石原さんが日本の広告業界へ共有する3つのキーワード
MZ:カンヌライオンズ2023での石原さんの学びを読者に共有していただけますか。
石原:3つのキーワードを紹介したいと思います。まず1つ目は「テクノロジーとヒューマンストーリー」です。テクノロジーがどんどん進化していくにつれて、ヒューマンストーリー、いわゆる人間っぽさや人間臭さが逆に目立つようになってきているような気がしています。広告を見るのは人間なので、結局ここがないと人の心は動きません。最新のテクノロジーで新たな発見や驚きは得られますが、テクノロジーだけでは感動をもたらすアイデアにはなり得ないわけです。実際に、テクノロジードリブンな広告アイデアが非常に多かったにも関わらず、賞を取っている作品はアナログなアイデアのものも多かった。カンヌライオンズのアワードを巡っては、テクノロジーとヒューマンストーリーのバランスをどう取っていくかが、来年再来年のカギになると思います。
次に2つ目は「クラフト」です。これはずっと前から変わらずあるものですが、どんなに強いアイデアであっても、アウトプットのレベルが足りていないと素敵なものに見えません。強いインサイトやアイデアはもちろん必要ですが、それをさらに高いレベルのクラフトで表現する必要があります。
なぜこれをキーワードに選んだかと言うと、日本がこの点において非常に強いからです。今年のカンヌライオンズで言うと、鉄道開業150年キャンペーン「My Japan Railway」や「HOTAMET(ホタメット)」がそうですね。こうした日本人にしか作れない素敵なクラフトデザインは、海外の人たちからしたら、もうたまらないわけです。やはりスケールでは北米や南米、中国に敵わないので、日本に勝機があるとすればここになると思います。
最後に3つ目は「シンプルさ」です。今、メディアミックスで色々なタッチポイントを展開するのがマーケティングの定石になっていますが、アワードを狙うのであれば、アイデアは1つにすべきだとケースビデオを見ていて思いました。テレビをやって、イベントもやって、ソーシャルで繋がりもしっかり作って、TikTokでインフルエンサーを使って……という幕の内弁当的なアイデアは、アワードにおいては映えないんですね。審査員の印象を強く残したいのであれば、シンプルなワンアイデアを意識すると良いと思います。
MZ:いずれもアワードを狙うにあたってのキーワードでしょうか?
石原:必ずしもそうではないと思います。最初にパーパスドリブンな広告についてお話ししましたが、日本ではまだ、広告主側の意識として「パーパスドリブンな広告もやらなければいけない」「そこにマーケティング予算を割きましょう」とはなっていないと認識しています。やはり新商品を売るための広告が先行していて、ブランドを強くするための広告はあまり考えられていないのが現状です。ですが、エージェンシーを筆頭に、広告に携わっている人たちがこれを変えていかなければなりません。もしくは、広告主と一緒にエージェンシーも学んでいく。そうしないと、日本からどんどんブランドがなくなっていってしまうのではと思います。