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第106号(2024年10月号)
特集「令和時代のシニアマーケティング」

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潜在層の“曖昧な感情”を捉える ヤフーと電通デジタルが啓蒙する「セレンディピティ・マーケティング」

 広告を含むあらゆる情報が過度にパーソナライズされている現在、消費者が認識している興味以外のものと出会う機会は極端に少なくなっている。元来広告が演出してきた「新しいモノへの出会い」の機会を創出するため、ヤフー株式会社は株式会社電通デジタルとともに日本最大級のメディア「Yahoo! JAPANトップページ」「Yahoo!ニュース」の面とデータを活用した新たなマーケティング手法「セレンディピティ・マーケティング」の啓蒙とソリューションの提供を行っている。セレンディピティ・マーケティングとは何か、ソリューション提供の狙いと事例、その成果について、ヤフー株式会社と株式会社電通デジタルの担当者に聞いた(以下、ヤフー/電通デジタル)。

テレビ離れで失ったリーチはデジタルで補完できていない

MZ:ヤフーさんは日本最大級の媒体を運営すると同時に、多くのマーケティングソリューションを展開されており、国内事業者のマーケティングについて二つの立場から注視していると思います。

 昨今のマーケティングにおいては、「テレビ離れ」やターゲティングの規制などを理由に、新たな打ち手が求められているようですが、ヤフーさんとしては令和の時代に事業会社が抱える課題感をどのように見ているのでしょうか?

宮村:広告主様と話すと「テレビ離れ層に対するリーチ補完といえばデジタル広告やデジタル動画媒体」と語られることは多いと思います。ただ私自身、仕事が終わって一人の生活者としてデバイスを見ると、デジタル広告をテレビCMと本当に同じような興味で見られているのだろうかと感じることもしばしばあり、その差がどこか気持ち悪いと思っていました。

宮村氏1
ヤフー株式会社 マーケティングソリューションズ統括本部 営業推進本部 販売推進部 部長 宮村壮氏
同社の事業者向けマーケティングソリューション開発や、提案時のロジックの開発を担う部署において業務をリードする

宮村:そこで電通/電通デジタルと共同調査させていただいたところ、実際のキャンペーン効率や認知効率は、10年前と比較して如実に数値が落ちていることがわかりました。また弊社側の市場調査では、デジタル広告の出稿目的の約90%がリターゲティングに代表されるような顕在ユーザー向けの施策。つまり、テレビが担っていた潜在層へのリーチが実際には補完できていない。これが大きな課題の一つです。

 もう一つの課題は、接点の質にあります。広告が本来持っている、新しい発見や出会いにワクワクするような体験は、過度にパーソナライズされたデジタル広告を見ても感じにくいですし、ユーザーによってはレコメンド疲れ、最適化疲れが起きてしまっています。

MZ:電通デジタルさんも得意領域であるデジタルマーケティングについて企業とお話しする機会が多いと思いますが、どのような状況が増えていますか?

井口氏
株式会社電通デジタル プラットフォーム部門 プラットフォーム1部 Yahoo!グループ 井口沙香氏
マーケティング活動支援に携わる同社で、ヤフー広告のプランニング、ヤフーのアセットを使った売上の創出について社内推進を行う

井口:費用対効果はどれくらいあるのか、獲得への貢献はどうかなど、数字を求められることが非常に多いです。ただ、やはり認知を広げていかないと、長期的に見たときに獲得のスケールにつながらないので、バランスがとても難しい点だと感じます。

「何となく気になる」を可視化する、セレンディピティ・マーケティング

MZ:ヤフーでは2023年5月8日、Yahoo! JAPANトップページとYahoo!ニュースを通じて蓄積したデータを活用する、新たなマーケティング手法「セレンディピティ・マーケティング」を開発し、ソリューション提供を開始されていると伺いました。先述の業界課題との関連も踏まえ、概要を伺えますか。

宮村:セレンディピティ・マーケティングは、ニュースを活用して潜在層を狙うことができるマーケティング手法です。「偶然の出会い」「予想外の発見」を意味するセレンディピティの言葉通り、現在では機会の少ない「ユーザーにとって思いがけない出会い」をもっと作っていこう、という想いが基礎になっています。

