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花王廣澤氏が若手視点で聞く、これまでとこれからのマーケティング

Advertising Weekがなぜ日本に?広告業界の根本的課題【イグナイト笠松氏×花王廣澤氏】


 花王のマーケター・廣澤祐氏が、業界で活躍しているキーパーソンと対談する本連載。今回は、長きにわたり広告業界に従事し、2016年にマーケティング&コミュニケーションのプレミアイベントAdvertising Week Asiaを日本に誘致したイグナイトの笠松良彦氏に、これまでの広告業界の変化、そしてAdvertising Week Asiaの企画・運営で大事にしていることを聞いた。

メディアビジネスの先細りに危機感を覚えていた

廣澤:最初に、笠松さんのご経歴と現在取り組まれているお仕事の概要について教えてください。

笠松:私は1986年に新卒で日本電気(NEC)に入社し、中近東のイラン担当として海外営業を6年ほど経験しました。その後、別業界の営業の仕事に携わりたいと博報堂に転職し、8年の営業経験を経て2001年に電通に転職しました。

 電通で在籍したのは、メディアマーケティング局という部署です。この局では、これまで勘と気合と真心で取り組んできた、マスメディアの広告に関するアカウンタビリティを証明する取り組みを行ってきました。具体的には、メディアプランナーやリサーチャーのような仕事をしながらも、自ら企画書や資料を作ってプレゼンをするなど、ほぼ何でも屋をやっていました。

 その後、電通とリクルートのジョイントベンチャーMedia Shakersの社長に就任し、R25の制作から広告営業まで行う新しいメディアビジネス事業の経営を担いました。元々電通に入社したのは、メディアビジネスが先細りしていく危機感があり、新たなメディアビジネスモデルを立ち上げたいと思っていたので、とても良い経験になりました。

 その後、2010年7月にイグナイトを立ち上げて独立し、現在に至っています。

株式会社イグナイト 代表取締役社長 笠松 良彦氏
株式会社イグナイト 代表取締役社長 笠松 良彦氏

廣澤:メディアビジネスが先細りする危機感があったとのことですが、笠松さんが電通に入社された2001年頃はマスメディア全盛で、多くのメディアが今ほど危機を感じていなかったと想像しています。なぜ笠松さんはいち早く危機感に気づけたのでしょうか。

笠松:海外でセントラルメディアバイイングと呼ばれる手法が流行したことがきっかけです。この手法は、メディアの買い付けを1社の広告代理店に絞り、そこから競合見積もりをとることで、コストカットを図るものです。

 海外では、セントラルメディアバイイングで削減したコストを、ブランドエージェンシーやマーケティング支援などに適正配分してきました。つまりマーケティングの総コストを下げると言う文脈よりも、適正配分しようという流れです。しかし、日本では単純にメディアのコストを安く抑えることができるという文脈でこの手法が出回ってしまったのです。結果、メディアの価格競争は避けられず、ただ単純に広告単価が下がる流れが起きていたのを見ていたので、今後のメディアビジネスがこのままだと先細りするのでは、と思っていました。

広告業界はスマートになりすぎた

廣澤:イグナイトを設立したのはなぜでしょうか。

笠松:先ほど、電通のメディアマーケティング局にいたとき、何でも屋としてあらゆる仕事を担当していたと話しました。このとき一方では、「広告代理店の仕事には無駄があるのでは?もっと効率よくプロデュースできるのでは?」とも思うようになりました。実際、クライアントの担当者の方と話していても「広告代理店って、一言も発言しない社員とかもいて効率が悪い」と言われることがあり、一人あらゆる領域に精通したプロデューサー的な社員がいたほうがいいと考えるようになりました。

 そこで、マーケティングからディレクション、イベント、デジタルまであらゆる領域のプランニングに精通していた菊地英雄(現・イグナイトの取締役プロデューサー)と一緒に、イグナイトを立ち上げました。

廣澤:長きにわたり広告業界に携わる笠松さんですが、これまでの日本の広告業界を振り返り、大きく変化したと感じられるポイントはありますか。

花王株式会社 DX戦略部門 事業DX推進センター 事業DXサポート部 データドリブンMK推進室 廣澤 祐氏
花王株式会社 DX戦略部門 事業DX推進センター 事業DXサポート部 データドリブンMK推進室 廣澤 祐氏

笠松:日本の広告業界は、ゆっくりと地盤沈下するように衰退しているという印象です。海外では、先ほどのセントラルメディアバイイングが普及したときのように、基本的にマーケティングの総コストを下げずにその配分を変える考え方のほうが主流として浸透しています。そのため、クリエイティブディレクターのアイデアなど、付加価値が高いと認められるものにはしっかりと適正なお金を払います。

 一方、日本ではフィー型のビジネスも徐々には入りつつはありますが、プランナーやマーケター、クリエイティブディレクターの仕事に対して正当な対価を払う文化はまだまだ浸透していないのが現状だと思います。結果として、単純にコストだけどんどん削減され、広告会社の筋肉量(仕組みや働き方)が年々落ちていっているという印象があります。

 もちろん、広告会社には頭の良い優秀な人が毎年のように入ってきています。しかし、企業としての筋肉量が細くスマートになってしまい、これまでと同じようには広告会社がパワーを発揮できなくなっているのではないでしょうか?

廣澤:「広告はおもしろくなくなった」といった意見を広告・コミュニケーションに携わる方から聞いたことがありますが、その背景には笠松さんがご指摘されている点があるのかもしれませんね。

笠松:以前よりも考える筋肉の総量が減って、その結果、おもしろいコミュニケーションの総量も減り、賢く、リスクをとらず、効率の良いコミュニケーションを追い求めるようになっているのかもしれませんね。

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この記事の著者

道上 飛翔(編集部)(ミチカミ ツバサ)

1991年生まれ。法政大学社会学部を2014年に卒業後、インターネット専業広告代理店へ入社し営業業務を行う。アドテクノロジーへの知的好奇心から読んでいたMarkeZineをきっかけに、2015年4月に翔泳社へ入社。7月よりMarkeZine編集部にジョインし、下っ端編集者として日々修業した結果、20...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2023/05/16 18:15 https://markezine.jp/article/detail/42159

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