テレビ離れで失ったリーチはデジタルで補完できていない
MZ:ヤフーさんは日本最大級の媒体を運営すると同時に、多くのマーケティングソリューションを展開されており、国内事業者のマーケティングについて二つの立場から注視していると思います。
昨今のマーケティングにおいては、「テレビ離れ」やターゲティングの規制などを理由に、新たな打ち手が求められているようですが、ヤフーさんとしては令和の時代に事業会社が抱える課題感をどのように見ているのでしょうか?
宮村:広告主様と話すと「テレビ離れ層に対するリーチ補完といえばデジタル広告やデジタル動画媒体」と語られることは多いと思います。ただ私自身、仕事が終わって一人の生活者としてデバイスを見ると、デジタル広告をテレビCMと本当に同じような興味で見られているのだろうかと感じることもしばしばあり、その差がどこか気持ち悪いと思っていました。
宮村:そこで電通/電通デジタルと共同調査させていただいたところ、実際のキャンペーン効率や認知効率は、10年前と比較して如実に数値が落ちていることがわかりました。また弊社側の市場調査では、デジタル広告の出稿目的の約90%がリターゲティングに代表されるような顕在ユーザー向けの施策。つまり、テレビが担っていた潜在層へのリーチが実際には補完できていない。これが大きな課題の一つです。
もう一つの課題は、接点の質にあります。広告が本来持っている、新しい発見や出会いにワクワクするような体験は、過度にパーソナライズされたデジタル広告を見ても感じにくいですし、ユーザーによってはレコメンド疲れ、最適化疲れが起きてしまっています。
MZ:電通デジタルさんも得意領域であるデジタルマーケティングについて企業とお話しする機会が多いと思いますが、どのような状況が増えていますか?
井口:費用対効果はどれくらいあるのか、獲得への貢献はどうかなど、数字を求められることが非常に多いです。ただ、やはり認知を広げていかないと、長期的に見たときに獲得のスケールにつながらないので、バランスがとても難しい点だと感じます。
「何となく気になる」を可視化する、セレンディピティ・マーケティング
MZ:ヤフーでは2023年5月8日、Yahoo! JAPANトップページとYahoo!ニュースを通じて蓄積したデータを活用する、新たなマーケティング手法「セレンディピティ・マーケティング」を開発し、ソリューション提供を開始されていると伺いました。先述の業界課題との関連も踏まえ、概要を伺えますか。
宮村:セレンディピティ・マーケティングは、ニュースを活用して潜在層を狙うことができるマーケティング手法です。「偶然の出会い」「予想外の発見」を意味するセレンディピティの言葉通り、現在では機会の少ない「ユーザーにとって思いがけない出会い」をもっと作っていこう、という想いが基礎になっています。
そもそも潜在層は自ら調べるほど本気じゃないけど、「何となく気になる」といった曖昧な感情を持っている方々です。デジタルの手法では1と0の明快な判断が基本ですから、この曖昧さを苦手領域としてきました。
しかし、日々習慣的に「何となく気になる記事」が読まれているニュースなら、曖昧な感情を可視化して表現できる。この発想を基に開発しました。たとえば「本気で引っ越しを考えているわけではないけど、『住みたい街5選』の記事は見てしまう」という場面が生活の中にあると思います。
Yahoo!ニュースでは1日に7,500本ほどの記事が供給され、月間PV数は233億超(ヤフー調査、データ対象期間:2021年2月-2021年8月)。これだけ多くのユーザーが目にして、自然と話題の共有につながる点では、マスメディアのような性質もあると感じています。次々と蓄積されるユーザーデータを用いることで、より多くの出会いの創出が期待できます。