます。またその結果として、全体的な成果向上も期待できるでしょう。
特に、インサイドセールスの実施前にMAを活用して顧客属性や顧客インサイトをあらかじめ把握しておけば、より確度の高い顧客を次工程の営業につなぐことが可能です。
少人数でも成果を上げられる
インサイドセールスでは、顧客企業を直接訪問せずにアプローチしていくため、担当者一人で複数の顧客と接点の構築や維持を図れます。つまり、少人数のチームであっても、自社が抱える各顧客のニーズが顕在化するまで、リレーションの維持ができるのです。
営業担当者も、受注見込みの低い顧客への対応から解放されるため、こちらも多くの必要最小限の人数にとどめられます。
企業におけるインサイドセールスの導入手順
企業がインサイドセールスを導入する際の手順は、以下のとおりです。
手順1.インサイドセールスを導入する範囲の決定
手順2.インサイドセールスの体制構築
手順3.人材確保
手順4.顧客データの収集・リスト作成
手順5.シナリオ作成とKPI設計
それぞれ個別に見ていきましょう。
手順1.インサイドセールスを導入する範囲の決定
まず、インサイドセールスを導入する際には「どこまで営業プロセスを担うのか」という、担当範囲の明確化が求められます。
営業担当者が一人で「リード創出→クロージング」までを担っていたのが、従来型の営業スタイルです。前述のとおり、インサイドセールスは「リードナーチャリング」を主目的としていますので、営業部門とは明確に担当範囲を分ける必要があります。
担当範囲を明確にすることで、前述の部門間連携もスムーズに進み、従来の営業スタイルでは属人的になりがちであるという問題点も解決できるでしょう。
手順2.インサイドセールスの体制構築
インサイドセールスは、マーケティングと営業の間に立つチームであるため、部門間の連携も重要です。
たとえば、インサイドセールスはマーケティングから顧客情報を正確に手渡してもらうことでアプローチの精度を高められます。
また、営業に手渡した後も商談結果や顧客の反応についてできる限りのフィードバックを受ければ、顧客のインサイトをより詳細に把握することも可能です。
さらに、マーケティングや広報が実施するキャンペーンなどについても都度共有しておくことで、育成中の顧客に対するインサイドセールスにも活用できるでしょう。
インサイドセールスを実施する際は、単なるチームアップにとどまらず、各部門の担当者レベルで円滑なコミュニケーションを行える体制を構築することが必要です。
手順3.人材確保
インサイドセールスの導入が決まれば、次は実務を担う人材を社内で選定しなければなりません。インサイドセールス担当者としては、マーケティングと訪問営業の知見を兼ね備えた人材が理想的です。
とはいえ、既存部門から選出するとなると、各部門の戦力が落ちることも懸念されます。
ちなみに前出の『THE MODEL』では、インサイドセールスは外注すべきではないとしたうえで、インサイドセールスの役割を以下のように定義しています。
自社製品はどのように見られているか、見込客はどのような製品や情報を求めているかなど、データだけではわからない市場の肌感覚をつかみ、マーケティング部門や経営陣にフィードバックすること
つまり、インサイドセールスでは自社への理解度が高い人材を、教育費を投資して育成しなければならないということです。その過程で外部専門家のアドバイスやコンサルティングを受けるケースはありますが、インサイドセールスが担うべき本質的な役割は、自社人材に委ねる必要があるといえるでしょう。
手順4.顧客データの収集・リスト作成
インサイドセールスが担うのは、既存顧客へのフォローと新規顧客へのアプローチです。的確なフォローやアプローチを行うためには、遠隔での営業活動の前提として顧客データの収集を行い、ターゲットリストを作成しなければなりません。
インサイドセールスの使命は「顧客ニーズがどこまで顕在化しているのか」を推測し、受注確度の高い顧客からアポイントを取り付け、営業担当者へつなぐことです。
そのためには、収集した顧客情報のデータ化や顧客情報管理ソフトなどの専用ツール導入を進める必要があります。
手順5.シナリオ作成とKPI設計
インサイドセールス導入を成功させるためには、最適な「KPI(Key Performance Indicator)」の定義が不可欠です。KPIとは「重要目標評価指標」とも呼ばれるマーケティング用語で、最終的に達成すべきゴールである「KGI」に向けて設定する中間ゴールです。
インサイドセールスで設定されるKPI例は、以下のとおりです。
- アポイント取得件数
- 商談化件数/金額
- 受注件数/金額
インサイドセールス立ち上げ段階では「アポイント取得件数」「商談化件数/金額」をKPIとすることが推奨されます。「商談化件数/金額」が増えれば、自然と「受注件数/金額」も伸びてくるためです。
KPI設定後は各部門と連携を図りつつ、目標数値を達成できるように取り組みを推進していくことになります。
インサイドセールスの成功事例
ここからは、インサイドセールスの成功事例を紹介します。
“未来のお客様作り”を志向する「コニカミノルタ」の事例
オフィス関連用品を扱うコニカミノルタジャパン株式会社は、2018年にインサイドセールスも含むマーケティング組織を立ち上げました。
同社はインサイドセールスを「未来のお客様作りを担う役割」と定義し、一人目のインサイドセールス担当者として社内で高い営業成績を誇る人材をアサインしました。これにより、商談につながる勘所を理解したアプローチが可能になったとしています。
さらに同社は、外部パートナーと内製のバランスを見ながら、BDR・SDRの体制を構築しました。具体的には、BDRは高い営業ノウハウを有する企業に委託し、SDRは自社インサイドセールスが担う形式です。
またコール、コネクト、コンタクト、ナーチャリングリード、商談機会獲得、有効商談の数をKPIに設定してパフォーマンスを評価し、効果改善に努めています。
コニカミノルタジャパンの取り組みについて、詳しくは下記の記事で紹介していますのでご参照ください。
(記事:マーケは全体最適・インサイドセールスは未来のお客様作り。コニカミノルタ流の新規顧客開拓と商談機会創出)
コロナ禍でも顧客数が85%アップした「HubSpot」の事例
MAツール「HubSpot」を提供するHubSpot Japan株式会社は、基本的にすべての商談をインサイドセールスで行っている企業です。同社は「先にこちらからお客様へ価値を届けて信頼関係を構築して、お互いが成長できる状態を目指す」というインバウンドの思想に基づいて営業活動を行っています。
HubSpotが行ったインサイドセールスの取り組みは、コロナ禍においても顧客数約85%増の形で貢献しました。同事例からは、顧客との深い信頼関係を構築することの重要性が伺えます。
まとめ
非対面での営業活動も主流になりつつある昨今において、マーケティングと営業を分業体制で行うインサイドセールスは、クロージングにつなげるための重要な施策です。ニーズが顕在化した受注確度の高い顧客を営業に手渡せば、営業担当者は少ない労力で、より多くのクロージングを狙っていけます。
インサイドセールスの内製においては、各部門に精通した人材によるチームアップが不可欠ですが、多くの企業で取り組む意義のある営業手法といえるでしょう。