この記事は、日本マーケティング学会発行の『マーケティングジャーナル』Vol.42,No.4の巻頭言を、加筆・修正したものです。
マーケティングと文化の深い関係
海外のBtoCビジネスにかかわっているマーケターの中には、進出先の文化と日本の文化との違いに直面し、苦労されている方も少なくないのではないでしょうか。国内のみでビジネスをしていた時にはほとんど意識をしていなかったものの、多くの企業が海外での販売に力を入れる中で、文化の影響力の強さを認識されている方が多いはずです。
マーケティング研究においては古くは1970年代頃から、文化がマーケティング活動に及ぼす影響や文化による消費者の選好の違い、文化を使ったセグメンテーションなど、様々な研究が行われてきました。こうした国や地域の文化の他にも、マーケターは文化と深いかかわりを持っています。
たとえばサブカルチャーや若者文化といった消費文化や、芸術やスポーツといった文化的活動に対するスポンサーシップ、顧客志向など自社の組織文化が挙げられます。そのため国内ビジネスを担当するマーケターであっても「文化的な要素」を考えずに企画・立案することはほとんどないでしょう。
文化を作る・売る・利用する
文化とマーケティングの関係で最もイメージしやすいのが、国際マーケティングです。海外進出した企業が自国とは異なる消費者・商習慣に直面し、マーケティング・ミックス(4P)の現地化・標準化について考えます。これはマーケティングが「文化に影響される」という関係です。
こうした受動的な関係も重要なのですが、マーケターはもっと主体的に文化を活用することがあります。それが、企業がマーケティング活動によって消費に関する文化、あるいはサブカルチャーを作り出すことです。
たとえば居酒屋で多くの人がハイボールを注文するようになったのは、ウイスキーメーカーが積極的にマーケティングを行ったからです。一次的な流行ではなく日本の食文化に根付いたとすれば、これは文化を作った事例といえるでしょう。
また、文化的な要素を含む製品・サービスを売ることもあります。いわゆる「クールジャパン」に代表されるような、文化的コンテンツの販売です。多くの国で日本のマンガが販売されファンを獲得しているのは、「文化を売るマーケティング」が成功しているからでしょう。逆に国内でも、K-popをはじめとした韓国文化に影響された製品・サービスが数多く販売されています。
マーケティングでは、文化が持つ影響力を利用することもあります。スポーツや芸術活動といった文化的活動やそれを行う選手やアーティストを支援することで、ブランドの認知度向上やイメージの改善につなげます。
企業にとっては広報や社会貢献活動に近いのかもしれませんが、マーケティングの側面があることも確かです。一例としてオリンピックやWBCといった巨大イベントの際には、企業がイベントをスポンサードしたり巨額の広告費を投じCMを流したりしています。