購買データからいきなり推察すると、インサイトを見誤ることも
ここで、実際の調査結果を例に、インサイトにたどり着く過程を見ていきたいと思います。
60代のAさんは、この1ヵ月で心が動いた消費として「Fitbit」の購入を挙げました。また、Bさんは「ユニクロのスリムフィットパンツ」を、Cさんは「テクニクスのオーディオコンボ」を挙げました。
現在、一般的に行われているマーケティングでは、デモグラフィックデータなどターゲットプロファイリング情報と合わせて、購買データをもとにターゲット像を仮定し、マーケティングアプローチを行うことが多いと思います。
たとえば、Aさんは「最近ランニングやウォーキングを始めた健康意識の高い人なのかな?」、Bさんは「コスパ意識が高く、細身の人なのかな?」、Cさんは「オーディオ好きが多い世代だし、オーディオマニアの人なのかな?」といった仮説から、Aさんにはランニング関連のギアを、Bさんにはフィットタイプの衣服を、Cさんには通好みのAV周辺機器を、といった具合にレコメンドするケースが多いのではないでしょうか。
しかし、「心が動いた消費」という軸で深掘りすると、上記の仮説とは異なる意外なインサイトが見えてきます。例のお三方からは、以下のような回答を引き出すことができました。

【Aさん】:コロナ禍になって健康について考えるようになり、健康のために睡眠状況を知りたかった。睡眠の質向上に大変役立っており、生活全体の質向上に繋がっている
【Bさん】:ユニクロのスリムタイプのスラックスをはいたら、若く見えると言われてとても嬉しかった。今回もまた褒められるのでは、と期待して購入した
【Cさん】:長年オーディオから遠ざかっていたが、家での時間も増えたので、久しぶりに購入。アナログとデジタルの違いはあれど、クオリティの高い音質に浸りながら、若かりし頃に思いをはせることができた。最近は当時の音楽もよく聴くようになった
消費の背景にある、このような「思い」までわかると、その人の価値観や心の動き、感情や意思といったものまで、次々に想像できるかと思います。
さらに、AさんもBさんもCさんも異なるデモグラで、かつ購入したものもそれぞれ異なりますが、Aさんは「元気な体」、Bさんは「若見え」、Cさんは「心の若返り」と、「いつまでも若々しい自分でありたい」という三者共通の思いも浮かび上がり、それらが消費を突き動かしていることもわかります。

このように、心の奥底にある欲望が満たされた「心が動いた消費」を喚起できれば、リピート購入やブランドのロイヤリティ向上、さらにはそこから派生する他カテゴリーを含めた関連消費の活性化を図ることができる。つまり、心の奥にある欲望を満たしてくれる「心が動いた消費」は、様々な消費の連関を生んでいくと思われます。