あらゆる顧客情報を一元管理する資生堂の「One-ID」
MarkeZine編集部(以下、MZ):お二人の自己紹介からお願いします。
大槻(資生堂インタラクティブビューティー):資生堂インタラクティブビューティーの大槻です。この新会社は、資生堂のデジタル部門とアクセンチュアが融合した合弁会社となります。現在、店舗やECサイトで別々に把握していた顧客情報を一元管理する「One-ID」の統括や、資生堂ジャパン全体のDX戦略を行うデジタル戦略部に所属しています。
大槻:今回、メインでお話させていただく「One-ID」を活用した新会員サービス「Beauty Key」プロジェクトに関しては、ほぼ初期の段階から参画しています。
加藤(チーターデジタル):チーターデジタルの副社長兼CMOの加藤です。当社は「マーケターの成功のために」をビジョンに掲げ、BtoCマーケティングにおける顧客のデータ獲得から、マーケティングオートメーション、顧客のロイヤル化までを支援するマーケティングプラットフォームを提供しています。
加藤:私自身としては、ロイヤルティマーケティングにおける市場創造の役割を担い、クライアント企業の新しいコンセプト実現を支援するのが仕事です。
三層構造のBeauty Key
MZ:Beauty Keyの具体的なサービス内容を教えてください。また、開発した背景もご説明いただけますでしょうか。
大槻:Beauty Keyは2022年9月にローンチしたサービスで、施策の建て付けとしては、「アプリ」「メンバーシッププログラム」「One-ID」という三層構造になっています。
大槻:アプリ「Beauty Key-資生堂メンバーシップアプリ」では、「肌分析」や「メイク分析」といったデジタルサービスを無料で提供しています。メンバーシッププログラムでは、アプリ会員の方限定の特別なリワードを用意し、ロイヤルティ向上を目指しています。そして、それら会員データを一元管理するデータ基盤がOne-IDです。
このBeauty Keyのサービス開発の背景にあるのは、特に化粧品の場合、「自分の肌質に合った化粧品になかなか出会えない」「情報があふれ過ぎていて、何を信じれば良いかわからない」といった声を多数、いただいたことです。そこで、我々がOne-IDでお一人お一人の肌質の情報を頂き、それを基に正しい情報を提供することで、お客様の役に立てれば、と思いました。
また、今の時代、昔に比べて健康寿命が延びています。お客様とは今後30年、40年、場合によっては80年もの長きにわたるお付き合いになるため「LTVを高められるような会員組織やロイヤルティ プログラムを持ちたい」と常々、思っていたのです。
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Beauty Keyに見るロイヤルティ プログラムの可能性
本ウェビナーでは、歴史ある資生堂がなぜロイヤルティ プログラムに注力するのか、その理由を詳しく解説しています。ロイヤルティ プログラムを通じて顧客エンゲージメントを高めるための秘訣が満載です!ぜひご視聴ください。
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ポイントで購買促進、体験でLTV拡大につなげる
MZ:Beauty Keyのアプリで提供しているサービスの中で、特にユーザーから人気の高い機能を教えてください。
大槻:「肌分析」機能は特に好評ですね。簡単な問診の後にスマホカメラで自身の肌の写真を撮るだけで、潤いや透明度、張りといった肌の状態を簡単に知ることができます。店頭ではさらに、より詳細な肌分析ツール「スキンビジオム」もご利用いただけます。これは、資生堂が研究を重ねてきた日本の肌データを基に、9項目からお客様の肌を分析する、よりリッチなものです。つまりお客様には「日常使いにはアプリを、しっかりと状況を知ることで悩みを相談したい場合には店頭」という形で楽しんでいただけています。
MZ:ありがとうございます。次に、メンバーシッププログラムの特長を教えてください。
大槻:まず、特定の行動をされたユーザー様にリワードをプレゼントする本プログラムには「ポイントリワード」と「体験リワード」の二つが存在します。
ポイントリワードでは、お客様が当社商品を購入された際に、購入金額に応じて付与しているほか「アプリの初回ログイン時」や「同一店舗で継続購入していただく」など、特定の行動に対してもポイントを付与します。なお、このポイントは1ポイント=1円として、商品への交換などに使えます。
大槻:もう一つの体験リワードでは、ステージ別もしくは特定の条件を満たした人に限定でイベントに招待したり、商品サンプルを付与したりといった“体験”重視型のリワードになっています。
三つのロイヤルティ プログラムタイプに該当
MZ:今回、二つのリワードを設けられた理由を教えてください。
大槻:ポイントはEC購買を促す上で大きなインセンティブになります。しかし、それだけではやはりだめで「もっとお客様に“ワクワクを感じていただきたい」「Beauty Keyアプリをついつい開きたくなってしまう」状態になっていただきたいと考え、体験リワードを設けました。
しかし、実はこれは、資生堂として以前から行ってきたことをアプリにうまく落とし込んだので、まったくのゼロからのものではないのです。当社のオウンドメディア「ワタシプラス」では、ワタシプラス会員IDに紐づける形で、各ブランド独自のメンバーシッププログラムとしてポイントを提供していました。また、今回の体験リワードの前身となるようなイベント参加権の付与や、商品お試し体験プログラムなども既に行っていました。
つまり、購買のインセンティブになるようなポイント運用もブランド体験の促進も仕組みとしては既に存在し、それを現代的なアプリUIでいかに提供するか、が今回の肝でした。
MZ:ここで加藤様に質問です。貴社の提唱する「ロイヤルティ プログラム カオスマップ」の7類型のうち、Beauty Keyはどの類型に該当するとお考えでしょうか?
