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カンヌライオンズ2023の全体傾向
MarkeZine編集部(以下、MZ):まずは、今年のカンヌライオンズの傾向をどうご覧になりましたか?
石原:コロナ禍からの数年で“パーパス”に関する話をずいぶんよく聞くようになりましたが、今年のカンヌライオンズも全体的にパーパスドリブンなアイデアが多く、肌感では応募作品の8割以上を占めていたような印象を受けました。
従来の広告は、商品・サービスのベネフィットを伝えて、購買を促すというマーケティング的な立ち位置にありました。社会全体で見ると、消費社会を活性化させる役割を広告が担っていたと認識しています。ですが、ブランドやビジネスそのものをサステナブルなものにして社会を活性化させていくほうへ広告の社会的な役割が変わっている、もしくはそういうトレンドになっていることを今回強く感じました。
また、逆説的に感じられるかもしれませんが、こうしたテーマが現代の多くの人の共感を呼び、結果的にブランドのビジネス成長に成果をもたらすことが証明されてきたのではないかとも思います。
MZ:広告×パーパスが事業成長に貢献するのかという議論がされてきましたが、一歩先に進んだ感じでしょうか?
石原:僕もそうですが、広告を作っている側の人間は「パーパスドリブンなアイデアでモノが売れるのか」という点に関しては、まだ腑に落ちていないところもあると思います。
これは社内でもよく言うことですが、広告はチャリティー活動ではありません。ですので、パーパスドリブンなものでも、社会課題を解決した上で最終的にビジネスを成長させるものでなければならない、というのが僕の考えです。
ただ、ブランドが社会的なイシューに対して意見や意思を提示することで、そのブランドのファンやロイヤルカスタマーからの支持を厚くすることができるということを、今回たくさんの作品を見て再確認しました。たとえば、ナイキはこの類の典型的なブランドですよね。
MZ:“パーパスドリブン”は、グローバル共通のテーマになっているということでしょうか。
石原:カンヌライオンズというアワードを通して判断すると、そうだと思います。とはいえ、日本人は日常生活の中で社会問題について話す習慣があまりないですよね。友人から聞いた話では、特に北米のほうでは、常に国中で話題の種になっているような社会問題が必ずあるそうです。諸外国は日本人には考えられないような深刻な社会問題に直面していますから、この領域に関しては日本よりも海外のほうが人々の意識が自ずと高くなると思います。
こうした背景もあって「日本企業がパーパスドリブンなアイデアでアワードを取るのは難しい」というのが通説になっていましたが、今回そうでもないように思いました。宗教問題や戦争などの社会問題は日本人にとって身近ではありませんが、日本が大きく後れを取っているジェンダーギャップの問題など、パーパスのカテゴリで出てくるようなトピックスは意外と日本にも多くあるように感じています。