名付けることがゴールではない 顧客との関係を通じて名前を育てる
今回紹介する書籍は『なまえデザイン そのネーミングでビジネスが動き出す』。著者は、これまでに岡本靴下の「まるでこたつソックス」やモスバーガーとミスタードーナツのコラボ商品ブランド「MOSDO」など、多くのネーミングを手掛けてきたコピーライター兼クリエイティブディレクターの小藥元氏です。
小藥氏は2005年に博報堂入社後、2006年には東京コピーライターズクラブで新人賞を受賞し、2014年に企業のブランディング支援を中心に支援するmeet&meetを設立。現在は meet Inc.代表取締役を務めています。
本書では、数多くの業界でコンセプトメイキングやコピー開発を行ってきた小藥氏が商品やサービスのネーミングの方法について解説しています。
ネーミングは、自社の商品を他社と差別化するために、あるいは自社の商品の持つ価値を伝え、顧客のイメージを決定づけるために、極めて重要な仕事だと考えられます。しかし、実際に取り組む上では、顧客から見てその名前を受け入れてもらうために何が求められるのか、実際の購入や利用を前提としてどのような表現に落とし込むべきなのか、といった疑問が浮かびます。ネーミングの手法をロジカルに理解できているという方はあまり多くないのではないでしょうか。
こうした課題を抱えるネーミングについて、本書では小藥氏の考える論理的な手法を解説しているのです。
本書では、名前を「育てるもの」だと定義しています。名前を付けること、ネーミングは、名付けた後の顧客とのコミュニケーションやブランドそのもの、ブランドの未来を設計する方向性を決めること。こうした定義を前提に、著者が実際に手掛けた具体例を使いながら、名前をデザインするまでのプロセスや考え方を説明しています。
名前はモチベーションを生む 周囲を巻き込む仕掛け作り
小藥氏が顧客に受け入れられるようなネーミングを行うために、名前を「育てるもの」と定義する背景には、どのような考えがあるのでしょうか?
小藥氏は、自身の友人が「社内プロジェクトで他の社員を巻き込めなかった」エピソードを基に、その理由を説明しています。
昨今、多くの企業で新規事業開発を促しています。そのようなとき、掲げたプロジェクトネームやチーム名が、風向きを変えるきっかけになるかもしれない。巻き込み、うねりを起こす可能性があるから。つけて終わりではなく、むしろみんなで育てていきたくなる名前にしましょう。マインドが行動に変わり、結果に自ずと反映されるはずです。(p.72)
このように著者は、周囲の人間や顧客に共感してもらうためには、自主的に参加したくなるモチベーションを生む仕掛けが重要であり、その役割を名前が担うと考えています。「育てていきたくなる名前」ならば、周囲の人を巻き込み、参加へのモチベーションを上げる。こうした考えから「育てられる」ことを前提とした名前の検討が重要になると語っているのです。
顧客の本音や利用シーンをヒントに考える
本書では、「育てていきたくなる名前」を検討するための視点を様々な事例を基に解説しています。その一つとして、自身がネーミング行った、池袋のビジネスパーソン向けサウナ宿泊施設「かるまる」の事例を紹介しています。
お風呂に浸かりたくなる気分・サウナに行きたくなる気分とは、どんなものなのか。このとき私は「ダメになってしまいそうな気分」と解釈しました。「リラックス」はまだ頭で捉えている言葉です。よく使ってしまいがちでしょうが、本音をつけていない。サウナ宿泊施設ですから、「つかる」だけではなく「とまる」も価値。ここから「かるまる」というブランドネーミングの開発に導きました。最大限に気分を表すため、カラダも心も解けているという意味合いから平仮名4文字で表現したのです。(p.139)
小藥氏が「かるまる」という言葉に当時期待していたのは、顧客に価値が伝わることだけではなく、顧客の気分を最大限に表して共感を得ることでした。加えて、お風呂に入った時についこぼれてしまう言葉として「かるまった~」と使われたり、あるいは「かるまる?」と誰かを誘う時に使われたりと、名詞以外の品詞になって使われ、多くの人々の間で広がっていくイメージがあったとも語られています。
このように本書では、顧客や周囲の人を巻き込む仕掛けとして機能する名前の付け方、考え方のプロセスをわかりやすく解説しています。
ブランド開発、新規事業開発においてネーミングに携わる方はもちろん、社内プロジェクトのメンバーがモチベーションを高められるようなチーム名を考えたいといった方にもお薦めの書籍です。一度手に取ってみてはいかがでしょうか。