加藤:Beauty Keyは、その取り組み自体が資生堂様の理念に基づいているので「パーパス拡張型(※1)」です。さらに、通常のポイントプラグラムも実装されているので「購入・利用促進型(※2)」にも該当します。なおかつ、お客様らと新たな価値を共創しているため「価値共創型(※3)」でもあると思います。
※1 自社のパーパスや理念に基づいて設計されたタイプ。パーパスの延長線上にある顧客の行動を推奨したり、ブランドの価値観を深く感じられる体験、ブランドについて学べるコンテンツを提供したりする
※2 主に購入・利用金額や頻度に応じてベネフィットを付与するタイプのプログラム
※3 ブランドが生み出す価値や目指す世界観に共感してもらい、顧客とブランドがともに価値を作れるようなコンテンツを提供するタイプのプログラム
このように、昨今では優れたロイヤルティ プログラムほど複数の類型をまたがった形が主流になる──そうした方向に向かってきていると感じますね。
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スクラッチ開発にはメリットもあるが……
MZ:加藤様に続けて伺います。Beauty Keyは2022年9月のローンチ初日にアプリストア全体で6位、ライフスタイル部門では1位を取るなど、大きな成功を収めていますが、この成功の要因をロイヤルティ プログラムの視点からどのように分析できるでしょうか?
加藤:資生堂様のファンの数から考えて、アプリのダウンロード数は今後ますます増えていくでしょうが、ロイヤルティ プログラムの視点で特に重要なのは、データに基づいた継続的な改善です。
たとえば「“どの”タイミングで“どの”ステージの会員に“何を”提供すれば、真に喜んでいただけて、再来店につなげられるのか」が、データを今後集めていくことでより可視化されると思うので、その上での施策改善が資生堂様のロイヤルティ プログラムの次なるポイントになってくるでしょう。
MZ:大槻様に質問です。話は転じて、Beauty Keyの開発において、特に困難だった点があれば教えてください。
大槻:Beauty Keyの開発にあたっては、アクセンチュアにも協力していただきましたが、今回はスクラッチでシステム開発を行いました。なので当然、工数とコストはかかりました。なぜスクラッチを選んだかというと、ワタシプラスの会員IDなど、既存の仕組みをBeauty Keyに連携していくにあたり、捨てられないものが多すぎたのです。また、システムやデータの出入りも非常に多岐にわたるため、それらのすべてをうまく連携しながらローンチできただけでも、奇跡的だと思っています(笑)。
大槻:ただ、社内メンバー自身が「こんなソリューションがあったんだ」と理解するためにも、スクラッチで開発プロセスを内製で取り組むことにも意義があったとも感じています。
工数を抑えつつも、有効なロイヤルティ施策を実施するには
加藤:今、大槻さんにご説明いただいた資生堂さんのスクラッチを通じて社内理解も合わせて進めるアプローチは見習うべきだと思います。一方で、「スクラッチでシステム開発するにはリソースが足りない」という企業も多く存在するのではないかと思います。
当社では、前述のロイヤルティ プログラムを設計から実装・運用まで一気通貫で支援するSaaS「Marigold Loyalty(マリーゴールド ロイヤルティ)」を提供しています。これにより、工数もリソースも最小限の費用で、ロイヤルティ プログラムを設計することができます。
また、当社ではロイヤルティ施策設計に関するコンサルティングを行っているのですが、「ロイヤルティ プログラムをとにかく作りたい」と、やや漠然とした相談を頂く機会が多いです。そこからいかに解像度を上げて、戦略設計から顧客の態度変容をきちんと促す施策の立案までを支援させていただきます。
具体的なアイデアの一例
バッジ戦略……たとえば、書籍を販売する事業者が顧客に「本の購入頻度を増やしてもらいたい」「書評をSNSに投稿してもらいたい」と望む場合、「バッジ」を付与するのも一手だ。ポイントを提供するよりもコスト効率が良く、蒐集を好む人には刺さる施策になるだろう。MZ:最後に、お二人の今後の展望について教えてください。
大槻:昨今、お客様へのタッチポイントや消費に対する価値観は多様なものとなりました。こうした変化を受け入れつつも、Beauty Keyの本来の目的はぶらさずにいきたいと思います。それは「肌を通じてお客様の人生に寄り添い、日々楽しんでお化粧してもらうことを願い、それを叶える」ことです。この軸を保ちつつ、今後もBeauty Keyのサービスを進化させていきたいと思います。
加藤:日本のロイヤルティ プログラムは、主に購入に基づくポイントプログラムに偏っています。しかし、七つの異なる種類のロイヤルティ プログラムや、資生堂インタラクティブビューティー様が取り入れているような方法を参考にして、アクションベースのプログラムを増やすことで、ブランド企業と顧客の結びつきをより強くすることができると考えています。
ウェビナー「Marketing DX Academy by Cheetah Digital」
Beauty Keyに見るロイヤルティ プログラムの可能性
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