BtoBビジネスに何が起きているのか
今回紹介する書籍は『新版 BtoBマーケティング:DX時代の成長シナリオ』(東洋経済新報社)。著者の余田拓郎氏は慶應義塾大学大学院の経営管理研究科 教授でいらっしゃり、マーケティング戦略やBtoBマーケティングを専門に研究をされています。
本書は、2011年に出版された余田氏の著作『BtoBマーケティング―日本企業のための成長シナリオ』を今の時代に合うように大幅改訂したもの。BtoBマーケティングの戦略論理について、インターネットの浸透やインサイドセールスの普及などDX時代の変化を踏まえ、加筆・修正した内容となっています。
本書のはじめに、余田氏は近年BtoB企業を取り巻く環境変化として「顧客企業の変化」を挙げました。同氏は「組織購買は旧来の枠組みから多様に変化しており、顧客との関係構築においては、従来どおりの人的営業に依存したやり方だけでは効率が悪くなっている」と説明。そのためBtoB領域でもBtoCのマーケティング同様に、顧客の購買プロセスを理解した適切な施策が求められるようになったといいます。
では近年のBtoBビジネスはどのように変化しており、また効率的なマーケティング施策を行っていくために企業はどうすべきなのでしょうか。
BtoB企業にブランディングが必要な理由
BtoB企業の顧客に起きている変化について、企業間競争のグローバル化などが挙げられます。加えて「調達・購買の集中化」と「購買の小規模分散化」が同時に進行していると余田氏は指摘しました。
調達・購買の集中化とは、購買の意思決定に経営者層が関与するケースが増えていることです。したがって、営業を通じた接触が難しい層へのアプローチ手法を考える必要が出てきます。一方、購買の小規模分散化とは、経営の迅速性が求められるために現場への権限委託が進んでいます。余田氏によれば購買専門の担当者が減ることで、よりBtoCに近い購買行動がとられるケースも多くなってきています。
近年、この一見正反対に見える2つの変化が、市場の中で起こっているのです。この状況を踏まえ、BtoB企業であってもビジネス広告やブランディングといった施策が必要だと、余田氏は語りました。
特にDXが進む中、デジタル環境下では従来の対人営業と違い非対人でのコミュニケーションが増加します。購買に際しブランドイメージの持つ影響力がより強まるため、ブランディングが重要になるのです。
今、取り組むべきことは「情報発信」にあり
さらにBtoB購買において、Webサイトの貢献度はBtoCと比べはるかに高いと余田氏。そこで同書では、トライベック・ブランド戦略研究所が実施したBtoBにおける情報源の調査結果を紹介しました。
同調査では、オフラインでの説明やカタログに大きな差をつけ1位に「企業のウェブサイト」がランクイン。4位には「業界サイトや専門サイト」が入っています。
【仕事上の製品・サービスの情報源(複数回答)】
1位:企業のウェブサイト、66.7%
2位:カタログ・パンフレット、42.3%
3位:営業員・技術員の説明(オフライン)、40.8%
4位:業界サイトや専門サイト、39.9%
5位:専門新聞・雑誌、31.5%
この他、インターネット上の口コミが19.4%、企業発信のSNSは13.8%が情報源にしていると回答しました。そしてBtoB購買の特徴として「目的のある購買」を余田氏は挙げ、次のように説明しました。
何かの目的を持ってネットで検索するとか、潜在的サプライヤーに関する情報を収集するためにインターネットを使うといった具合に、関与が高い状態で行動している。
(中略)
こうしたBtoB購買の特徴を考えると、インターネットによる情報提供の効果は必然的に高くなる。
余田氏は、BtoB企業もこのようなコミュニケーションメディアを活用しない手はないと断言しました。さらに、近年利用が拡大しているメールマガジン・ニュースレターについても言及。キャンペーンや製品情報といった情報の伝達だけでなく、ブランディングの文脈での活用を推奨しました。
本書では、メディアの他にECという観点からBtoB企業が取り組むべきマーケティング施策についても提言。またBtoB企業の現在の課題からマーケティングの考え方、収益向上施策、革新戦略まで、今BtoB企業が向き合うべきマーケティングを包括的に解説した一冊となっています。
自社の顧客接点や競争力を強化したいBtoB企業の方や、直近の市場を理解し効果的な施策を打ちたいBtoBマーケターは、ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。