コロナ禍を経て好業績!ユナイテッドアローズの取り組み
押久保:本日はZETAの山崎徳之さん、ユナイテッドアローズの藤原義昭さんと、DX推進のポイントやコマースの今と未来をテーマにお話ししていきたいと思います。
山崎:藤原さんとは以前から翔泳社のECzineのイベントなど、色々とご一緒する機会が多いですね。2021年にユナイテッドアローズさんへ転職された後も、変わらず活躍されている様子を聞いています。
押久保:この2年半というとコロナ禍の影響もあったと思いますが、ユナイテッドアローズさんは2023年3月期連結決算も好業績でした。藤原さんは同社のDX推進などを手掛けられてきましたが、どのようなお取り組みをしてきたのでしょうか。
藤原:マーケティング自体の何かを大きく変えたというより、組織の組み方や一つひとつの施策などをより時代に合わせた形にしてきました。当社は顧客のベースがあり、ブランドロイヤルティも高い会社です。しっかりリサーチをした上で、それぞれのお客様に何をどう出しわけていくかなど、細かい部分まで注力しましたね。
藤原:取り組みの一つとしては、2023年8月に会員向けのロイヤルティプログラムをリニューアルし、「UAクラブ」として開始しました。この他、オウンドメディアの強化なども行っています。
ユーザーを“ファン化”させるレビュー施策
押久保:ロイヤルティプログラム自体は昔からあり、実施している企業は多いと思います。その中でユナイテッドアローズさんでは、顧客と向き合い、ユーザー体験を突き詰めているのですね。
藤原:そうですね。その一つとしてZETAさんが提供されている「ZETA VOICE」を導入しています。これはサイト内にレビューコンテンツを実装できるレビュー・口コミ・Q&Aエンジンです。
UAクラブでは、お客様は買い物などを通じて貯めた「UAマイル」を「UAクーポン」に交換して次回以降の買い物などに利用でき、レビューを書くことでもマイルを貯めていただけます。もちろん商品を購入された方によるレビューは、まだ買っていない方の参考にもなります。実績としては「ZETA VOICE」を導入してたった1ヵ月で、レビュー数が30倍強になるなど盛り上がりを見せています。
山崎:ユナイテッドアローズさんのように当社の製品を掛け合わせて導入いただくことはシナジー効果が現れやすく、成果が一番出やすい傾向があります。またレビュー施策は、企業のDXに対する本気度でかなり結果に差が出やすいソリューションだと思います。レビュー数が少ないからといって何か致命的なことが起こるわけではないため、取り組まない企業も少なくありません。だからこそ、レビュー施策は差をつけられるポイントだと考えています。
また、企業がお客様の声から学べることも多々あるかと思います。実際、レビュー施策に力を入れたところ返品率が下がったという企業もあります。
藤原:レビュー、いいですよね。お客様と一緒にコミュニティを形成していると感じます。UAクラブは店舗とECが一体型なので、店舗で購入したものに対してもECサイト上でレビューが書けるようにしています。
山崎:レビューを書くことでお客様の“ファン化”が加速すると思います。「この商品の魅力をみんなに知ってほしい」といった、“推し活”をしている気分になるのでしょう。
藤原:お客様はのれん(ブランド)で集まりますが、最後は人から買う。これは店舗だけでなく、ECにも当てはまると思います。
「何を購入するか」ではなく「誰が勧めているか」を重視するお客様は、単品ではなくセット買いをするなど満足度が高い傾向にあります。信頼している販売員がお勧めするものなら、全部揃えてもいいと思えるのでしょう。このようなことをECで実現するには、やはりテクノロジーの活用が必要だと思います。
「ECと店舗で同じ体験を提供したい」とは思わない
押久保:「ECでも店舗と同じ体験を提供する」ことを目指しつつも、結局自動販売機のようなことしかできていない企業は多かったと思います。それがテクノロジーによって、近しい体験を提供できるようになったと。
藤原:僕は「ECと店舗で同じ体験を」とは考えていないんです。お客様はECと店舗で同じことをしたいと思っているわけではありません。たとえばECではなるべく早く効率的に、かつ自分なりの商品を見つけたいというニーズがある一方で、検索性のない店舗では、宝物探しのような買い物をしたい方が多いのではないでしょうか。
ECと店舗では、体験自体ではなく「意味合い」を同じにすることが重要であり、Howの部分は異なっても良いと考えます。店舗で求められる回遊性の良さは、ECではサクサク動くスピードといった意味合いになりますよね。そのために基盤の整備をするといった方法を取るでしょう。
押久保:山崎さんはECと店舗の違いについて、どのようにお考えですか。
山崎:私が思うにECと店舗の違いは、そこで扱われる情報に着目した場合「インターフェース」と「データの蓄積」があると思います。
インターフェースという意味では、直接お客様と店員がコミュニケーションを取れる店舗だからこそ得られる情報のインプットもあれば、ECだからこその網羅的なインプットもあり、善し悪しというよりはそれぞれに価値があると考えています。
一方でデータの蓄積として考える場合、店舗においては今までは各店員の記憶という形でしか蓄積できませんでしたが、ECの場合には行動履歴、レビューなど、デジタルならではのデータとして貯めていき、活用することができるようになったと思います。
押久保:確かにAmazonなども普通のEC(インターフェース)から始め、そこで蓄積されたデータ(アーカイブ)を使って、他の事業にどんどん拡大していますね。
山崎:今はECにおいては情報の入出力と蓄積はまとめて扱われることが多いかもしれませんが、今後は異なる特徴として活用されていくのではないかと思います。
顧客視点に立てているか?陥りがちなECの課題
押久保:お二人から見て、ECにおいて企業が直面しがちな課題は何がありますか?
