欲望を定点観察すると、世の中のトレンドや世相も見えてくる
別の事例も見てみましょう。
この調査は2021年5月、ちょうど東京、大阪、兵庫、京都、愛知、福岡の6都府県で初の緊急事態宣言が発出されていた頃に行ったものです。

コロナ禍で買い物の頻度を控えなければいけなかったことを受け、「セカンド冷蔵庫」が売れていると話題になっていましたが、Dさんも「小型冷凍庫」を買って心が動いたと回答していました。他にも、Eさんは「サンパンチェス(花)」、Fさんは「アース製薬の入浴剤」を挙げていました。それぞれのフリーアンサーが以下です。
【Dさん】:頻繁に買い物にも行けなくなり、食品をたくさん保存しておける冷凍庫を買って家事の負担を減らそうと思った。毎日スーパーに買い出しに行く自分へのご褒美として、必ず1日1個アイスを買っていたが、それすらできなくなり悲しかった。冷凍庫が来てからはアイスも買いだめでき、日々のささやかな幸せをまた楽しめるようになった
【Eさん】:家時間が増えたこともあり、サンパンチェス(花)をたくさん買った。毎日お花を眺めて、成長過程を見守って癒されている
【Fさん】:自粛生活で大好きな温泉にも行けないので、家でも非日常を味わってリラックスしたいと思い、少し高かったけど買ってみた。週末はこの温泉の素で温泉気分を楽しんでいる
どれも、顕在化されたニーズに留まる購入理由だけでなく、その人の心情や感情が読み取れる情報だと思います。特にDさんの場合は、実は緊急事態宣言前まで毎日ひそかに楽しんでいた1日1個のご褒美がなくなってしまったことのほうが、大きな生活の変化、喪失だったのでしょう。サブ冷凍庫を購入した理由として、論理的に語れるニーズの話だけでなく、心のうちに隠していた心情や感情が非常によく伝わってきた回答でした。
また、お三方の意見には、緊急事態宣言発出下で外出を控え、ステイホームを強いられている中でも、「日々の小さな喜びをちゃんと用意して、生活を楽しもうとしていた」という共通点がありました。このように、膨大な消費者の生声を集めて全体を見渡してみると、その時々ならではの消費者の気分や世相といったインサイトをも導き出すことができるのです。