企業よりも情報感度の高い消費者
MarkeZine編集部(以下、MZ):本日はコマースとCXのリーディングカンパニーとして、多数の国内大手サイトの売り上げに貢献しているZETAの代表取締役社長 山崎氏にお話を伺っていきます。ECサイトを運営する企業にとって、より良い顧客体験(CX)を提供することは長年のテーマです。表面的な施策に従事するのではなく本質的なCX実現のために、企業はどのような課題に向き合うべきなのでしょうか?
山崎:振り返ると、かつては情報提供側である企業に業界などに関する高い知見があり、受け手はそれに対してお金を払う構造でした。ところが今は、特にデジタルについては消費者側のリテラシーや情報感度のほうが高い現象が起こっています。すると「この企業はどうして、こんなに使いづらいUXを放置しているんだろう?」という見方をされてしまいます。
最近見た事例ですが、ECサイトなどでサインアップをする際SMSに送られた4桁のコードを要求されるケースがありますよね。海外のサービスではほとんどのケースで自動で届いたコードが貼り付けられ、シームレスにフォームに入るようになっていますが、日本のサービスは手入力を求められるケースをちょくちょく見かけます。このように、日本と海外でもCXにおける感度の差が生じていると感じています。
こうした、企業と消費者との目線の乖離が日本で起きている要因として、次の二つに集約されると考えています。一つ目は、企業側が消費者よりも感度が低いという自覚がないこと。これは、DX同様特に決裁権を持つ立場の方の年齢層が高い組織で起こりがちな課題のような気がします。スマホではなくPC画面で見ているなど、提供側として「誰よりも情報感度を高く持つ」という意識が足りないことが原因ではないでしょうか。
二つ目は、長期的な消費者の満足よりも短期的なメリットを優先してしまうという考え方です。たとえば“キャンセルがしづらいUX”や“誤クリックを狙った広告”など、いわゆるダークパターンと呼ばれるデザインの導入は、短期的な指標を改善しようとするあまり不誠実な手法で消費者の満足を無視してしまった代表的なケースだと思います。
「ECで必要なことは何か?」を考えた時、私が最終的に行き着いたのは謙虚さでした。今、スマホを触る時間は若年世代のほうが長く、上の世代である側こそ実情により詳しい彼らから真摯に学ぶ必要があると感じます。
ECのCXにおいてカギとなる2つの要素
MZ:企業がECでCXを向上するためのポイントや、持つべき考え方についてお教えください。
山崎:まずは、常にCXのことを意識する姿勢が大切です。ZETAでは、一貫してCXの重要性を唱えてきました。なぜならECに“万能の武器”はなく、消費者は常に「この企業は自分にハッピーな購買体験を提供してくれるのか」という目線で見ているからです。
「欲しいものを最善の形で手に入れたい」と考えるユーザーの満足を実現するためにテクノロジーが活躍する代表的な要素として、パーソナライズと集合知があげられます。
パーソナライズは、現在のデジタルマーケティングの基本です。マスマーケティングが中心の時代には、最大公約数的な製品を開発し、ユーザーにアプローチするというビジネスが主流でした。マス媒体はパーソナライズが難しいので、これはこれで妥当だったと思います。一方でデジタルマーケティングが主流となった現在では、ユーザーごとにマーケティング手法もセールスのやり方も、最近では製品すらもパーソナライズするのが当たり前になりつつあります。ユーザーのニーズごとに最適化したマーケティングを行うことで、CXの向上が可能となります。
山崎:また集合知は、これはパーソナライズと補完関係にあると言えますが、大量のデータを分析することで、ユーザーにとって意外性があり、かつ喜んでもらえる可能性のある製品やプランを提案することが可能となります。対象のユーザーへのCXを向上させるために、対象のユーザー以外のユーザーのデータを活用するということになります。
集合知を用いたパーソナライズをデジタルマーケティングの初期に活用した機能の例として、いわゆるAmazonレコメンドが挙げられます。「Aを買っている人はBも買っています」というものです。また集合知のように、膨大なデータから導き出された結果は、AIの基礎でもあります。さらに最近では、ユーザーによる口コミやスタッフの投稿といったUGCデータも集合知として活用していくことも、ECサイトのCX向上には欠かせません。
つまりCXを本質的に高めるためにはパーソナライズが重要であり、集合知によってパーソナライズはさらに深化するということになります。