山崎:サイトリニューアル時に苦労する企業は多いですね。
藤原:各社様々な事情があると思いますが、あれもこれもと試してみたくなり、本当に効果があるかわからないものまで詰め込んでしまう。結果、要件が膨らみ過ぎる場合があると思いますが、一番は顧客同士のUXが重要だと思います。
押久保:ユナイテッドアローズさんも、2022年3月には自社オンラインストアのリニューアルを実施されましたね。改善を図った点がありましたら教えてください。
藤原:「ユナイテッドアローズオンラインストア」から「ユナイテッドアローズオンライン」へ変更しました。商品を売るだけではなく、洗濯の仕方といったノウハウやスタッフによる気温別コーディネートの紹介など、コンテンツも含めたメディアにリニューアルしました。
また、ZETAさんが提供されているハッシュタグ活用エンジン「ZETA HASHTAG」を導入し、自動生成されたハッシュタグが検索結果ページや商品詳細ページに表示されるようにしています。
押久保:確かにサイトを見ているとき「自宅で洗える」のハッシュタグが出てきて、これいいなと思っていました。まさに顧客視点ですね。
山崎:元々ECは、商品を探す・決済、配送の3つが主な機能でした。そこに最近は、ユーザー経済圏を拡大するための機能が増えています。顧客視点の商品やサービスであればお客様の満足度も上がり、率先してソーシャルに発信してもらえることも期待できると思います。
DX推進のカギは、顧客視点にあり
押久保:藤原さんのお話をお聞きしていると、顧客視点を大切にされていると改めて感じます。
藤原:ECも店舗と同様、お客様に再来店していただくためには商品だけでは足りません。どうしたらお客様にまた来たいと思っていただけるか、体験全体を考えながら購入後のストーリーまで想像し、それをデジタル上で実現していく。そのためにテクノロジーとデータを活用しています。
押久保:ユナイテッドアローズさんは2023年5月に新中期経営計画のスローガン「感動提供 お客様と深く広く繋がる」を発表しています。カスタマーエンゲージメントは起こそうと思って起こせるものではありません。どうすればお客様がエンゲージしたくなるか、突き詰めて考えていくとやはり顧客視点になるのですね。
藤原:会社のカルチャーとして、顧客視点という意識がメンバーに浸透していることが大きいと思います。社長も含めた週次の営業報告会でお客様の声を共有するなど、社全体でお客様に向き合おうとする意思があります。
まずはお客様が本当に求めることは何か。どのようなことをすれば喜んでいただけるかを考えることを大切にしています。
山崎:当社のようなベンダーにおいては、良い製品を作り、かつ安く売らないことが重要だと考えています。よく価格戦略を販売戦略として使うケースを見ますが、本来価格戦略は製品戦略、すなわち製品の価値によって決めるべきものです。安売りは短期的には楽かもしれませんが、いずれは悪循環を生み出します。高く売れる良い製品を作ることが、長い目で見た場合に、お客様にとってもベンダーにとっても良いことだと思います。
押久保:「利益を上げたいなら値段を上げればいい」と他の方もおっしゃっていました。
山崎:そうです。値段を上げて売れなかったら、そもそもその商品が求められるものではないということですよね。
これからのコマースは、ユーザーを巻き込んだ経済圏作りへ
押久保:時間があっという間に過ぎてしまいました。最後に今後の展望についてお聞かせください。
藤原:今後はお客様理解をしっかりと行ったうえで、会社としてどのような価値を伝えられるか考えていくことが、より重要になると思います。「カットソーを何枚買ってもらおう」といった話ではなく、一人のお客様に長くお付き合いいただくことを目指していきます。
山崎:改めて今日藤原さんのお話を聞いて、今後はユーザーを巻き込んだ経済圏を作りあげていくことが重要になると感じています。サイト内のエンゲージメントを重視し、経済圏を活性化させるようになれば、中にいるユーザーがソーシャルに向け発信してくれるようになるでしょう。Cookie規制などもありますから、この流れがカギになるのは間違いないと考えています。
ユーザーを巻き込み健全な経済圏を作りあげていく。当社は企業様がそれを実現するためのツールを今後も提供していきたいと思います。
押久保:山崎さん、藤原さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。
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