原点回帰でCXに注力する動きが、新たな役職「CEX」を作る企業も
ルース:あと2つトピックスを挙げたいと思います。一つはCX(顧客経験)です。この考えは、田中先生の心に響くはずですよ。ブランド価値についてですから。
先生は、どのようにしてブランドの価値が創造されていくとお考えですか? 私はCXがブランド価値を引き上げるというのが、セオリーとして一つあると考えています。
CXとなり得るタッチポイントは、無数にあります。コールセンター、広告、ウェブサイト、SNSのほか、友人がそのプロダクトなりサービスについて話していたこともそうですし、パッケージをあけて使ったその瞬間など、あらゆる接点がCXとなり得ます。
昔、ほとんどのマーケターは、「私は広告の担当なんだよね。コールセンターは私の担当じゃないし、なにもわからないよ」「プロダクトにおかしなものが入っていても、私は何にもできないよ。広告担当だから」と言っていたはずです。
ですが、今はそうも言っていられません。実際に、いくつかの企業はChief Experience Officerを職業として置き始めています。その人は、「工場担当の皆さん、顧客から箱が空けにくかったという声が入っています」「コールセンターの皆さん、対応が悪かったというクレームが入っています」などと、チームのみんなに共有していく役割があります。結局は、こうした活動こそがマーケティングをより戦略的で、よりインパクトのあるものにする方法なのではないでしょうか。
田中:CXもずっと前からある考え方ですが、改めてより重要な論点になってきているということでしょうか。
ルース:エグゼクティブが、その重要性に気づき始めているのだと思います。会社の中でもCXを管理し、ここに投資をし始めています。
ブランドへの信頼が瞬時に失われる時代
ルース:5つ目のトピックスは「信頼と本物性」です。消費者は、自分たちが信頼している会社から買い物をしたいと思っています。これも新しい考えではありませんが、SNSやデジタルの発達により、信頼は以前より築きやすく、また壊れやすくもなりました。
私が紹介できるのは、今年の4月にビールのバド・ライト(Bud Light)に起きた大問題です。バド・ライトといえば、アメリカで一番売れているビールブランドの一つです。売上シェアも2023年3月までナンバーワンでした。ですが、今年の春に行ったキャンペーンが大炎上し、バト・ライトは25%もの売上をわずか数週間で失っています。アメリカで一番大きなビールブランドであったにもかかわらずです。これにはびっくりでした。