伝統工芸を、暮らしに溶け込む身近な存在へ
MarkeZine編集部(以下、MZ):はじめに、お二人の自己紹介をお願いします。
桐本(泰):輪島キリモトの代表を務めます、桐本泰一です。当家では代々200年以上、石川県の輪島市にて「木と漆」の仕事に携わってきました。伝統的な漆器「輪島塗」以外にも、独自開発した器・小物・家具・建築内装材・木製品など、幅広く取り扱う創作工房です。天然の木や漆を使って、暮らしにとけ込むようなモノ作りを目指しています。
桐本(順):経理など会社運営、英語での顧客対応や広報活動を担当している桐本順子と申します。結婚を機に伝統工芸の世界へ入りました。
大勢の人を介し時間をかけて一つの作品を作っていく様子や作り手の思いを目の当たりにし、伝統工芸品が持つ力を伝え、広めたいと思うようになりました。何もしなければ将来途絶えてしまうかもしれない伝統工芸において、良いものを作ることはもちろん、使う人を増やすことが大事だと考えています。
売り場のリアルな声を聞き、工房で活かす
MZ:輪島キリモトさんは、Zoomを活用したライブコマースや商談を国内外に向けて実施されています。Zoomを顧客向けツールとして導入した背景からお教えください。
桐本(泰):元々当家は江戸末期から塗師屋でしたが、昭和の初めから祖父が転業して、漆を塗る前の器や家具木地を作る「木地屋」として輪島漆の下支えをしてきた歴史があります。私が大学を卒業し企業に勤務した後帰郷し、跡取りとして経営に関わりだした時は、バブル期ということもありよく売れていた時代でした。
しかしそれは「職人が一生懸命作った良いものだ」という漠然としたイメージだけで売れており、漆器の本質的・具体的な良さがまるで伝わっていませんでした。だからこそ私は、「それだけではいけない」という思いがあったのです。そこで、自分でデザインした漆の器、小物、家具を製造・販売することを始めました。
伝統工芸品の世界では、分業制が確立しています。下請けである木地屋なのに完成品作りまで行い、お客様の前に立とうとすることは、ルール違反ととらえられかねません。そういった葛藤を抱えつつも、2004年には三越日本橋に直営店舗を出す決断をしました。
MZ:下請けという立場から思い切って飛び出し、実際に商品を手に取る顧客と対峙されたのですね。
桐本(泰):はい。そうした決断をしたおかげで、店舗のスタッフが書いた日報が、私たちにとって非常に重要な財産になっています。そこには購入者だけでなく、購入されなかった方の話も載っています。通常、伝統工芸の世界で首都圏から離れた小さな工房が、売り場のリアルな生の声を継続的に把握することは難しいでしょう。
実際にお客様の声を聞くことで漠然とした課題感がクリアになり、製品のアイデアや「こんな技法を取り入れるといいのでは」とビジョンも生まれてきました。伝統工芸も、顧客を理解し、製品の良さを伝えていくことが重要であることを痛感しました。
しかし2020年からのコロナ禍で、リアルのようなコミュニケーションをとれる体制作りが喫緊の課題となり、Zoomの導入に至りました。