アメリカにおける日本料理の普及の考察
2つ目の論文は、松井剛教授による「ニューヨーク市における日本料理レストランの歴史(PDF)」です。
近年、寿司やラーメンをはじめとした和食・日本食が世界中で消費されています。しかし、生魚のような異質な食材・食文化を受け入れることは、海外の消費者にとって容易なことではなかったはずです。
本論文は、多様な食文化が受容されているニューヨーク市において日本食レストランが定着した歴史を、当事者に対するインタビューと新聞記事・料理書・レストランのメニューなどの歴史的アーカイブに基づいて記述しています。
企業が単独で行うマーケティングと違い、20世紀初頭から始まる複数の企業家の多様な取り組みと戦後の日本企業の進出によって、徐々にニューヨーク市内で日本料理とその消費文化が受け入れられました。寿司・ラーメンといった典型的なものだけでなく、多様化し細分化された日本料理レストランがいかにニューヨークの街に根付いたかを、食材の輸入・卸売業や調理器具販売業、業界団体など周辺産業も含めて歴史的に分析・考察されています。
企業によるアート支援、不祥事がスポンサー企業に与える影響
3つ目、川北眞紀子教授と薗部靖史教授の論文「メディアとしてのアートプレイス―芸術支援のパブリック・リレーションズにおける役割―(PDF)」では、アートをステークホルダーとの対話の場として活用する事例を紹介。アートがある空間(アートプレイス)をメディアととらえ、それを使った企業活動を類型化し特徴を整理しています。
一般的な企業活動と違い、多様な目的と効果を期待して行われる芸術支援活動は多くの企業にとって管理が難しいものだと思われます。しかし近年では、SDGsの取り組みの一環として芸術支援を行う企業が多くあります。他にも、芸術支援を通じた自社のブランド・イメージの向上やステークホルダーとの対話を行う企業もあります。
こうした活動の役割をパブリック・リレーションズ(PR活動)の視座から再定義したのが本論文です。アートプレイスの所有形態(ペイド/オウンド)とステークホルダーとの相互作用性の高低によって分類し、その運用方法と効果(深さと期間)について考察しており、芸術支援活動の管理に役立つ内容だと思います。

4つ目の論文は、松井彩子講師の「スポーツスポンサーシップにおけるネガティブインシデントへの消費者の反応―東京五輪のスポンサー汚職に関するツイートデータを用いて―(PDF)」です。
2021年に行われた東京オリンピックでは、様々な不祥事があったことが報じられています。東京オリンピックのスポンサー企業は、スポーツという文化的イベントをサポートすることによって企業イメージの向上を意図していたはずです。
しかし、オリンピック後に不祥事が報道されることでイベント自体のイメージが低下し、その影響がスポンサー企業にも波及した可能性があります。この論文では、Twitterの書き込みデータからスポンサー企業への影響を探索的に調査しています。
いずれの論文も文化とマーケティング活動、消費者行動の関係に重要な示唆を与えてくれる研究です。ぜひご一読ください。
