顧客理解を徹底的に試みわかってきた、人生100年時代のリアル
田中:顧客の立場になるために、どのようなことを実践していらっしゃいますか?
沖中:これまでサントリーウエルネスでは消費者調査を種々行ってきました。しかし、私の考えでは、アンケート調査の類には限界があります。顧客の心の奥底を理解しようとすることこそが大事なのです。
シニアの方々の心の奥底は、まだ当事者ではない私たちには、なかなかわからないものです。そこで、我々は、お客様への訪問調査を実施しています。実際には、オンラインでお客様にインタビューすることが多く、パソコンをお持ちでないお客様には、電源を立ち上げればインタビューの画面に簡単に繋げられるよう設定にした状態でタブレットをお送りしています。
こうした調査を約2年半、1,000人規模で行ってきました。この目的は、ゴールの解像度を高めるため、顧客理解を徹底するためです。
田中:どのような成果があったでしょうか?
沖中:様々な気づきが得られています。まず、ほとんどのお客様が薬と共に生活していらっしゃるという現実がわかりました。シニアにとっての健康は、「薬と共に生きる」というのが現実なのです。
そして、シニアの方々にとって一番の幸せは、健康であることより、お金があることより、「幸福を分かち合える相手がいる」ということなのだと実感できました。現在、多くのシニアの方々が、どんどん“孤独”に向かっているように見えます。ですから、人と人とのつながりが一番大事なんですね。それもあって、年を重ねていくと、他人との絆を強めるために、人に恩返しをしたいと思う方が増えるようです。
田中:たしかに、世界的に“孤独”が社会の大きな問題になりつつあるようです。
沖中:別の言い方をすれば、人は歳を重ねるほど、ダイバーシティ=多様性が高くなるとも思っています。シニアの方々はものすごいダイバーシティの中で生きているんですよね。というのも、人は老いると、まず外見が変わります。家族との暮らし方も人によって様々です。夫婦で暮らしている人もいれば、妻もしくは夫に先立たれた人もいる。子供が近くに住んでいるか否かでも、大きな違いがあるでしょう。健康状態も人それぞれです。このように、人生100年時代には、人々の生き方はいっそう個別になっていくと思うのです。

こういう時にデジタルが役に立ちます。お客様にもデジタルシフトしていただき、『Comado』を利用して、社会との接点をもっと増やしていただきたいのです。また、デジタルだけでなく、コンタクトセンターでのコミュニケーションも同時に活用して、そこにヒューマニティ(人間らしさ)を取り込むことも考えています。やはり孤独を感じたり、人と交流する機会が減ってしまったりすると、認知症につながる可能性が高くなってしまうと考えられるためです。
次回の後編『シニアの生き甲斐を作ることも我が社の責任 “幸福寿命”に本気で向き合う、サントリーウエルネスの視座』は6月1日に公開します。後編では、病気の“予防”だけでなく、誰もが自分らしく輝く“共生社会“を創るためのサントリーウエルネスの取り組みや、沖中氏の「“個客”原理主義」の考え方について、お話しいただきます。