短期で広告を切り替える コンテンツと連動させて話題化に成功
短期間であえて広告デザインを切り替えることで、話題になった広告もあります。
2023年6月20日頃、渋谷駅前に「READY TO GAME WITH COFFEE?」のメッセージとともに、猫のイラストと「米津玄師」と書かれた縦長広告が出現しました。そして、6日後である6月26日朝には、別のデザインで描かれた同氏の広告に切り替わりました。

まず、「READY TO GAME WITH COFFEE?」は直訳すると、「コーヒーを飲みながらゲームをする準備は出来ましたか?」という意味になります。このメッセージの真意は、同時期に米津氏が楽曲を提供していた二つのコンテンツが関係します。
一つ目が、日本コカ・コーラの「ジョージア」です。同年6月19日から開始された新CM内で、米津氏は楽曲『LADY』の提供およびCMに出演。同時期に渋谷駅などでOOHが展開されたことで、米津氏のビジュアルが大きく描かれた広告は話題になりました。

二つ目が同年6月22日に発売されたゲーム「ファイナルファンタジー16」に対して、米津氏は楽曲『月を見ていた』を提供。
こちらも各地でOOHが展開され、ポスタービジュアルの美しさや発売を楽しみにするファンによるSNS投稿により話題になりました。

この米津氏が関わる二つのコンテンツから、「READY TO GAME WITH COFFEE?」のメッセージは「GAME=ファイナルファンタジー16」「COFFEE=ジョージア」を指していることが想定されます。
各コンテンツの広告が話題化しているタイミングで相乗りする形で注目を集めた後に、デザインを切り替える広告となっていました。もし単体で「READY TO GAME WITH COFFEE?」だけの出稿であれば、私を含め意図に気づけなかった方も多かったと思います。切り替え後の広告はある意味、種明かし的な側面もある広告となっていました。
「変化なし」を伝えて話題化 情報量が多い新聞広告の魅力
最後に、ユニークさで話題になった新聞広告の事例を二つ紹介します。

一つ目は、2023年4月25日に日経新聞で掲載されたガリガリ君の新聞広告です。
同広告では、ガリガリ君の「当たりスティック」の写真と「当たりつきやめるのをやめました。」というメッセージが印象的です。
同製品でコロナ禍をきっかけに当たりつきスティック廃止の検討がされていたことが書かれつつ、最終的にはやめることをやめて続けていくこと、続けていく上での正しいスティックの交換手段を記載した内容になっていました。

本来であれば、広告で告知する必要がない内容であるため、「当たりつきをやめる」のではなく「やめることをやめる」というメッセージは非常に印象的でした。
今回のメッセージを通して赤城乳業の葛藤が伝わると同時に、ユーザーを考え抜いた同社の方針にポジティブな反応がSNS上で多数見られました。
二つ目は、電力会社のLooopの新聞広告です。
同年3月11日に日本経済新聞で掲載されたもので、同広告は生成AI「ChatGPT」の回答が真ん中に描かれたデザインになっていました。当時、大きく注目を集め始めていたChatGPTの回答とUIデザインをそのままデザインに盛り込むことで興味を持たせる時流を活かしたアイデアでした。

ぱっと見の情報量は多い広告ですが、話題のトピックスに絡めたネタという点やトレンドを追うような人が多い日経新聞の読者層にもマッチしていた点から注目を集めました。
また、ChatGPTの回答は第三者的な視点の意見として受け取ることが出来るため、私は、企業の広告であるにも関わらずフェアな印象を抱きました。様々な場面で生成AIの回答を活用したコンテンツが多数出ていますが、広告でも今後活躍の場が増えることが期待できそうです。
新聞は、読者が減っていることから広告媒体の影響力を心配されるご意見をいただくこともあります。実際、約4,700万部(日本新聞協会参照)の日刊が発行されていた10年前と比較して、現在の日刊新聞の発行部数は2022年度で約3,000万部となってしまっており、部数の減少は明らかです。ネットメディアの充実もあり、影響力はかつてほど大きくなくなっています。
ただ、広告という側面で見ると、紙の新聞には他媒体にない特長が二つあります。
一つは「1回で発信できる情報量が担保されている媒体であること」で、もう一つが「180万部(日経新聞朝刊参照)を1日で流せる瞬間風速の強さ」です。活用タイミングは商材やメッセージによって分ける必要はありますが、依然強い広告媒体だと私は考えています。
今後も様々なオフライン広告をウォッチしていきます。下半期もどういった広告に出会えるのか楽しみですね。