 そもそも潜在層は自ら調べるほど本気じゃないけど、「何となく気になる」といった曖昧な感情を持っている方々です。デジタルの手法では1と0の明快な判断が基本ですから、この曖昧さを苦手領域としてきました。

 しかし、日々習慣的に「何となく気になる記事」が読まれているニュースなら、曖昧な感情を可視化して表現できる。この発想を基に開発しました。たとえば「本気で引っ越しを考えているわけではないけど、『住みたい街5選』の記事は見てしまう」という場面が生活の中にあると思います。

 Yahoo!ニュースでは1日に7,500本ほどの記事が供給され、月間PV数は233億超(ヤフー調査、データ対象期間:2021年2月-2021年8月)。これだけ多くのユーザーが目にして、自然と話題の共有につながる点では、マスメディアのような性質もあると感じています。次々と蓄積されるユーザーデータを用いることで、より多くの出会いの創出が期待できます。

顕在層より潜在層の方が高CTRという結果も

MZ:具体的には、どのような施策が可能になるのでしょうか?

宮村:大きく2種類のソリューションがあります。

 一つは、ニュースを見るというユーザー行動データを使う「ニュース閲覧ターゲティング」です。ヤフーには「野球」「自動車」など多くの記事を分類した「テーマ」と呼ばれるカテゴリーがあり、その膨大、かつ多様な種類を持つテーマを選択し、マーケティング施策に活用いただいております。テーマごとの閲覧者を潜在層としてセグメント化し、ターゲティング広告の配信リーチ数や顕在への展開率のレポーティング、また検索データ等と組み合わせたインサイト分析の利用も考えられます

ニュースフォロー
Yahoo!ニュースではユーザーが「テーマ」をフォローしてその関連ニュースをリストで見ることができる。この画像は「野球日本代表」のテーマをフォローしている場合の表示イメージ

宮村:もう一つは、ニュース媒体という面の価値の特性を活かした、「トピックスPR」という新しい広告枠です。ブラウザ版Yahoo! JAPANトップページとYahoo! JAPANアプリの最上部にある「Yahoo!ニュース トピックス」を活用します。ヤフーで最もユーザーの注目度が高いこの枠の中に、企業様に出稿いただけるプロモーション枠を作りました

画像を説明するテキストなくても可
「Yahoo!ニュース トピックス」内のプロモーション枠(赤枠は本説明用に挿入)

MZ:潜在層へのリーチが強みとなるセレンディピティ・マーケティングですが、実践的な活用に詳しい電通デジタルのお2人から見てどのような価値があると考えますか。

井口:ニュースデータを使う取り組み方は、世の中のモーメントを捉えられますし、従来よりもユーザーの感情により近くで寄り添っている印象を感じます。

 たとえばZ世代はタイパ重視が特徴といわれ、動画を見るにしても2倍速で見たり、情報収集も自分の興味あるものだけを取りに行ったりする傾向があります。でもそれでは、自分が気づいていなかったけれど、実は興味があったといった新しい出会いは減っていく。そこを捉えるのはユーザーにとっても企業にとってもポジティブだなと思います。

坂戸:私もYahoo!ニュースのユーザーの一人ですが、ニュースを見ているときは本当に何となく見ていて、まさに思いがけない出会いがあるなと感じています。ただしマーケティングへの活用を考えると、ポリシーなどの面でニュースデータは容易に扱えるものではなく、上手く使える方法を以前から考えていました。今回はニュースデータを広く使えるような座組を作っていただけたので、活用を広げられています。

坂戸氏
株式会社電通デジタル プラットフォーム部門 プラットフォーム1 部 Yahoo!グループ 坂戸美輝氏
井口氏と同部署でヤフーのアセットを活かしたソリューションの検討や社内での活用推進を行う。主にデータの活用、広告の活用を担当する

MZ:電通デジタルさんでは今回各ソリューションの提案を行っていく中で有効な手段として判断するためにどのような工夫がありましたか? もし検証のデータなどがあればご提示ください。

坂戸:セレンディピティ・マーケティングを広く認知、理解してもらうことを目的として、広告配信の設計部分を電通デジタルでお手伝いさせていただきました。

 その過程で、効果検証の実験も行っています。仕事としてマーケティングに関わっている顕在層に広告配信すると同時に、Yahoo!ニュースでマーケティング関連のニュースを見ている方を潜在層として同じ内容の広告を別途配信し、その差異を検証しました。

