Microsoftの事業構想「新Walled Garden」
Microsoftの場合は、最低でも「Microsoft365(Word、PowerPoint、Excel、Outlook、Teamsのエンタープライズ・サブスク)」でのChatGPTの利用を起点とし、各産業別(バーティカル)サービスに応用していくことがベースになる。近年のMicrosoftのM&A歴(図表1)を振り返ると、着々と「新Walled Garden」による儲けどころを積み上げていた形跡が見えてくる。

たとえば、2021年に約2.2兆円で買収を発表した音声認識技術AIの「Nuance Communications」がある。OpenAIとの統合の一例として、Nuance社の医療機関向けの音声入力サービス「Dragon Medical One」でのChatGPTの応用もあろう。米国医師が電子カルテ作成のためにかける時間は毎日2時間以上とも言われるが、診療の記録とその解析および臨床記録の文書化が自動化されれば、医師のデスクワークの時間は一気に短縮され、医師不足関連の課題解決への一助となることが期待される。
Nuance社の技術は、すでに55万人以上の医師が利用している。言い換えると、OpenAIの医療産業への転用に向けて、すでに55万人以上のBtoBユーザーがMicrosoftの中に存在している状態だ。極端な話、Microsoft365で利益が出なくとも、異次元の医療サブスクサービスで大きな利益(社会貢献)ができれば……と考えるのが、MicrosoftとOpenAIの座組におけるビジネスモデルの一例だ。
さあ、この連想ができればMicrosoftが2022年に7.6兆円という異例の巨額投資で買収に入ったゲーム会社の「Activision Blizzard」とChatGPTの相性も容易に想像がつく。さらにMicrosoftの向こう側には「ゲーム」を待望するNetflixも「ガーデン入り」しているので、CTV広告市場も応用の視野に入る。AI投資は、単発アプリ次元の事業発想ではない「事業の垂直つながり」のヒントだ。
※ドル円換算レートは1ドル=110円で略算