最後発からマーケティング戦略で需要を創出
ヤマハファインテックはヤマハの楽器の量産を支える自動化技術を用い、電子機器メーカーや自動車メーカーに向けて電気検査や漏れ検査のソリューションを提供してきたBtoB企業だ。持続的な事業成長を図るために、超音波で食品包装用ヒートシール不良を検出する超音波検査機「ウルトラソニカ」を開発。新規の参入を計画した。
しかしシール検査市場は既に寡占市場であり、かつ、BtoBtoB領域特有の商品提供側と購買側での情報の非対称性がボトルネックとなった。いわゆる「1人マーケター」として新規事業開拓を担当することとなった長畑氏はフィールドセールスに頼った地道な開拓以外の方法を模索するため、長年のマーケティング知見を持つグループ内のヤマハへ協業をもちかけた。
組織横断のプロジェクトとして、まずはマーケティング研修が行われた。具体的には、アイディエーションを実施。ウルトラソニカの価値は何か、ユーザーの何を解決し実現するか考えた。ヤマハファインテック側からは様々なレイヤーのステークホルダーに参加してもらうことで、目線合わせと連携の強化を狙ったという。
アイディエーションでウルトラソニカのポジションや価値を定義したが、あくまでも自社内で考えたものにすぎない。リサーチツールを活用して、自社の顧客業界マップの作成など地道に分析を行った。また、推測も含めながら隣接する市場を掘り下げていき、競合他社のオーガニック検索などのWebトラフィックの分析や検索キーワードの分析やSEO対策、さらにヤマハファインテック内で購買・営業担当者の社内インタビューを実施し、多くのデータを組み合わせて戦略立案を実施した。
「マーケティング研修を兼ねたアイディエーションに加えて、自社の強みやヤマハが狙うべきターゲットとコアバリューを定めていきました」(金氏)
手探りで情報の棚卸しとリサーチのフローを整備した結果
ヤマハといえば楽器や音楽教室が浮かぶとおりメイン事業はBtoCだ。BtoBに向けてマイクなどの販売はしているが、産業用設備の戦略立案は初めてだった。そのため、狙うべき市場がどういったものなのか、当初はまったくわからなかったという。そこで金氏は情報を棚卸しし、リサーチのフローの手順を整備した。
包装シール市場の情報をどう取るのか?各ステークホルダーの情報を集め、自社の最終的に目指すポジションはどこか、現場のヤマハの想定している顧客に整合性があるか、調査でそれをどうクリアにするかを突き詰めていった。
「BtoBtoBの真ん中のBを狙うべきではないか」と仮定し、どのような顧客に最終的にリーチしたいのか、データや数値を加味して明らかにしていった。ヤマハにしかできない価値の見せ方は何か、自社の強みをどう明らかにしていくかをまとめていくと、BtoCマーケティングにおいては定石である3CとSTPという基本的なフレームワークに帰結したという。