 もちろん顕在層のほうが完視聴率が高く、サイト来訪後の滞在時間も長いなどターゲットユーザーの質は高いのですが、潜在層もユーザーの質が低いわけではありません。むしろ潜在層は配信の母数が大きいので、リーチ数が多いのはもちろん、クリック数、完視聴数は引けを取らない数字が出ています。特に、CPCについては顕在層の1/3程度、CTRについては、ニュース閲覧ターゲティングの方が実は1.5倍ほど高い数値です。現在も改善に向けて検証を続けていますが、全体効率を一定維持しながら効率よくリーチを拡大できている点はポジティブに受け止めています。

「無意識な検討段階から顕在化まで」長期目線で捉える戦略を実現

MZ:ご共有ありがとうございます。先行導入企業の活用事例とその成果についてもお教えいただけますか。

井口:トピックスPRによってクリック数を十分に取れた事例や、同時にリーチ単価も非常に低くなり、サーチリフトにも貢献している事例があります。さらに、実際に検索行動につながったというデータも出ています。リーチが取れて、かつ次の行動にもつながっている点はクライアント企業からも非常に満足いただいています。

宮村:トピックスPRに関していえば、普段広告バナーをクリックしない人がクリックしているという結果も出ています。トピックス枠に出ているネイティブな情報としての印象から、抵抗なくクリックしてくれたと予想しています。

広告への反応
クリックすると拡大します

MZ:電通デジタルさん側ではどのような活用方法を思い描いていますか?

井口:潜在層へのアプローチだからこそ、特定のセグメントを長期目線で捉えるような使い方に価値が感じられます。単発ではなく定常的なターゲティングとして使い、顕在化した瞬間までしっかり捉えられるような一連の提案ができるのはとても良いと思います。

坂戸:広くあまねく活用をしてもらえる手法だと思いますが、あえて挙げるとすれば、ある程度検討期間が長い耐久消費財などは、潜在的にニュースを見るという行動が起こりやすいのではないかと考えています。先ほどの「住みたい街」や他にも「自動車のランキング」といった記事など、検討期間の長い商材は「何となく見る」ことから検討行動が始まっているので、そのタイミングから捉えてアプローチするには適していますね

空洞化している「潜在層へのマーケティング」を埋められる存在に

MZ:今後、セレンディピティ・マーケティングを通じて実現したい世界観や提供価値をご教示ください。

宮村: O2Oやダイレクトマーケティングなど様々な手法がある中で、潜在層へのマーケティングだけは確立しておらず、ぽっかりと空いている印象があります。そこを埋められる存在になって、広告主様や広告会社様に貢献していきたいと考えています。

 ヤフーにご出稿いただいている広告主様のサービスを日々拝見すると、まだまだ知られていない良い商品やサービスは本当に多いです。まずはニュース閲覧ターゲティング等を少額で試していただき、自社の良い商材を潜在層に知ってもらえる機会、思いがけない出会いが増えていけば嬉しいですね。

MZ:電通デジタルさんとしては、ヤフーさんの展望に対してどんな価値提供をできるとお考えでしょうか。

井口:私たちのミッションは、クライアント企業の事業成長パートナーとして、既存の手法では解決できなかった課題をセレンディピティ・マーケティングで解決していくことです。ヤフーさんが提供してくださる価値を最大限に引き出すことに取り組んでいけたらと思っております。

坂戸:まずはセレンディピティ・マーケティングを当たり前の手法にしていくことだと思っています。ヤフーさんに作っていただいたこの手法は今後の戦略にとって最高の材料の一つです。ヤフーさんの持つ他のソリューションとのシナジーも検討しながら、クライアント企業のニーズに合わせて料理する。これが私たちの重要な仕事になっていくと考えています。

※ニュース閲覧ターゲティングには利用条件があります。詳細はヤフー営業までお問い合わせください。

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この記事の著者

落合 真彩(オチアイ マアヤ)

教育系企業を経て、2016年よりフリーランスのライターに。Webメディアから紙書籍まで媒体問わず、マーケティング、広報、テクノロジー、経営者インタビューなど、ビジネス領域を中心に幅広く執筆。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

提供:株式会社電通デジタル

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2023/09/13 10:00 https://markezine.jp/article/detail/42775